主人公はポワロと並ぶクリスティーの人気キャラクター、オバチャン探偵ミス・マープルである。 オープニングでモノクロの探偵映画が始まり、容疑者の集まった屋敷に主人公の警部が現れ、真犯人を名指ししようとしたところで、突然画面が途切れる。 実はこれ、村の小ホールで行われていた映写会で、クライマックスまできてフィルムが切れてしまったのだ。 さて、真犯人は誰だったのだろう、と首を捻る村人たちに見事な推理を披露し、颯爽とホールを出て行くのが主人公マープル(アンジェラ・ランズベリー)。 この導入部はなかなかよく出来ていて、この時代のイギリス映画ならではのユーモアとウィット、おっとりとした優雅な雰囲気を感じさせる。 時代は1953年、この村はマープルが暮らす片田舎メアリ・セント・ミード。 ここでハリウッド映画の超大作『スコットランドの女王メアリー』が撮影されることになり、村を挙げての大歓迎を受けるところから本筋に入る。 この映画の主役は、久しぶりに銀幕に復帰するサイレント時代からの大女優マリーナ・グレッグ(エリザベス・テイラー)、監督は彼女の夫ジェイソン・ラッド(ロック・ハドソン)。 彼らが滞在するホテルで行われていたパーティーに、プロデューサーのマーティ・N・フェン(トニー・カーティス)、彼の妻でマリーナと共演する若手女優ローラ・ブルースター(キム・ノヴァク)がやってくる。 マリーナとローラはかつて大喧嘩をして警察沙汰になったことがあり、彼女たちの亭主ラッドとフェンも陰では互いに罵り合っている犬猿の仲。 この4人に扮したテイラー、ハドソン、カーティス・ノヴァクはちょうど1950年代、いずれも現実に大変な人気を博したスターばかりで、彼らにいがみ合う夫婦役を演じさせているところが面白い。 ちなみに、ハドソンが「妻に3度目のアカデミー主演女優賞を取らせるんだ」と息巻く場面があるが、テイラーは現実にも『バターフィールド8』(1960年)、『バージニア・ウルフなんか怖くない』(1966年)で2度オスカーを獲得している。 そのテイラーの出世作は少女の騎手を演じた『緑園の天使』(1944年)で、この映画ではマープル役のランズベリーがテイラーの姉役で共演していた。 さて、ホテルでの歓迎パーティーの最中、マリーナはヘザー・バブコック(モーリン・ベネット)という地元婦人会幹事につかまり、つまらない思い出話を延々と聞かされる。 本筋には何の関係もないように思われ、観ているこちらも首を傾げそうになった矢先、不意にマリーナの目が階段の壁にかかった聖母子像に釘付けになり、表情が固まってしまった。 このシーンのテイラーの表情は非常に印象的で、直後に起こる殺人事件の大きなキーポイントになる。 テイラー自身も本作の公開当時は「忘れられかけていた往年の名女優」と化していただけに、いま観ると異様な迫力も感じさせた。 脇を固めている役者の中では、狂言回しを務めるダーモット・クラドック警部役のエドワード・フォックスが一際光っている。 マープルの甥でもある彼は、熱心な映画ファンだとアピールしながらマリーナ、ローラ、ラッド、フェンに付きまとい、真相に迫っていく。 オールドファンには様々な楽しみ方のできる映画であり、真相が判明するラストはまことに痛切。 ウイルスや感染を忘れたくて観た古いミステリ映画に、こんなオチがついているとは想像もしなかった。 なお、邦題にある「クリスタル」は内容とは何の関係もない。 本作が公開された1980年は、作家・田中康夫のデビュー作『なんとなく、クリスタル』がベストセラーになっており、「クリスタル族」という流行語も生まれるなど、社会現象と化していたブームに便乗したのだろう。 ポワロが主人公の『ナイル殺人事件』(1978年)みたいな大作感を出そうとしたんだろうけど、いかにも当時の配給会社・東宝東和サンの考えそうな宣伝戦略ではあります。 オススメ度B。 A』(1954年/米)B 11『前科者』(1939年/米)C 10『化石の森』(1936年/米)B 9『白熱』(1949年/米)A 8『犯罪王リコ』(1930年/米)B 7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C 6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B 5『七つの会議』(2019年/東宝)A 4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B 3『奥さまは魔女』(2005年/米)C 2『フロントランナー』(2018年/米)B 1『運び屋』(2018年/米)A Share This Post navigation 赤坂英一(あかさか・えいいち) スポーツライター。 