1.アビガンの作用の仕組み(作用機序) アビガンの効果を考えていくにあたって、どのようにしてアビガンが効果を発揮するのかを知る必要があります。 インフルエンザウイルスが感染してからどのようにして体内で増殖していくのか、そしてインフルエンザ治療薬がどのようにしてそれを防ぐのか、詳しくみていきましょう。 1-1.インフルエンザの増殖機序について アビガンの効果や副作用を手っ取り早く知りたい方は、2の「アビガンの効果について」から読んでいただければ幸いです。 インフルエンザの増殖は以下の3つの過程を経て増殖します。 インフルエンザが体内への付着• インフルエンザウイルスのRNA・タンパク質の合成• インフルエンザウイルスの放出 インフルエンザウイルスは自分で増殖はできません。 ヒトの細胞を使って増殖して、それをばらまくことで周囲の細胞に感染を広げていきます。 インフルエンザウイルスが口や鼻から入ってくると、身体の細胞に侵入してきます。 そして人の細胞の中で、ウイルスのRNAという遺伝子やタンパク質を合成していくことで増殖します。 そして新しくできたインフルエンザウイルスが、感染細胞から飛び出して周囲の細胞に感染を広げていきます。 HAは16種類、NAは9種類あります。 インフルエンザA型では、このHAとNAの組み合わせで変異を起こすため、新型が出現します。 自然界では50種類以上の組み合わせが存在するといわれ、予防接種はその中で今年は流行するだろうと予想される何種かを打ちます。 そのため予想された以外のウイルスが感染すると、インフルエンザワクチンを摂取したとしてもインフルエンザに罹患してしまうのです。 1-2.抗インフルエンザ薬の作用機序と種類 アビガンは、RNA複製の過程を阻害する新しい薬剤です。 今まで日本で使われている抗インフルエンザ薬は全て細胞からの放出を阻害する薬剤(ノイラミニダーゼ阻害薬)です。 赤で示した4剤が日本で現在おもに使われているインフルエンザ治療薬です。 この4剤をまとめてノイラミニダーゼ阻害薬と言います。 今までのインフルエンザ治療薬の作用機序とは全く異なります。 インフルエンザウイルスは自分だけでは増殖できず、私たちの体に吸着した後に自分のRNAを複製する作業を行います。 アビガンはこのRNAの複製を邪魔することで効果を発揮します。 ノイラミニダーゼ阻害薬の手前の作業を邪魔するのがアビガンです。 今までのお薬とは全く違う薬と考えてよいと思います。 2.アビガンの効果と特徴 アビガンは様々なウイルス感染症に効果があるのではと考えられています。 インフルエンザウイルスだけでなく、さまざまなウイルスのRNA複製を阻害するためです。 冒頭でお話したエボラ出血熱では致死率の高さから見切り発車で使われましたが、有効性がみられています。 現在はその他のRNAウイルス感染症にも効果があるのではと検証されています。 ここでは、インフルエンザ治療薬としてのアビガン錠の効果と特徴についてみていきましょう。 2-1.アビガンとその他のインフルエンザ治療薬の違い アビガンでは投与が遅れても効果を示し、またノイラミニダーゼに耐性を示したインフルエンザウイルスに効くといわれています。 今までのノイラミニダーゼ阻害薬は、増える前にインフルエンザウイルスを細胞に閉じ込めてしまう治療薬でした。 そのためタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ全て48時間以内に投与しないと意味がないとなっています。 つまりインフルエンザウイルスの量が十分に増殖してしまった後では、今さらインフルエンザウイルスを閉じ込めたところで後の祭りになってしまうのです。 しかしアビガンは、インフルエンザウイルスの増殖自体を抑制する作用を有しています。 つまり細胞外にたくさんのインフルエンザウイルスが増殖してしまった後でも、RNAの増殖を阻害することで効果を示すことができます。 アビガンは2日以降たった後でも、治療効果があるとされています。 また近年の季節性インフルエンザには、タミフル耐性のインフルエンザウイルスが登場していると話題になってます。 このタミフル耐性のインフルエンザウイルスに対してはイナビルやリレンザが効果があるといわれています。 しかしながら同じ作用機序であるノイラミニダーゼ阻害薬であることから、いつの日か現在発売されている治療薬全てが効かないインフルエンザウイルスも出てくるのではと懸念されております。 