蜘蛛 です が なにか 12。 蜘蛛ですが、なにか?

蜘蛛ですが、なにか? 12

蜘蛛 です が なにか 12

このレビューはネタバレを含みます 強者は君臨し、弱者の足掻きに項垂れる。 弱者は高みに焦がれ、強者に伸ばす手は届かない。 アニメ化企画が告知されてからはや二年、とうとう2020年放映開始と公表相成りました『蜘蛛ですが、なにか?』。 色々な意味で節目になるこの巻におけるエピソードは作中の歴史における大区切りとなる「人魔大戦」。 表の歴史においては総決算となるだろうそれを高密度な濃度をもって描き切ります。 主人公と魔王サイドが破滅的総力戦の準備を繰り出しながら、彼女たちの戦う理由を示した「十巻」。 あまりにも重い魔王の意志を知るすべもなく、それでも抗わんとする勇者の意志を描いた「十一巻」。 それらをまとめ、人族と魔族という二つの種族、それと現地民と転生者が混迷する戦いを演出するのがここ「十二巻」です。 表紙絵もその一連の流れを踏まえて結局叶うことのなかった「勇者」と「魔王」が対峙する構図に重きを置いているわけですね。 このふたりは同等の存在であったと胸を張って言えます。 詳細については後述しますが、魔王に比重を寄せたこの作品であるからこそなのです。 時に、基本三巻区切りで装いを変えるこのシリーズですが、上記三巻分の構成についてはあえて自らは表に出ずに大軍同士の潰し合いを演出しなければならない都合上、主人公の露出が控えめになっているのが特徴です。 おそらくは最後のエピソードに向けての布石も兼ねながら、若い巻数で去就だけが明かされてきたサブキャラたちの掘り下げと、「勇者」と「魔王」の立場が対等である構図の強化に終始した異色の構成かもしれません。 一~三巻では迷宮探索の苦難の中で成長し、基本的な人格を形成しました。 四~六巻では死の鬼ごっこを通して魔王たちと出会い、人とのつながりを学びました。 七~九巻では一度は力を失ったものの、仲間たちに支えられやがて自らのルーツを知ることになりました。 いずれも主人公が間違いなく主人公をやっていただけに、裏方に徹し、魔王(と読者)に俯瞰するための視点(モニター)を提供するに留まったのは一見すると主客転倒のプロットに思われるかもしれません。 シナリオの流れ自体は主人公と魔王が握っていたものの、十二巻本編をこの巻で描写された六つの戦線、それも「人族」と「魔族」のふたつの陣営に属する多数の視点に分散させたのは、人によって悪手と感じられるかもしれません。 また、ここ十二巻「人魔大戦」本戦に限っては、書下ろしを基本とする四~十一巻の流れに逆らうように無料で読めるWEB小説版の増補改訂版といった色合いが強く見受けられます。 けれど、そこは加筆がもたらした強さ、書籍版から加わった新顔や新描写がさらに重層的な人間模様を魅せます。 目次に並んだ十八の視点を皮切りに、彼ら彼女らが織りなす戦争は圧巻でした。 誰がとは言わないんですが、私からすれば比較的どうでもいい視点は流石に何人かいたものの、だからこそという全般的な流れを形成してくれていました。 主人公と魔王が使い潰すつもりの「魔族」陣営上層部は種族全体が先細りからの将来的な破滅という懸念を抱えています。 けれど、その認識は共通している中で、半端な覚悟と知識しか持てていない連中を皮切りに、終盤におけるアーグナー&バルトという傑物の生き様と最期につなげていきます。 「システム」の深層こそ知らないものの「魔族」という社会そのものを背負わんとし、あがき続ける宿将「アーグナー」。 次代を担う俊英の一人でありながら、まっすぐで武骨な正義しか持てずに兄と部下たち、そして惚れた女のことを思い続けた不器用な男「バルト」。 同じ死の運命に振り回されるしかないのだとしても、覚悟と矜持の持ちようによってかくも違うのかと唸らされた思いです。 九巻から長く顔を付き合わせたものですから、彼らの死は実に感慨深かったです。 主人公は自ら戦局に介入し、彼らを救出するタイミングも持ちはしたんですが、ここで散っていく男たちへ花道を持たせるべくあえて干渉せずに終わらせたのが心憎いところかもしれません。 そして、その死の当事者になったのが十一巻でその人となりが詳細に描写された勇者ユリウス一行でした。 あえて言うまでもないことですが、ここまでの積み重ねによって読者が感情移入の対象にしている主人公と魔王ですが、別に彼女らは絶対的な正義として描かれているわけではありません。 主人公たちが「双方が殺されることだけを目的とした戦争」を仕掛けるってのは、よく考えなくても危ないんですよ。 これは私見なんですが、世界のために死んでいく命を単に数字としてだけ扱って終わらせると、作品世界自体がどうでもいいもので終わってしまう怖さがありますから。 「主人公」の踏み台として終わるだけの脆い世界ではないのです、ここは弱者でも自分なりの誇りをもって、なにかを為すための戦いを挑むための、残酷な世界なのですから。 かつての主人公がそうしたように。 よって、大義のために死んでいく兵士たちを惜しみ、悼む勇者の視点をなくして「年表」で語られるだけのダイジェストで終わらせてしまってはこれから新展開を迎える上で緊張感が保てなかったかもしれません。 読み終わってみれば、ユリウスたちは作品全体に一本芯を通すために絶対に外せないキャラクターに育ちました。 完結する前のタイミングでこれを言うのは大言壮語になってしまいますが、これは断言できます。 庶民派で世知辛いけど生き方に聡いベテラン冒険者の仲間「ジスカン」と、その彼が大いに買っている元盗賊の仲間「ホーキン」の決戦前夜の酒の酌み合いは大いに胸に来ました。 正面戦力を見ただけでは冒険は務まらないって着眼には目を見張りましたし、市井の人々の延長線上の目線から「この世界」は確かに存在するんだって実感をもらった意味で間違いなく本作最高の一幕のひとつでした。 そうして迎えた決戦の背景ではあまたの人命が費やされている中、ユリウスは仲間たちの犠牲を乗り越えて、目の前の巨大な敵に挑みます。 勇者のパートナーとして設定されながらも、どこまでも普通の女の子だった聖女「ヤーナ」の恋物語を受け取ることなく、それでも命のバトンを受け継いでステータスの差を覆し、奇跡と言えるほどの勝利をつかみ取ります。 ……とはいえ結論から言えば、もしくは既読者すべてが知ることとして魔王に届く以前の問題だったんですが、それでも彼らの言葉にならない魂の叫びは高みに座す主人公と魔王に届きました。 勇者ユリウスもまた主人公だったんだなと思います、すべての手綱は我らが主人公「蜘蛛子」こと「白織」が握っていたとしても感服せざるを得ませんでした。 以上のように、対比構造を明確にしてその先に通じる「なにか」を残しつつ、この構成を中支えしたのが転生者とその関係者、深層を知らされた現地民でした。 熱い少年と冷めた少女の腐れ縁的ジュブナイルやってるアサカ&クニヒコ、その若さと可能性に惹かれつつ強さのその先を求めようとする「相対的な強者」に過ぎないメラゾフィスの苦悩。 そのメラゾフィスが仕える主であり、まぁ「絶対的な強者」であることに変わりはないソフィア。 そのソフィアもまた血のにじむような努力をして強さを手に入れたことに変わりはないんですが、傍から見ると天然で悪気のないままマイペース街道を邁進しています。 で、彼女の引力に惹かれて勝手に転落していったエリートの「ワルド」くんと、彼女が関知しないうちに転落人生を送りつつもヤケクソ気味でそれを満喫するしかない元令嬢の「フェルミナ」さんの姿がなんとも涙を誘います。 彼と彼女も既刊で名前は出ていて、書籍版では十一巻でそのさわりは触れられていたんですが、肉体的なだけでなく精神的な「強さ」に惹かれる相対的弱者の視線はなんとも切ないものです。 などのように弱者と強者の壁を様々な登場人物の目線から形を変えながらも一貫して描くことで、屈折した当人同士の感情に至らしめるのが、単純に強い弱いの勝負で終わらせない複雑な感情を思わせて好きですね。 そういった意味では絶対的弱者から成りあがった主人公(と読者)の共感を誘って、初心忘れるべからずの心境に至らせてくれます。 そういった意味では集大成でありながら原点回帰的巻であったのかもしれません。 あと、ソフィア目線が最も信頼するメラゾフィスに向けるもの以外は大体コメディチックになってしまうのがこれまた温度差を感じられて笑ってしまいつつ、やはりどこかが物悲しいという謎の経験を味わうことができました。 あと、輝竜先生の描くフェルミナさんは見た目は木陰と文庫本をセットにいてそうな令嬢なのに曲者感と苦労性が不思議と似合っていて好きです。 ソフィアとの純粋に仲が悪いだけの悪友って関係性も地味に好きですね。 ヒットです。 ソフィア周りの人間関係をしっかり固めたという意味で、彼女のファンにとっては結構なサービスになった気がします。 そうやって笑いどころはしっかり用意されて緩急はしっかりしながら、その「ゆるさ」が強者の悪気のない残酷さに転じてゾッとさせられるのも上手いわけなんですが。 だからこそ最後に勇者たちが見せた輝きを前に、最低限の設定目標は達成したものの前途多難な新展開の幕開けを予感させるわけです。 次が「十三巻」という紛れもない凶数であるならなおのこと。 WEB版で先に公開され、軽々に達成した「前提条件」を知っている読者ならわかるかもしれませんが、単に「敵」を倒せば終わりという簡単な条件じゃないうえに、難易度が上がってくるここからが怖いんです。 けれど「死」という物語の退場さえ無駄にはならないことを、主人公は「これまでの成長」で証明しました。 なら見届けることができるでしょう。 凶数はきっと邪神の眷属たる主人公の前では吉数に転じるのですから。 レビューの続きを読む 新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。 ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!• ・買い逃すことがありません!• 現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。 ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。 配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。 ご契約中は自動的に販売を継続します。 不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。 お支払方法:クレジットカードのみ 解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です 続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。 ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!• ・買い逃すことがありません!• ・いつでも解約ができるから安心!• 現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。 ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。 配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。 ご契約中は自動的に販売を継続します。 不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。 お支払方法:クレジットカードのみ 解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能です Reader Store BOOK GIFT とは ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。 贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK! ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。 お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。

