メンヘラとは「心の健康に問題を抱えたひと」を意味するネットスラングです。 2ちゃんねるの「メンタルヘルス板」発祥の言葉で、元々は「メンヘル」「メンヘラー」などの語も用いられていました。 現在では精神疾患や発達障害も含め広範な「メンタルヘルス」に問題を抱えるひと、という意味で主に使われています。 さて、以上が「メンヘラ」の概要になります。 【関連記事】 たった100文字程度で説明可能な「メンヘラ」。 しかしこの「メンヘラ」という言葉、深掘りしようとすると、かなり膨大な歴史と背景を持つ複雑な言葉であることに気付きます。 この記事では「メンヘラ」の持つ様々な背景について、項を分けてがっつりと深堀していく予定です。 かなり長くなると思いますので、お時間の無い方は興味のある項目だけ読んでいただければと思います。 目次 メンヘラの語源 そもそも「メンヘラ」という言葉はいつ、どこで誕生したのでしょう。 によると、1999年11月に設立された「2ちゃんねる」の「躁鬱板」が発祥の地であることが判明しました。 「躁鬱板?聞いたことないぞ」 と思ったあなたは鋭い。 そう、この板は現在では通称メンヘラ板として知られている板のことです。 1999年に設立されたメンヘラ板ですが、当初の名称は「躁鬱板」でした。 それが「躁鬱だけでなく他の心の病も扱う板を作ってほしい」というユーザーの要望により、2000年8月18日、「メンタルヘルス板」に変化したのです。 これらの書き込みを見るだけで、この18年間で精神医療も大きく変わったのだと実感します。 「躁鬱病」は「双極性障害」に、「分裂症」は「統合失調症」に、主要な疾患の病名まで変わっています。 心の病を取り巻く社会環境、診断や治療も大きく変わりました。 隔世の感があります。 「メンヘラ」の前身「メンヘル」が生まれる この「メンタルヘルス板」が誕生してから、板の住人を指す言葉として、まず「メンヘル」という言葉が生まれました。 これは単純に「メン」タル「ヘル」ス板の略語かと思われます。 ただ、ここで注意が必要なのは、当初「メンヘル」はあくまで板を指す言葉だったということです。 2ちゃんねるの特定板を指す、極めて用法の限定される言葉として「メンヘル」はスタートしました。 現在のような「心の健康に問題を抱えたひと」の意味として使われるまでには若干の時間が必要です。 「メンヘル」が板の住人ではなく「心の健康に問題を抱えたひと」全般を指す言葉として使われ始めたのは2001年初旬あたりであると考えられています。 「メンヘルな俺」「メンヘルの恋人」などとメンヘルを形容詞として使う事例がこのあたりの時期から散見されるようになってきます。 現在の「メンヘラ」の用法と極めて近い用法です。 この「心の健康に問題を抱えたひと」としての「メンヘル」の用法が、今も生き続いている「メンヘラ」の語のルーツと言えるでしょう。 ちなみに2001年に「メンヘル」が誕生するまでは、メンタルヘルスに問題を抱えたひと全般を指す言葉は存在しませんでした。 「躁鬱さん」「ヒッキー」など個別の疾患や症状によって呼び名が分かれるか、「キ〇ガイ」「サイコ」などの侮蔑的なニュアンスを含む言葉しか当時は存在しませんでした。 「メンタルヘルスに問題を抱えたひと」全般を指す言葉、それも当事者によってお互いにつながるために用いられた言葉は「メンヘル」が史上初の言葉だったのです。 この「メンヘル」は時代と共に「メンヘラー」に変化していき、そこから現在の「メンヘラ」へと進化し、現在に至ります。 これが「メンヘラ」の語源を巡る物語です。 【参考記事】 蔑称としてのメンヘラ 「メンヘラの語源」では、メンヘラが2ちゃんねる発祥の言葉であること、またこの言葉が当事者たちが互いにコミュニケーションするために生まれた言葉であることを資料を元に紐解いていきました。 さて、しかし昨今の「メンヘラ」という語の使われ方には、やや侮蔑的なニュアンスも混じってしまっています。 「めんどくさい女」「構ってちゃん」的な意味合いで「メンヘラ」が使われることも多々あります。 当事者語としての「メンヘラ」が、なぜこのような蔑称としての用法も獲得してしまったのでしょうか。 によれば、このような現象が起こり始めたのは少なくとも2008年以前。 当事者語としての「メンヘル」の確立が2001年初旬ですから、2ちゃんねるメンヘラ板における当事者語としての「メンヘラ」の確立の後、どこかのタイミングでこの言葉がメンタルヘルス板の外に漏れ出してしまったようです。 