そんな中、この全く作用機序が違うアビガンの存在が大きいのです。 他のインフルエンザ薬に耐性ができてしまっても、アビガンでは効果が期待できるのです。 タミフル耐性やリレンザ耐性のインフルエンザウイルスの細胞をアビガンに投与しても、これらのウイルスは全く増殖しなかったという報告があります。 2-2.アビガンとその他のインフルエンザ治療薬の効果の比較 耐性がない普通のインフルエンザウイルスでは、効果は他のインフルエンザ薬と変わりがないと報告されています。 特別に効果が高いというわけではありません。 2007-2009年に、タミフルとアビガンの効果について50人ずつに振り分けて効果を検証しています。 咽頭痛• 鼻症状• だるさ• 筋肉痛• 寒気 これらの症状の消失は、アビガンでは54時間、タミフル投与群では47時間でした。 この7時間の差は統計学的には有意な差ではないとのことで、効果はどちらも同じと結論付けられています。 何も投与しない人たちは73時間でした。 熱が下がった時間は、アビガンでは21時間、タミフルでは19時間で2時間の差となっています。 この2時間の差も、統計学的には有意な差ではないとされています。 何も投与してない人たちは31時間でした 以上から、タミフルとアビガンは同程度の効果があるとされています。 アビガンが新薬だからといって、インフルエンザに凄い効果を示すわけではないということに注意しましょう。 3.アビガンの投与方法は? 1日目は1回1600mg、2~5日目は1回600mgを1日2回経口投与し、投与期間は5日間です。 アビガン錠は200mgの錠剤が製造されています。 その使い方は他のインフルエンザ薬より複雑です。 最初の一日目は1600mg 8錠 を1回として朝・夕で計16錠内服します。 その後は600mg 3錠 を1回として朝・夕で計6錠内服します。 これを計5日間投与します。 内服薬としてはタミフルが有名ですが、タミフルは1錠75mgを1錠ずつ朝・夕で計5日間内服しますので、アビガンの方が手間がかかるということがよくわかると思います。 量も多いですし、何より1日目と2日目から量が変わるので間違えのもとになるかもしれません。 4.いつアビガンは登場するの? アビガンは厚生労働大臣の要請がない限りは、製造できないこととされています。 インフルエンザ薬で耐性を持ったインフルエンザウイルスが流行した時に登場することが予想されます。 実は2014年3月24日に、アビガン錠200mgの製造販売が承認されているのです。 しかし適応は 「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」 となっており全てのインフルエンザに適応がありません。 さらに厚生労働大臣の要請がない限りは、製造できないこととされています。 もし発売されたとしても、国が使用の必要があると判断した場合のみ患者さんへの投与が検討される薬剤であるとされ、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう、厳格な流通管理を行うことが求められています。 つまり2009年の新型インフルエンザのような大流行が起き、タミフルやリレンザ、イナビルなどの薬に効果がないとなった時に登場予定のお薬なのです。 ちなみにインフルエンザキットではA型、B型のみしか診断できず、インフルエンザ薬に耐性を持ったインフルエンザかどうかは研究所で調べないとわからないです。 5.アビガンは、なぜ条件付きなのか? 催奇形性の懸念と、できるだけ耐性ウイルスを作らないためです。 何故、このような厳格な規制があるのでしょうか?それには2つの理由があります。 胎児への催奇形性が懸念されているから• 耐性ウイルスを作らないため 催奇形性については、アビガンの安全性のところで述べさせていただきます。 ウイルスは薬に対して一定の確率で変異して、薬に対して耐性をもったものが登場することがあります。 これはインフルエンザに限った話ではありません。 感染症の世界は、ばい菌と薬の永遠のいたちごっこが繰り広げられています。 新薬を作ると多くのばい菌がやっつけられます。 しかしながら中には変異するやつがいて、新薬に耐性のあるものが出現します。 