1963年、広島県竹原市出身。 法政大学文学部日本文学科(専攻・近世文学)卒。 最新刊は著者・広島東洋カープOB達川光男氏、構成・赤坂の『広島力』(講談社)。 『最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生』『プロ野球二軍監督 男たちの誇り』『キャッチャーという人生』(同)など野球ノンフィクション単行本の増補改訂版が電子書籍で発売中。 『失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち』(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。 ほかに『2番打者論』『すごい!広島カープ 蘇る赤ヘル』(PHP研究所)など。 毎週火曜、東京スポーツ『赤ペン!! 』連載中。 隔週水曜、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。 日本文藝家協会会員。 SOCIAL• Tweets Recent Posts AKASAKA cycle ライターのお仕事、ラジオ出演、取材、趣味のマウンテンバイク・トレイル、映画や書籍レビューなどなど。 赤坂英一の情報発信サイトです。 赤坂英一(あかさか・えいいち) スポーツライター。 1963年、広島県竹原市出身。 法政大学文学部日本文学科(専攻・近世文学)卒。 最新刊は著者・広島東洋カープOB達川光男氏、構成・赤坂の『広島力』(講談社)。 『最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生』『プロ野球二軍監督 男たちの誇り』『キャッチャーという人生』(同)など野球ノンフィクション単行本の増補改訂版が電子書籍で発売中。 『失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち』(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。 ほかに『2番打者論』『すごい!広島カープ 蘇る赤ヘル』(PHP研究所)など。 毎週火曜、東京スポーツ『赤ペン!! 』連載中。 隔週水曜、WEDGE Infinity『赤坂英一の野球丸』連載中。 東京運動記者クラブ会員。 日本文藝家協会会員。
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アガサ・クリスティーが書いた原題通りの邦題は、とても誌的で美しいです。 映画の邦題は「ナイル殺人事件」のヒットによって、それにあやかろうと変な邦題ばかりつけられましたね。 子供の頃に観ました。 なかなか面白かったし、人に病気をうつすと大変な事になるという事を、子供ながらに学びました。 無頓着で無知な行動が、他人に計り知れない悲劇をもたらす事を警鐘した映画でもありますね。 クリスティーの知見の鋭さに、こんにち、改めて思い知らされます。 仰る通り、若い方に観て欲しいですね。 現在、NHKBS1では、エボラ出血熱についてのドキュメタンリー番組を放送していて、視聴しています。 ワクチンを作る人間の努力のすばらしさと難しさを描いています。 タイムリーというか、あえて放送しているのでしょうね。 あ、終わっちゃいました。
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監督は、主演は。 が1962年に発表した『』(原題: The Mirror Crack'd from Side to Side)を原作としている。 ストーリー [ ] 1953年、 ミス・ジェーン・マープルの住むイングランドの片田舎 は、いつもの静けさが嘘のように賑わっていた。 久しぶりに映画に復帰する往年の大女優 マリーナ・クレッグや、映画監督である夫の ジェイソン・ラッドら、ハリウッドの撮影隊が ゴシントン荘に長期滞在し、大作映画 「スコットランドの女王メアリー」の撮影が行われるのである。 村をあげての歓迎ムードの中、ゴシントン荘ではマリーナがホステスとなって村の人々を招待し、盛大な交歓パーティーが催されようとしていた。 ミス・マープルもパーティーに参加しようと出かけたはいいが、子供が離した犬のリードに足をすくわれ転倒、足首を痛めてしまい、やむなく帰宅するはめとなってしまった。 そんな中、今回の映画のプロデューサー、 マーティ・N・フェンが妻である女優 ローラ・ブルースターを伴って現れた。 マリーナとローラは犬猿の仲であり、二人の共演はトラブルを引き起こすと懸念されていた。 