皮膚そう痒症(Pruritus Cutaneus)は、その名の通り「皮膚」の「掻痒(=かゆみ)」を来たす疾患です。 かゆみは命に関わるような重篤な症状ではありませんがとても不快な症状であり、かゆみが続くと生活の質は大きく障害されます。 更に皮膚を掻き続けてしまうと、皮膚が荒れて細菌に感染しやすくなってしまったり、表皮が厚くなってがガサガサになったり、黒ずんでしまったりと二次的な問題も生じてきます。 この皮膚そう痒症はどのような原因で生じるのでしょうか。 また治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。 ここでは皮膚そう痒症が生じる原因や、その対処法・治療法について紹介します。 1.皮膚そう痒症とは まず皮膚そう痒症(ひふそうようしょう)がどのような疾患なのかについて簡単に説明します。 皮膚そう痒症はその名の通り「皮膚」の「掻痒(=かゆみ)」を来たす疾患です。 しかし皮膚がかゆければ、それだけですべて皮膚そう痒症になるわけではありません。 皮膚がかゆくなる疾患というのは山ほどありますが、何らかの皮膚疾患や皮疹によってかゆみが生じている場合は皮膚そう痒症に含まれません。 例えば虫に刺されてかゆみが生じた場合は、これは「虫刺され」であり皮膚そう痒症にはなりません。 またアトピー性皮膚炎があってそれでかゆい場合も、これは「アトピー性皮膚炎」と診断され、皮膚そう痒症と診断される事はありません。 皮膚そう痒症は、• 他の明確な皮膚疾患がなく• 明らかな皮疹も認めないにも関わらず• 強いかゆみを生じる状態 に対して付けられる病名になります。 原因は様々で、お薬や食べ物が原因であったり、内臓疾患(癌や肝障害、腎障害など)が原因であったりと多岐に渡ります。 また精神的な原因(ストレスなど)で生じる事もあります。 症状は基本的には皮膚のかゆみになりますが、全身にかゆみが生じる「汎発型」と、皮膚の一部(肛門や陰部など)にかゆみが生じる「限局型」の2つに大別されます。 かゆみというのは命に直結するような重い症状ではありませんが、生活の質を大きく障害する不快な症状です。 またかゆみに対して皮膚を掻く事を長期間続けていると、皮膚の表皮バリア機能が破壊されて、ばい菌が侵入しやすくなってしまい、皮膚の細菌感染症を引き起こしやすくなるというデメリットもあります。 更に表皮に慢性的な刺激が加わる事で表皮が肥厚したり(苔癬化)、色素沈着が生じて掻いた部位が黒ずんでしまう事もあります。 皮膚そう痒症の治療法は原因によって異なります。 薬剤や食べ物が原因であればその原因を避ける必要があります。 また内臓疾患が原因であれば原因疾患の治療を行う事で皮膚そう痒症も改善していきます。 精神的な原因であれば心理療法や向精神薬などの投与が検討されます。 原因によって適した治療法が異なるため、ひとくくりに「この治療で治るよ」と言えるものではありません。 では次の項から皮膚そう痒症の原因、症状、治療法についてより詳しく見ていきましょう。 2.皮膚そう痒症の原因 皮膚そう痒症はどのような原因で生じるのでしょうか。 皮膚そう痒症の原因は非常に多岐に渡ります。 原因によって適切な対処法・治療法も異なるため、皮膚そう痒症では原因を出来る限り正確に特定していく事が何よりも大切になります。 皮膚そう痒症を引き起こす原因として多いものを挙げると、• 乾燥(ドライスキン)• 身体疾患 の3つが挙げられます。 またそれ以外にも念頭に置くべき原因として、• 食べ物• 精神的ストレス なども挙げられます。 それぞれについて詳しく説明します。 皮膚の乾燥は、本来皮膚の表面に存在している水分や皮脂が欠乏している状態です。 この状態だと皮膚のバリア機能が低下してしまうため、小さな刺激でも過敏に感じるようになり、かゆみも感じやすくなってしまいます。 より詳しく説明すると、かゆみを感じる「C線維」と呼ばれる神経は通常は表皮の下の層である真皮に存在しているのですが、このC線維は皮膚の乾燥やそれに伴う表皮の刺激の増加を認めると表皮にまで侵入してくる事が確認されています。 皮膚が乾燥すると、C線維が表層近くにまで伸びてくるため、かゆみをより感じやすくなるのです。 特に高齢者の方は皮膚の水分が不足し、乾燥しやすいためドライスキンによる皮膚そう痒症を引き起こしやすくなります。 これを専門的には「老人性乾皮症」と呼びます。 該当しうるお薬はたくさんありますが、特に頻度が多いものとして、• 麻薬(オピオイド) が挙げられます。 オピオイドは通常、癌患者さんなどにおいて痛みを抑える目的で投与されます。 