薬が効かなくなりますから、さらに新薬を開発してやっつける・・・といったことを繰り返しているのです。 ただ新薬というのはそんなに簡単に作れるものではありません。 効果だけでなく安全性などもクリアーされたものしか人には使えないのです。 ウイルスの変異のスピードは非常に早く、いつか人類はウイルスに敗れてしまうのではと危惧すらされています。 そのため新しく登場する予定のお薬は、できるっだけ慎重に使う必要があるのです。 これには患者さんにも協力が必要になります。 それは症状がたとえ良くなっても、アビガンはキッチリと5日間飲んでいただくことです。 理由としては、熱が下がった=インフルエンザウイルスが完全に消滅したわけではないためです。 熱とは基本的に、インフルエンザや細菌などを退治するための身体の防御反応です。 化学の実験と同じで、体温が高くなると免疫反応が高まるのです。 つまり熱が下がってきて楽になったのは、防御反応を取らなくてもよいくらいインフルエンザウイルスが少なったということです。 しかしインフルエンザウイルスは繁殖力が強いウイルスです。 本人が油断するとあっという間に再発してしまいます。 再発してしまうと、アビガンに耐性を持ったインフルエンザウイルスが出現することも予想されます。 せっかくの新薬なので大切に使う必要があります。 6.アビガンの副作用 アビガンで多い副作用としては下痢、上腹部痛などの胃腸障害ですが、これらは他のインフルエンザの治療でも起こります。 副作用の頻度も同じ程度でした。 ただし注意が必要ですが、インフルエンザ自体でも消化器症状を認めます。 特にB型インフルエンザでは消化器症状が多いです。 アビガンの副作用か、はたまたインフルエンザの症状なのか、これを鑑別するのは医師でも困難です。 7.アビガンでの安全性は? アビガンは小児、妊婦には危険性があるため投与しないとなっております。 授乳中の方は投与することは可能ですが授乳は禁止されています。 男性でも精液への移行が確認されており、投与後7日間は性交を避けるように注意喚起されている珍しい薬です。 まず小児ですが、アビガンの添付文書でも小児に対する投与経験はないとされていることから原則勧められていません。 動物実験でも異常歩行や骨格筋線維の萎縮が副作用として認められているため、投与しない方が良いと思います。 次に妊婦さんですが、アビガンは動物実験で催奇形性が確認されていることから、妊婦または妊娠している可能性のある人には禁忌とされています。 またアビガンは精液中にも移行するため、男性にアビガンを投与する際は、アビガンを投与期間中および投与終了後7日間、性交渉時は避けるように注意喚起されています。 出産後にアビガンを投与すること自体は良いのですが、アビガンが母乳に移行することが分かっていますので授乳は避けるよう指示されています。 まとめ• アビガンはRNA複製の過程を阻害する今までのインフルエンザとは作用機序から違う新しい薬剤です。 アビガンの効果及び副作用は、他のインフルエンザ薬と差はありません。 アビガンの特徴は、投与が遅れても効果を示す点と、今までのインフルエンザ薬に耐性を示したインフルエンザウイルスに効果を示す点です。 アビガンは1日目は1回1600mg、2~5日目は1回600mgを1日2回経口投与し、総投与期間は5日間です。 アビガンは厚生労働大臣の要請がない限りは、製造できないこととされています。 アビガンは妊婦、小児は使わない薬です。 2017年3月22日 カテゴリー• 1,162• 月別アーカイブ•
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薬が開発されるまでの流れ(より) 治験はまず少人数の健康な人を対象に行い、次は少人数の患者に行う。 効果が出そうであれば、さらに人数を増やして試験を行う。 このように、3つの段階がある(第1相から第3相)。 もちろん十分に説明を受けたうえで、本人の同意が必要だ。 この中で、薬を患者に投与して、血液検査を始めとするさまざまなデータを収集する。 そのデータを解析して、ようやく本当に効果があるといえるかが分かる。 効果ありという結果が出たら、国に承認申請する。 その結果、承認が得られれば、めでたく「医薬品」として販売でき、病院で処方ができるようになる。 その後も「製造販売後調査」が行われ、安全かどうか、有効な薬かどうかが確かめられる。 