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蜘蛛ですが、なにか? 12

蜘蛛 です が なにか 12

前巻に引き続き、主人公以外のキャラ視点のみ。 全体としての話が全く進みません。 読み比べたいとか、どうしても続きが読みたいとまでは思えないのでWeb版は未読ですが、Web版で書かれていない場面なら蛇足と感じる。 もしかして、まだWeb版完結してないとか? してないならエタるんでしょうね。 前々巻で読者に先の展開を開示している状態で二巻続けてのお預けとかいらない。 書くなら外伝とかにして、本編と分けて欲しかった。 せめて魔術やシステムの真相に軽くでも触れる場面があったり、キャラの掘り下げになるなら良かったけど特に掘り下げられたキャラはなし。 経歴や心情なんかも羅列されてるけど、こんなもんキャラの掘り下げじゃないから一巻丸々使う必要はない。 何より、作者が書きたくて書いたんじゃなさそうなくらい、面白くなかった。 それが二巻続けてって、読者にとっては苦行。 引き延ばしだとしたら、酷すぎて笑えない。 キャラクターが苦難に耐え忍んだ後の大逆転はカタルシスあるけど、読者が耐え忍んで続き読んでも、得られるのは徒労感だけかと。 ほんまに終わるの? これ。

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蜘蛛ですが、なにか? 12 (カドカワBOOKS)