その他お薬ではありませんが、• サプリメント• 健康食品 なども原因となりうる事があります。 皮膚のかゆみは身体疾患の症状の一部として出ているだけだという可能性もあるため、表面的な「かゆみ」にのみ目を向けるのではなく、その背景に潜んでいる身体疾患までしっかりと特定する事が大切です。 表面的な「皮膚のかゆみ」という症状だけに着目して根本の原因である身体疾患を見落としてしまうと、発見が遅れて手遅れになってしまう事もあるためです。 原因がはっきりしない皮膚そう痒症を認めた場合、「身体の中に異常が生じている可能性はないのか」という事を常に念頭に置く必要があります。 様々な身体疾患でかゆみが生じますが、特に見落とすべきではないのは、• 癌(悪性腫瘍)• 肝臓・胆道系疾患• 腎障害• 内分泌疾患(糖尿病、甲状腺疾患など)• 血液疾患(貧血、白血病など) になります。 原因となりうる食べ物もたくさんありますが、一例をあげると、• 魚介類• アルコール• チョコレート などがあります。 例えば、普段過ごしている室内が乾燥している場合、これは皮膚そう痒症が引き起こされる原因になります。 また反対に湿度が高い環境で過ごしている場合も不快感からかゆみが生じやすくなるでしょう。 肉体労働や自然の中で仕事をされている方など、生活の中で皮膚に刺激が加わりやすい方も、慢性的に皮膚が刺激される事で皮膚そう痒症が生じやすくなります。 【皮膚そう痒症が生じる原因】 ・もっとも多い原因としては皮膚の乾燥(ドライスキン)が挙げられる。 ・薬剤(オピオイドなど)や身体疾患も原因になる。 ・頻度は多くはないが、食べ物、環境、精神的ストレスも原因となりうる。 3.皮膚そう痒症の症状 皮膚そう痒症ではどのような症状が生じるのでしょうか。 急性期(発症初期)の症状は、病名の通り「そう痒(=かゆみ)」が主な症状になります。 かゆみは全身に生じる場合と身体の一部に生じる場合があり、前者は「汎発型」・後者は「限局型」と呼ばれます。 限局型では• 肛門周囲 が多く認められます。 かゆみが強いと、私たちはつい掻いてしまいます。 日中は掻くのを我慢できたとしても、夜間寝ている時に無意識に掻いてしまっている事もあります。 このような「掻く」という行為が慢性的に続くと、表皮が次第にボロボロになってきます。 皮膚のバリア機能(ばい菌などの異物を体内に侵入させないようにするはたらき)が破壊されてしまい、表皮から体内にばい菌が侵入しやすくなるため、皮膚の細菌感染症を引き起こしやすくなります。 また慢性的に皮膚に機械的な刺激が加わる事で、• 表皮の肥厚(苔癬化)・・・皮膚が厚くなる• 色素沈着・・・皮膚が黒ずむ といった皮膚変化も少しずつ生じてしまいます。 【皮膚そう痒症の症状】 ・基本的な症状はかゆみ ・全身にかゆみが出る汎発型と、局所(陰部、肛門周囲)にかゆみが出る限局型がある ・慢性的に掻く事が続くと、表皮の肥厚や色素沈着が生じる 4.皮膚そう痒症の治療法 皮膚そう痒症は、どのように治療すれば良いのでしょうか。 皮膚そう痒症は様々な原因で生じうる疾患であり、また原因によって治療法も異なってきます。 そのため「この治療法で治りますよ」という画一化された治療法はありません。 大切なのは原因と特定し、その原因に応じた治療法を行う事です。 例えば、皮膚の乾燥が原因なのであれば、その治療法は「皮膚の保湿」になります。 水分をしっかりと取ったり、入浴を適度にしたり、部屋の湿度を適切に保ったり、保湿剤を塗布する事が治療になるでしょう。 薬剤が原因なのであれば、その薬剤を中止するか変更する事が治療になりますし、特定の食べ物が原因なのであればその食べ物を避ける事が治療になります。 身体疾患がかゆみの原因なのであれば、その身体疾患を治療する事が皮膚そう痒症の治療になります。 精神的ストレスが原因なのであれば、そのストレスの除去・軽減か、ストレス解消、カウンセリングなどの導入、抗不安薬の服用などが治療となります。 このように原因によって治療は異なってくるのですが、皮膚そう痒症の治療法としてみなさんに知っておいて欲しい事をいくつかお話します。 抗ヒスタミン薬• 保湿剤 の2つがあります。 抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンというかゆみを引き起こす物質をブロックするお薬の事です。 花粉症やじんましんなどのアレルギー性疾患の治療薬としても用いられています。 皮膚そう痒症は、その原因がヒスタミンとは無関係なものも多いと言われていますが、臨床的には抗ヒスタミン薬がある程度効くのは確かです。 