最終段階として「再審査」と呼ばれる審査があり、場合によっては承認取り消し、効能効果の削除または修正が行われることもある。 薬は、「何に効くか」「何に使うか」がきちんと定められている。 これを「適応」という。 アビガンは既にインフルエンザ薬として承認を受けているが、新型コロナウイルスへの適応はまだ承認されていない。 そのため「適応追加」を目的として、第2相もしくは第3相試験の治験から行われる。 アビガンの新型コロナウイルスに対する治験は、どんなやり方で実施しているかはまだ公表されていない。 しかし、既に中国では2本の治験が行われて、その結果、新型コロナウイルスにファビピラビル(アビガンの一般名称)が有効であるとの結果が出ている。 しかし、この中国での論文は取り下げとなった。 理由は現時点では不明であるが、近日中に差し替え版が掲載され、取り下げた理由も記載されるようだ。 関連記事• 不謹慎だと思われる方もいるかもしれないが、株式市場では、早速「コロナウィルス関連株」の物色が始まっている。 特に、今後需要が見込まれるマスクや医療廃棄物を手がける会社の株価は、ここ2週間で大きく増加した。 テキストマイニングを用いてAIで企業や経済の先行きを分析するxenodata lab. (東京都渋谷区)は、新型コロナウイルスの国内上場企業への影響予測を公開した。 それによると、世界的に感染が拡大した際の影響は、各業界共通で部品サプライヤーへの減益影響が大きいと予測された。 この法則がいまや崩れようとしている。 景気が後退しているにも関わらず物価が上昇する状態を、スタグフレーションという。 通常、景気が悪い中で物価が上がる場面は限定的であるが、今回においては消費税の増税による半ば強制的な物価の押上げが、これを現実のものにするかもしれない。 国内の不動産投資信託の状況を示す、東証REIT指数が大幅に下落している。 過去最大級の経済対策を決定した日本では、今後感染拡大防止が奏功した段階で、地域活性化などのアイデアの具体化を含む追加対策が打ち出されることになるだろう。 米国では、追加の経済対策が議論され始め、欧州でもEUがルールを一時緩和し、機動的な財政政策が打てるようになった。
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国内では臨床試験(治験)が始まっており、正式承認を急いでいる。 コロナ患者に投与され、症状が改善した報告があるが、妊婦や痛風・高尿酸血症患者への副作用についても理解しておきたい。 アビガンを開発した富士フイルムホールディングス傘下の製薬会社、富士フイルム富山化学は、9月には現在の7倍にあたる月30万人分を生産する。 政府は2020年度中に200万人分の備蓄確保を目指すほか、米国でも治験が始まるなど海外からも多くの引き合いが寄せられている。 新型コロナウイルスは自身の遺伝情報を含むRNA(リボ核酸)を複製することで増殖していくが、アビガンにはこの複製を妨げる作用があり、ウイルスの増殖を抑える。 中国の研究で肺炎患者の症状が改善したとの報告もあるが、注意すべき点もある。 富士フイルム富山化学が公表するアビガンの添付文書には「重大な副作用」として、痛風につながる血中尿酸増加や下痢などが紹介されているほか、インフルエンザ罹患(りかん)時の転倒など異常行動も紹介されている。 臨床試験では501例のうち、100例(19・96%)に副作用が認められたという。 高齢者には容体を観察した上で投与が可能だが、妊婦は、動物実験で催奇形性(胎児に奇形が起こる危険性)が確認されていることから投与が禁じられている。 日本感染症学会理事長で東邦大学教授の舘田一博氏は「(危険性は)正直なところ分からないが、少しでも助かる可能性があるのであれば、アビガンを使用する選択肢も考えた方がいい。 自分が感染したら使いたいと思うだろう」と語る。 富士フイルム富山化学の広報担当者は「医師からアビガンの服用に関する注意事項について説明を受け、同意書に署名したうえで投与が開始される。 特にこれから妊娠の可能性のある婦人やそのパートナーの患者さんには、一定期間の確実な避妊法の実施など十分に理解をしてもらった上で、同意を得る」と回答した。
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