【関連記事】 精神科医のの分析によれば、SNSの流行、「ヤンデレ」と呼ばれるキャラクター類型の流行などから、ゼロ年代後半ごろからこのような「蔑称としてのメンヘラ」が流行しはじめたようです。 メンタルヘルスで悩んでいる人全般ではなく、特定の精神疾患や病態をメンヘラと呼ぼうとする人も出て来るようになりました。 メンヘラ=境界性パーソナリティ障害、自傷行為、大量服薬……といった風にです。 もともと男女に関係の無い言葉だったはずなのに、メンヘラといえば女性……と思い込む人も現れるようになりました。 サブカルチャーの作品に登場するキャラクターも、メンヘラのニュアンス変化に一役買ったものと思われます。 ちょうどメンヘラが人口に膾炙していったのと同じ2000年代に、アニメやゲームの世界では、「ヤンデレ」と呼ばれる、病的な独占欲や愛憎関係を特徴とするキャラクター類型がちょっとした流行を迎えました。 メンヘラとヤンデレでは微妙にニュアンスが異なるところもありますが、両者は混じり合いながら用いられ、ほとんど同じ意味だと思っている人も少なくありません。 【参考記事】 メンヘラのキャラクター化、ファッション化 このような潮流からか、「ヤンデレ」的なキャラクターとして「メンヘラ」を描く作品も現れはじめました。 その名もずばり「メンヘラチャン」という名の漫画が発売されたり 「メンヘラ少女」と名付けられたイラストがTwitterで流行したりもしました。 この気持ちが届くまで、チャイムを鳴らし続けても良いですか?その前に、嫌われますか? — メンヘラ少女 menherashoujo 例え、身体だけが目当てだったとしても、私を必要としてくれるだけで、少しだけど気持ちが満たされる。 — メンヘラ少女 menherashoujo それはフィクションの世界のみに留まらず、現実世界のファッション文化にも影響を与えていきます。 特に原宿発症の「かわいい文化」の中では、上記の「ヤンデレ」的なイメージが「病みかわいい」として昇華され、ファッション文化の中で消費されるという現象も生じました。 現在、「病みかわいい」と「メンヘラ」の結びつきは強いが、その直接的な原因は「メンヘラチャン」というキャラクターが生み出されたことにあると思われる。 「メンヘラチャン」は「かわいい文化」に「メンヘラ」という言葉を持ち込んだとともに、メンヘラの側にも大きな影響を与えた。 その影響の一つが「メンヘラ」という言葉に対する外面イメージ(見た目、行動など視覚可能なイメージ)の強調であり、その結果相対的に内面イメージ(性格など視覚不可能なイメージ)は希薄化された。 その結果「メンヘラ」のイメージは「メンヘラチャン」以前とは多少変化し、外面イメージがより強い影響を持つことになった。 【参考記事】 つまり 当事者語としての「メンヘラ」から ・「めんどくさい構ってちゃん女」を指す蔑称としてのメンヘラ ・上の「めんどくさい女」をかわいくデフォルメしたキャラクターとしてのメンヘラ ・「ヤンデレ」的なキャラクターとしてのメンヘラ ・「病みかわいい」などファッション文化としてのメンヘラ などなど、様々なイメージが連想的に発生したのです。 そのため、現在の「メンヘラ」という語はある種の多義性を持っています。 このサイト、メンヘラ. jpでは「心の健康に問題を抱えたひと」を意味する、当事者語としての元祖「メンヘラ」の使用方法を守っていますが、キャラクター的なものとして「メンヘラ」が消費されるシーンもまだまだ少なくありません。 このような多義性が、次項で語る「ファッションメンヘラ」などの問題に結びついていきます。 「ファッションメンヘラ」「ガチメンヘラ」 前項では「心の健康に問題を抱えたひと」を指す言葉であった「メンヘラ」が、様々な理由によりある種の多義性を持ってしまった流れを解説しました。 「めんどくさい構ってちゃん」としてのメンヘラ 「心の健康に問題を抱えたひと」としてのメンヘラ このふたつを峻別するために、現在では「ファッションメンヘラ」「ガチメンヘラ」という言葉が使われ始めています。 つまり「めんどくさい構ってちゃん」的なひとは「ファッションメンヘラ」であり、「ガチメンヘラ」はそうではない本当に苦しんでいるひとだけであるという考え方です。 これは「心の健康に問題を抱えたひと」として「メンヘラ」を使っていた当事者たちが、多義化していく「メンヘラ」概念に対抗するために使いはじめた概念のように思われます。 しかし、そのようにして生まれた「ファッションメンヘラ」「ガチメンヘラ」という概念は、かえって当事者を苦しめる結果に陥ってしまっているように筆者は思います。 