また保湿剤は皮膚表面に水分を保持させる事によって皮膚の乾燥を防ぐお薬です。 基本的にはドライスキンに伴う皮膚そう痒症に使う治療薬になりますが、それ以外の原因であっても皮膚乾燥が多少でも関連している場合には効果が期待できます。 具体的には、• ヒルドイドソフト(一般名:ヘパリン類似物質)• ウレパール・ケラチナミン(一般名:尿素)• プロペト(一般名:白色ワセリン) などが用いられます。 原因に対する根本的な治療を行うまでに少し時間がかかるような場合は、このようなお薬によってとりあえずはかゆみを緩和しても良いでしょう。 この、• 血液透析中の方• 慢性肝疾患の方 に対しては「レミッチ(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)」というかゆみ止めが使えます。 優れた効果を持つお薬ですが、血液透析中の方と慢性肝疾患の方にしか適応がなく、使える方が限られているお薬になります。 この2つの疾患のどちらかに該当する方で、他の治療法では改善が乏しい場合は、主治医に相談して検討してもらっても良いでしょう。 しかし皮膚そう痒症自体にはステロイドは効果はありません。 ステロイドは身体の免疫反応(身体がばい菌などの異物と戦うしくみ)を抑える事で炎症を抑える作用を持ちます。 しかしそもそも皮膚そう痒症は必ずしも炎症を引き起こしているわけではありません。 原因は、皮膚の乾燥であったり、お薬や食べ物であったり、身体疾患であったり、ストレスであったりするわけで、これらの状態は必ずしも炎症を伴いません。 皮膚そう痒症によって、二次的に皮膚が肥厚してしまったり、皮膚炎を起こしてしまった場合は、その二次的な反応を抑えるためにステロイドが有効な事はありますが、皮膚そう痒症自体にステロイドは無効だと考えられています。 どのような原因の皮膚そう痒症に対しても適応となるわけではないため、主治医とよく相談して行う必要がありますが、特に腎障害に伴う皮膚そう痒症に対する効果はある程度確認されています。 定期的に複数回通院しなければいけないため、治療の手間はかかりますが、他の治療法で無効の方は検討すべき治療法の1つでしょう。 【皮膚そう痒症の治療法】 ・原因に応じた治療法を行う必要がある ・対症療法の基本は抗ヒスタミン薬と保湿剤 ・ステロイドは原則使わない。 二次性の皮膚所見がある時は検討される事もある ・血液透析中の方や慢性肝疾患の方はレミッチが使える ・特に腎障害に伴う皮膚そう痒症にはUVB照射が効果を示す事がある.
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表:透析患者さんのかゆみの原因 それぞれを具体的に説明すると、 【原因1】皮膚の乾燥などによる皮膚バリア機能の破綻 透析患者さんの皮膚は、肌にうるおいを保つ機能や外部からの刺激を防ぐ機能が低下しています。 【原因2】かゆみを感じる神経系の異常 かゆみを伝える神経が通常よりも皮膚の表面近くに伸びていて、外部からの刺激に敏感になっているほか、かゆみ物質がより多く分泌されていたり、その受容体に異常があったりすることがわかっています。 【原因3】尿毒症性物質の蓄積 かゆみの原因となる物質は特定されていませんが、中~大分子量の尿毒症物質が関係していると考えられています。 【原因4】透析療法に関係するもの 血液が透析膜や回路と接触することで、補体やサイトカインが活性化してヒスタミンなどのかゆみ物質が放出したり、アレルギー反応が原因でかゆみが起こる場合もあります。 【原因5】カルシウム・リン代謝異常 血清カルシウムやリンの高値、副甲状腺ホルモン(PTH)の上昇(二次性副甲状腺機能亢進症)は、かゆみの原因になります。 【原因6】その他 使用している薬剤へのアレルギーや、穿刺針・回路の固定用テープや止血用のパッチ、穿刺時の鎮痛用テープ、消毒薬に対するかぶれなども考えられます。 かゆみの解決策 基本的には、上述の原因に対応することになりますが、原因が多岐にわたる場合やはっきりしない場合も多いです。 ただ、全てに共通してまず行うのは【原因1】への対策です。 【原因1:皮膚の乾燥などによる皮膚バリア機能の破綻 への対策】 保湿を中心としたスキンケアを行います。 保湿剤で効果が不十分な場合や湿疹を伴う場合は、ステロイド含有剤を併用します。 それでも効果が不十分な場合は、不要な内服を防ぐためにも、かゆみの原因を考慮した治療を行います。 きついドライウエイトも乾燥の原因になりますので、適宜調整してもらってください。 