そしてパーティーの真っ最中、戦時中にマリーナの慰問公演を見て感動したという村の女性、 ヘザー・バブコックが突然倒れ、急死してしまう。 パーティーで手伝いをしていたミス・マープルの家政婦 チェリーによると、ローラらが現れた際、ヘザーはマリーナに一方的に退屈な思い出話をまくしたてており、その時なぜか急にマリーナは、階段に飾られた 聖母子像を見つめて「凍りついて」いたという。 この時、マープルは呪いにかかった「シャーロット姫」の詩を暗唱する。 検死の結果、ヘザーの死因はカクテルに混入された毒によるものと判明。 しかもその毒入りのカクテルは、ジェイソンが作り、もともとマリーナが飲むはずのものだったこともわかった。 映画の撮影が開始されたが、ローラとマリーナの不仲がやはり障害になって一向に捗らない。 マリーナはコーヒーに毒が入っていると騒ぐなど、心配されていた精神状態は次第に悪化していく。 ミス・マープルの甥であるロンドン警視庁の クラドック警部は、関係者たちに事情聴取を始めるが、マリーナは自分に脅迫状が届いていることを誰にも明かさずにいたと告げる。 そんな折、ジェイソンの助手の エラ・ジリンスキーが毒殺される。 エラはジェイソンへの愛からマリーナの存在を疎み、不可解な行動をとっていたのだった。 ミス・マープルとクラドックは、ヘザーがマリーナの身代わりで殺されたという最初の前提が間違っていたのでは、と気づく。 ヘザーは何をマリーナに話していたのか。 そしてマリーナに新たな危機が迫っていた。 登場人物 [ ] (ジェーン・マープル) 演 - 、日本語吹替 - 事件の犯人を推理する老嬢。 足を怪我したため出歩くのを控えている。 マリーナ・グレッグ 演 - 、日本語吹替 - アメリカ人の大女優。 ようやく生まれた子に知的疾患があり、それ以来映画から遠ざかっていたが、今回主演で復帰しようとしている。 ジェイソン・ラッド 演 - 、日本語吹替 - ハリウッドのハンサムな映画監督。 マリーナの夫。 ローラ・ブルースター 演 - 、日本語吹替 - アメリカ人のグラマーな女優。 マリーナとはジェイソンをめぐって傷害未遂事件を起こした過去がある。 マーティ・N・フィン 演 - 、日本語吹替 - ハリウッドの映画プロデューサー。 妻であるローラの出番を増やそうと画策している。 ダーモット・クラドック 演 - 、日本語吹替 - ミス・マープルの甥での主任警部。 叔母の助けを借りながら事件の捜査をしている。 エラ・ジリンスキー 演 - 、日本語吹替 - ジェイソン・ラッドの助手。 ジェイソンを愛している。 ミセス・ドリー・バントリー 演 - () ミス・マープルの友人。 マリーナの宿舎・ゴシントン荘の元の所有者。 ヘザー・バブコック 演 - 地元婦人会幹事。 マリーナの熱狂的なファン。 パーティーの最中、急死する。 チェリー・ベイカー 演 - () ミス・マープル宅の家政婦。 有名人に会いたくて歓迎パーティーの給仕係を買って出る。 ベイツ 演 - ゴシントン荘の執事。 マーゴ・ベンス 演 - 映画の宣伝の為に雇われた女性カメラマン。 パーティーの模様を撮影していた。 牧師 演 - セント・メアリ・ミードの牧師。 毎週金曜の夜に教会で映画上映会を催すが、映画そのものについては疎い。 ミステリー映画の中の探偵 演 - 教会で上映されたミステリー映画の登場人物。 最後の謎解きの場面で映写機が故障してしまった為、ミス・マープルが犯人を言い当てる。 この映画の原題「鏡は横にひび割れて」はの詩「シャーロット姫」の一説で、この詩はに現れる美姫がモチーフとなっている。 シャーロットの塔に閉じ込められている姫は騎士に一目ぼれし、塔から抜け出す際に鏡が割れて呪いがかかり、ついには小舟に横たわって死んでいくというモチーフを指している。 なお元となったも参照の事。 マリーナとヘザーの関係が、アメリカ人女優の実体験と酷似しているため彼女がモデルとする説が存在するが、実際は偶然の一致であり、クリスティはティアニーの事を知らなかった。 日本語吹替について、出演したによると「久し振りに往年のアテ師が一堂に会した作品」だったため記念写真を撮ったといい、「とても演り易かった」「あんなキャスティングは二度と無かったし、もう無いでしょう」と語っている。 また、共演したともこの収録を覚えており、羽佐間も「あれがこういうメンバーが一同に集まって録った最後の作品だったんじゃないかなあ」と述べている。 公開前に、テレビでの告知スポットの最後に「 結末は絶対に教えないで下さい。 」のお約束が表示されていた。 2点を得ている。 出典 [ ].
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