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ネタバレ Posted by ブクログ 2020年01月12日 強者は君臨し、弱者の足掻きに項垂れる。 弱者は高みに焦がれ、強者に伸ばす手は届かない。 アニメ化企画が告知されてからはや二年、とうとう2020年放映開始と公表相成りました『蜘蛛ですが、なにか?』。 色々な意味で節目になるこの巻におけるエピソードは作中の歴史における大区切りとなる「人魔大戦」。 表の歴史 においては総決算となるだろうそれを高密度な濃度をもって描き切ります。 主人公と魔王サイドが破滅的総力戦の準備を繰り出しながら、彼女たちの戦う理由を示した「十巻」。 あまりにも重い魔王の意志を知るすべもなく、それでも抗わんとする勇者の意志を描いた「十一巻」。 それらをまとめ、人族と魔族という二つの種族、それと現地民と転生者が混迷する戦いを演出するのがここ「十二巻」です。 表紙絵もその一連の流れを踏まえて結局叶うことのなかった「勇者」と「魔王」が対峙する構図に重きを置いているわけですね。 このふたりは同等の存在であったと胸を張って言えます。 詳細については後述しますが、魔王に比重を寄せたこの作品であるからこそなのです。 時に、基本三巻区切りで装いを変えるこのシリーズですが、上記三巻分の構成についてはあえて自らは表に出ずに大軍同士の潰し合いを演出しなければならない都合上、主人公の露出が控えめになっているのが特徴です。 おそらくは最後のエピソードに向けての布石も兼ねながら、若い巻数で去就だけが明かされてきたサブキャラたちの掘り下げと、「勇者」と「魔王」の立場が対等である構図の強化に終始した異色の構成かもしれません。 一~三巻では迷宮探索の苦難の中で成長し、基本的な人格を形成しました。 四~六巻では死の鬼ごっこを通して魔王たちと出会い、人とのつながりを学びました。 七~九巻では一度は力を失ったものの、仲間たちに支えられやがて自らのルーツを知ることになりました。 いずれも主人公が間違いなく主人公をやっていただけに、裏方に徹し、魔王(と読者)に俯瞰するための視点(モニター)を提供するに留まったのは一見すると主客転倒のプロットに思われるかもしれません。 シナリオの流れ自体は主人公と魔王が握っていたものの、十二巻本編をこの巻で描写された六つの戦線、それも「人族」と「魔族」のふたつの陣営に属する多数の視点に分散させたのは、人によって悪手と感じられるかもしれません。 また、ここ十二巻「人魔大戦」本戦に限っては、書下ろしを基本とする四~十一巻の流れに逆らうように無料で読めるWEB小説版の増補改訂版といった色合いが強く見受けられます。 けれど、そこは加筆がもたらした強さ、書籍版から加わった新顔や新描写がさらに重層的な人間模様を魅せます。 目次に並んだ十八の視点を皮切りに、彼ら彼女らが織りなす戦争は圧巻でした。 誰がとは言わないんですが、私からすれば比較的どうでもいい視点は流石に何人かいたものの、だからこそという全般的な流れを形成してくれていました。 主人公と魔王が使い潰すつもりの「魔族」陣営上層部は種族全体が先細りからの将来的な破滅という懸念を抱えています。 けれど、その認識は共通している中で、半端な覚悟と知識しか持てていない連中を皮切りに、終盤におけるアーグナー&バルトという傑物の生き様と最期につなげていきます。 「システム」の深層こそ知らないものの「魔族」という社会そのものを背負わんとし、あがき続ける宿将「アーグナー」。 次代を担う俊英の一人でありながら、まっすぐで武骨な正義しか持てずに兄と部下たち、そして惚れた女のことを思い続けた不器用な男「バルト」。 同じ死の運命に振り回されるしかないのだとしても、覚悟と矜持の持ちようによってかくも違うのかと唸らされた思いです。 九巻から長く顔を付き合わせたものですから、彼らの死は実に感慨深かったです。 主人公は自ら戦局に介入し、彼らを救出するタイミングも持ちはしたんですが、ここで散っていく男たちへ花道を持たせるべくあえて干渉せずに終わらせたのが心憎いところかもしれません。 そして、その死の当事者になったのが十一巻でその人となりが詳細に描写された勇者ユリウス一行でした。 あえて言うまでもないことですが、ここまでの積み重ねによって読者が感情移入の対象にしている主人公と魔王ですが、別に彼女らは絶対的な正義として描かれているわけではありません。 主人公たちが「双方が殺されることだけを目的とした戦争」を仕掛けるってのは、よく考えなくても危ないんですよ。 これは私見なんですが、世界のために死んでいく命を単に数字としてだけ扱って終わらせると、作品世界自体がどうでもいいもので終わってしまう怖さがありますから。 「主人公」の踏み台として終わるだけの脆い世界ではないのです、ここは弱者でも自分なりの誇りをもって、なにかを為すための戦いを挑むための、残酷な世界なのですから。 