【原因2:かゆみを感じる神経系の異常 への対策】 内服薬などを検討します。 【原因3:尿毒症性物質の蓄積 への対策】 かゆみの原因となる尿毒症性物質を効果的に除去するため、長時間透析、頻回透析、PMMA膜を用いた透析、オンラインHDF等も有効です。 【原因4:透析療法に関係するもの への対策】 ダイアライザーの変更(生体適合性の良い膜の選択)や、ヘパリン以外の抗凝固剤への変更を行います。 EOG滅菌をしている透析素材が原因の場合は、使用を中止します。 【原因5:カルシウム・リン代謝異常 への対策】 十分な透析ができていることを前提に、まずリンを制限した食事内容への変更やリン吸着剤を使用します。 二次性副甲状腺機能亢進症がシビアでリン、カルシウムが食事やお薬でコントロールできない時は副甲状腺全摘出術が必要になることもあります。 【原因6:その他(アレルギーやかぶれ) への対策】 透析患者さんは内服薬が多いため、薬へのアレルギーでかゆみが出る場合もあります。 また、鎮痛用テープや固定のテープでかぶれる場合もありますので、適宜変更してみて下さい。 患者さんができるかゆみの対処法・予防策など 乾燥が一番の敵ですので、こまめに保湿剤を使用し、スキンケアをしましょう。 入浴時に使用する石鹸は、肌にあった刺激性の弱いものを使いあまりゴシゴシ洗わないようにしましょう。 入浴後早めに保湿剤を塗布すると、保湿効果が高まります。 リンが高めの方は、食事の管理をしっかりとして、透析時間が少ない方は透析時間を延ばしてみるのも手です。
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外陰皮膚掻痒症の症状 疾患名から分かるように、 女性の外陰部が痒くなるというものが 外陰皮膚掻痒症(がいいんひふそうようしょう)の症状です。 外陰部の皮膚を掻いてしまうほどの痒みを伴う疾患や痛痒さがある感染症というのは細かく分類されていますが、そうしたものの総称と考えて問題ありません。 例えば、 トリコモナス膣炎や カンジダ膣炎は症状に外陰部の痒みがありますから外陰皮膚掻痒症に含まれます。 また、 更年期などに膣の自浄作用が低下することによって外陰部に痒みが出ることもありますが、これも外陰皮膚掻痒症の1つになります。 外陰皮膚掻痒症の症状は、痒みがあるというのが基本的な症状ということになりますが、この痒みを引き起こしている原因がなんなのかによって現れる症状も少しずつ異なってきます。 外陰皮膚掻痒症は市販薬の誤用によって悪化するケースも多く報告されている症状の一つです。 それで外陰部に痒みを感じた場合には病院の診断を受けて適切な治療を受けるようにしてください。 外陰皮膚掻痒症の原因 外陰皮膚掻痒症は、 外陰部に痒みを伴う感染症や疾患の総称なので当然のことながら原因も様々です。 例えば、外陰皮膚掻痒症に含まれているトリコモナス膣炎の場合は原因がトリコモナス原虫にありますし、カンジダ膣炎の場合にはカンジダ真菌が痒みを引き起こす原因となっています。 更年期時の膣の自浄作用の低下による痒みであれば、 女性ホルモン分泌の低下が引き起こしているものとなります。 さらに、糖尿病や肝臓の疾患が原因となって外陰の痒みなどの症状につながっている場合もあります。 外陰皮膚掻痒症の場合、原因となるものは様々ですから、その原因によっては外陰部の痒みや痛みといった不快な症状に加えて、他の症状が出ることがあります。 ですから、外陰部の不快感以外の自覚症状がある場合は、それらの症状について医師に知らせることが原因を突き止める上で助けになります。 外陰皮膚掻痒症の治療法 お話してきましたとおり、外陰皮膚掻痒症の原因は様々ですので、治療法もまずは 外陰部の痒みの原因を特定することから始まります。 外陰皮膚掻痒症の原因がトリコモナス膣炎やカンジダ膣炎などの性行為感染症によるものと診断されたら、トリコモナス原虫やカンジダ菌に効果のある 抗生物質の投与による治療が行なわれます。 女性ホルモン分泌の低下によるものであれば、 ホルモン療法などにより治療が行なわれます。 また、他外陰皮膚掻痒症がアレルギーや内臓疾患などの他の原因によるものの場合もありますから、その場合は、それぞれの原因となるものを治療することが外陰皮膚掻痒症の治療となります。 病院に行くのはためらいがちになる部分ではありますが、自己判断ではきちんとした原因を突き止めることはできないものなので、医師の診断を必ず受けて適切な治療を行なうようにしてください。
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