発達障害、精神障害、知的障害って、「グレーゾーン」みたいなものがありますよね。 ボーダーライン周辺で、「障害」なのかどうかわからない…みたいな。 周りの人から「君は障害者じゃない」と言われることもあれば、 「お前はマトモじゃない」など心無いことを言われることも。 その苦労は、計り知れないものだと思います。 それって、「メンヘラ」についても同じです。 本当の「メンヘラ」なのか、それとも「ファッションメンヘラ」なのか…。 そのグレーゾーンの方も苦労されていると思います。 自殺は失敗に終わり、地獄を見て帰ってきました。 自傷の度合いと自殺未遂を考慮し、そろそろ通院しようかとも思うのですが、まだそこまで自分はつらくないのではないか、病院にいくほどなのか、病院に行ってもいいのか、と悩んでいます。 私はまだ通院はしていないので、おそらく「ファッションメンヘラ」です。 でも、確かにわたしはつらいんです。 【関連記事】 自殺未遂で搬送されてまでも「まだ自分は本当に苦しんでいないのではないか」と考え、自分を「ファッションメンヘラだ」と考えてしまう。 自罰的傾向のあるメンヘラにとって、ファッションメンヘラという言葉は「お前はまだ十分に苦しんでいない」という圧力として機能します。 ファッションメンヘラも「心の健康に問題を抱えたひと」 そもそも「めんどくさい構ってちゃんの女」的な人と、「心の健康に問題を抱えたひと」を峻別する必要はあるのでしょうか。 ファッションメンヘラもまた、ある種の苦しみを抱えたひとなのではないか。 そのように筆者は考えます。 早速ですが、みなさん「ファッションメンヘラ」って知ってますか? はっきりとした定義はありませんが、Twitterなどで見る限りでは ・既往歴、診断がない ・かまってちゃん ・自傷の写真や動画をインターネットに放流する ・一般に広まる意味でのメンヘラ というような特徴があるのではないでしょうか。 このファッションメンヘラ、我々既往歴や診断があり自傷行為等を積極的に表に出さないメンヘラ いわゆる"ガチ"メンヘラ とは区別され、ときたま互いに敵視し合うような内容のツイートを拝見することも。 パーソナリティ障害というのは大きな枠組みの名称で、さらに 「A:変な行動を取りがちな、統合失調症に似た群」 「B:派手で突飛な行動を取りがちな群」 「C:不安や恐怖を感じやすい群」 の3つの群に分けられ、そこからまた10個に分かれます。 なかでも有名なのはB群に当てはまる、「境界性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」の2つではないでしょうか。 また、これらの障害に共通する特徴として ・極度の見捨てられ不安 ・衝動的な行動 ・不安定な人間関係 ・自殺や自傷を脅かす、または繰り返す などがあります。 あれ?ちょっと待って。 これって"ファッションメンヘラ"の特徴と似ていませんか? 【関連記事】 この記事で指摘されているように、「ファッションメンヘラ」の特徴の多くはある種のパーソナリティ障害と適合します。 そして、多くのパーソナリティ障害当事者は生活上の困難や苦痛を抱えて生活しています。 彼ら彼女らもまた「心の健康に問題を抱えたひと」つまり「メンヘラ」なのではないか。 そのように筆者は考えています。 当事者語としての「メンヘラ」の可能性 メンヘラ. jpでは「メンヘラ」を「心の健康に問題を抱えたひと」という意味で使っています。 そこには疾患名や診断の有無、ジェンダーや年齢の区別はありません。 なぜ、そのような「メンヘラ」用法に強く拘るのか。 それは我々が「メンヘラ」を紐帯のためのことばであると考えているからです。 (精神科医療においては)病名が変わったり重複したりすることもままあるのが日常診療の現実ですから、フォーマルな病名に基づいて当事者として語っているつもりでも、いつの間にか自分の病名が変わってしまった……といった事態が起こり得てしまいます。 主治医から「間違いなくこの病名!この病名だけです!」と言われているならともかく、病名がコロコロと変わり得るような患者さんや、複数の病名が重複している患者さんの場合は、フォーマルな病名にもとづいた当事者語りは簡単ではありません。 対して、メンヘラはインフォーマルな俗語です。 躁うつ病でもADHDでもパニック障害でも、メンヘラを名乗ってはいけないということはありません。 病名が変わろうが重複していようが、メンヘラはメンヘラです。 