かつての主人公がそうしたように。 よって、大義のために死んでいく兵士たちを惜しみ、悼む勇者の視点をなくして「年表」で語られるだけのダイジェストで終わらせてしまってはこれから新展開を迎える上で緊張感が保てなかったかもしれません。 読み終わってみれば、ユリウスたちは作品全体に一本芯を通すために絶対に外せないキャラクターに育ちました。 完結する前のタイミングでこれを言うのは大言壮語になってしまいますが、これは断言できます。 庶民派で世知辛いけど生き方に聡いベテラン冒険者の仲間「ジスカン」と、その彼が大いに買っている元盗賊の仲間「ホーキン」の決戦前夜の酒の酌み合いは大いに胸に来ました。 正面戦力を見ただけでは冒険は務まらないって着眼には目を見張りましたし、市井の人々の延長線上の目線から「この世界」は確かに存在するんだって実感をもらった意味で間違いなく本作最高の一幕のひとつでした。 そうして迎えた決戦の背景ではあまたの人命が費やされている中、ユリウスは仲間たちの犠牲を乗り越えて、目の前の巨大な敵に挑みます。 勇者のパートナーとして設定されながらも、どこまでも普通の女の子だった聖女「ヤーナ」の恋物語を受け取ることなく、それでも命のバトンを受け継いでステータスの差を覆し、奇跡と言えるほどの勝利をつかみ取ります。 ……とはいえ結論から言えば、もしくは既読者すべてが知ることとして魔王に届く以前の問題だったんですが、それでも彼らの言葉にならない魂の叫びは高みに座す主人公と魔王に届きました。 勇者ユリウスもまた主人公だったんだなと思います、すべての手綱は我らが主人公「蜘蛛子」こと「白織」が握っていたとしても感服せざるを得ませんでした。 以上のように、対比構造を明確にしてその先に通じる「なにか」を残しつつ、この構成を中支えしたのが転生者とその関係者、深層を知らされた現地民でした。 熱い少年と冷めた少女の腐れ縁的ジュブナイルやってるアサカ&クニヒコ、その若さと可能性に惹かれつつ強さのその先を求めようとする「相対的な強者」に過ぎないメラゾフィスの苦悩。 そのメラゾフィスが仕える主であり、まぁ「絶対的な強者」であることに変わりはないソフィア。 そのソフィアもまた血のにじむような努力をして強さを手に入れたことに変わりはないんですが、傍から見ると天然で悪気のないままマイペース街道を邁進しています。 で、彼女の引力に惹かれて勝手に転落していったエリートの「ワルド」くんと、彼女が関知しないうちに転落人生を送りつつもヤケクソ気味でそれを満喫するしかない元令嬢の「フェルミナ」さんの姿がなんとも涙を誘います。 彼と彼女も既刊で名前は出ていて、書籍版では十一巻でそのさわりは触れられていたんですが、肉体的なだけでなく精神的な「強さ」に惹かれる相対的弱者の視線はなんとも切ないものです。 などのように弱者と強者の壁を様々な登場人物の目線から形を変えながらも一貫して描くことで、屈折した当人同士の感情に至らしめるのが、単純に強い弱いの勝負で終わらせない複雑な感情を思わせて好きですね。 そういった意味では絶対的弱者から成りあがった主人公(と読者)の共感を誘って、初心忘れるべからずの心境に至らせてくれます。 そういった意味では集大成でありながら原点回帰的巻であったのかもしれません。 あと、ソフィア目線が最も信頼するメラゾフィスに向けるもの以外は大体コメディチックになってしまうのがこれまた温度差を感じられて笑ってしまいつつ、やはりどこかが物悲しいという謎の経験を味わうことができました。 あと、輝竜先生の描くフェルミナさんは見た目は木陰と文庫本をセットにいてそうな令嬢なのに曲者感と苦労性が不思議と似合っていて好きです。 ソフィアとの純粋に仲が悪いだけの悪友って関係性も地味に好きですね。 ヒットです。 ソフィア周りの人間関係をしっかり固めたという意味で、彼女のファンにとっては結構なサービスになった気がします。 そうやって笑いどころはしっかり用意されて緩急はしっかりしながら、その「ゆるさ」が強者の悪気のない残酷さに転じてゾッとさせられるのも上手いわけなんですが。 だからこそ最後に勇者たちが見せた輝きを前に、最低限の設定目標は達成したものの前途多難な新展開の幕開けを予感させるわけです。 次が「十三巻」という紛れもない凶数であるならなおのこと。 WEB版で先に公開され、軽々に達成した「前提条件」を知っている読者ならわかるかもしれませんが、単に「敵」を倒せば終わりという簡単な条件じゃないうえに、難易度が上がってくるここからが怖いんです。 けれど「死」という物語の退場さえ無駄にはならないことを、主人公は「これまでの成長」で証明しました。 なら見届けることができるでしょう。 凶数はきっと邪神の眷属たる主人公の前では吉数に転じるのですから。

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