精神科や心療内科でフォーマルな病名をつけられていない人でも、メンタルヘルスに困難を感じてさえいればメンヘラを名乗って構わないのかもしれません。 こういったことは、フォーマルな病名では不可能なことです。 曖昧で、当事者の側から生じてきた言葉だからこそ、メンヘラという俗語にはこうした懐の深さがあります。 【関連記事】 (メンヘラは)メンタルヘルスに問題を抱えるという意味では、みな共通しています。 けれども、病名が異なっていたり、未診断の人と診断済みの人がいたり、ジェンダーや年齢、家庭環境、住んでいる地域もばらばらです。 それぞれが直面している問題も解決策も、一つとして同じものはないでしょう。 それでも、読者投稿やお悩み相談を通じて、ゆるやかに仲間や知識と「つながる」ことで、個人の状況もメンヘラ全体の状況も少しずつ変わっていくのかなと思います。 違いを忘れずに「つながる」ことは、きっと悪いことではないと確信しています。 【関連記事】 精神科領域において、診断名はコロコロと変わります。 また同じ診断名でも、個々の当事者の状況は年齢、家庭環境、収入、ジェンダーなどによってまちまちです。 このように、メンタルヘルスの領域においては紐帯、「つながり」を作ることは極めて難しい。 しかし、それを可能にする可能性を持つ言葉が「メンヘラ」なのではないか。 メンヘラ. jpではそのように考えています。 みんな違ってみんな苦しい、だからなんとか一緒にやっていこう。 メンヘラ. jpはそのような考えのもと「メンヘラ」という言葉を「心の健康に問題を抱えたひと」と定義し、幅広い、しかしアンフォーマルな俗語を通しての「つながり」を提供できればと考えています。 精神科医からのコメント 『メンヘラ』と世の中でカジュアルに言われるようになったけれど『メンヘラ』という言葉の根底にあるのは『生きづらさ』ではないかと僕は思う。 サリヴァンは「精神疾患は対人関係において生じる」と言った。 『人と人との関係性で辛い思いをしている人』とも『メンヘラ』は言い換えられるのかもしれない。 辛く、苦しい時には、逃げ場が必要だ。 『苦しい、辛い』といっても 『みんなそうだよ』と返されてしまったら、その気持ちはどこへ向ければいいのか。 その気持ちはおそらく自分にはね返り、余計に辛く、苦しくなるのではないか。 この逃げ場として『メンヘラ』という言葉が生まれたのではないかと僕は思っている。 『自分は今、辛く苦しい、だけどそれを否定されるのが怖くて言えない』だから『自分はメンヘラだ』というふうに表現するのかもしれない。 辛く、苦しい思いをしているけれど、それを聞いてもらえなかった、受け取ってもらえなかった人が生きづらさを抱えている傾向が多いように感じる。 悲しくて泣いているのに、『そんなことで、泣くんじゃない、悲しむんじゃない』と自然な感情の動きを否定される、こんな辛いことってなかなかないと思う。 理由はどうであれ『自分が辛い思いにいる』ということを表明するための言葉としてメンヘラは生まれたのかもしれない。 また、メンヘラという言葉は、辛さに悩む沢山の人たちをひとまとめにして示す言葉でもあるのがとてもいいことだと僕は思う。 悩んでいるのはあなた一人ではない。 同じように辛い思いをしている人がいる、というのは救いになるのではないだろうか。 メンヘラ. jpはメンヘラが一人ではなく、それぞれが辛さや苦しさを分かち合う場として成立しており、下手な薬よりも効果的なんじゃないか、とも思っている。 by 先生 【執筆者】 小山晃弘(HN : わかり手) 【プロフィール】 メンヘラなりに前向きに生きていきたい。 Twitter : かりん 2018年4月5日 ファッションメンヘラという言葉自体が「おまえはまだ苦しみが足りない」「おまえはもっと苦しめ」「もっと自罰しろ」という圧を含んだ言葉だなぁとは私も常々思います。 何より問題なのが、ファッションとガチを分ける事によって「こいつは面倒くさいからファッションだ」と容易く医療従事者でもない無関係な人間がレッテルを貼って、相手の「自意識を」コントロールしてしまえる。 自己肯定感が低く自罰に傾きがちなメンヘラにとってはこの、自意識を他人にコントロールされてしまう事ほど苦しい事はない。 自分が死ぬほど苦しくても、その苦しいと感じる自分の気持ちを「私はファッションだって言われるから」と信じられなくされてしまう。 これどう考えてもメンタルヘルスの問題を抱える当事者にとって害になってると思う。
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