ポイントは「共生」と「予防」-基本的な考え 今回の大綱のポイントとなるのは、認知症の人との「 共生」と「 予防」の二つを車の両輪として、施策を推進していること。 新オレンジプランでは、認知症の人が住み慣れた地域で自分らしく生活し続けられるよう、社会全体で高齢者を支える「共生」に重点が置かれてきましたが、新大綱では認知症の「予防」についての具体的施策が提示されました。 「共生」と「予防」のそれぞれの意味合いは以下の通りとなります。 なお、新大綱の対象期間は、団塊の世代が75歳以上となる2025年までとなっています。 ・共生 認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる、という意味。 これまでの施策を引き継ぎ、生活上の困難がある場合でも、周囲のサポートや理解のもと、自分らしく尊厳を持って暮らし続けられる社会の実現を目指します。 ・予防 予防というと、「認知症にならない」という意味を思い浮かべますが、ここでは「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味合いとなります。 認知症予防に関するエビデンスの収集・普及とともに、予防につながると考えられる「通いの場」における活動の推進など、認知症への「備え」となる取組みに重点を置いています。 普及啓発・本人発信支援• 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援• 認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援• 研究開発・産業促進・国際展開 それでは、具体的な内容についてひとつずつみていきましょう。 今回は、1と2についてポイントを解説します。 1.普及啓発・本人発信支援 (1)認知症に関する理解促進 <Point>認知症サポーターの養成 認知症に関する正しい知識を持って、地域や職域で認知症の人や家族を手助けする、認知症サポーターの養成を推進します。 認知症サポーターの養成については、新オレンジプランでも積極的に推進されていた事業ではありますが、新大綱では養成講座の対象が拡大。 特に、認知症の人と地域で関わることが多いことが想定される小売業・金融機関・公共交通機関等の従業員などをはじめ、人格形成の重要な時期である子ども・学生を対象に拡大しています。 <Point>子どもへの理解促進 認知症サポーター養成講座の実施に加えて、小・中・高等学校で、高齢者に対する理解を深めるための教育、高齢者との交流活動などを推進します。 <Point>医療・介護従事者等の専門職向け認知症対応力向上研修や認知症サポーターのステップアップ講座 2018年に策定された「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」の内容を盛り込み、普及すべきと明記されました。 参考:厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン (2)相談先の周知 地域包括支援センター、認知症疾患医療センターなど認知症に関する相談体制の整備を行うほか、ホームページを通して相談窓口にアクセスできるよう環境を整備します。 (3)認知症の人本人からの発信支援 <Point>認知症の人本人からの発信 認知症の人が自らの言葉で、希望を持っていきいきと生活している様子を発信することを支援します。 本項についても、新オレンジプランにも記載されていたものとなりますが、今回新たに「 認知症とともに生きる希望宣言」に関する取り組みが盛り込まれました。 「 認知症とともに生きる希望宣言」は、2018年11月に日本認知症本人ワーキンググループが表明したもので、新大綱ではこの宣言を実現した「認知症本人大使(希望宣言大使(仮称))」を創設する考えが示されています。 参考:一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ 「認知症とともに生きる希望宣言」 <Point>認知症当事者による支援(ピアサポーター、本人ミーティング) 心理面、生活面に関する早期からのサポートを、当事者でもあるピアサポーターが実施するほか、本人同士が必要なことなどを語り合う「本人ミーティング」の普及を推進するなど、認知症の人本人による相談活動を拡大します。 主なKPI/目標• 企業・職域型の認知症サポーター養成数 400万人(認知症サポーター養成数 1200万人(2020年度))• 学び(社会教育施設での講座の受講等)を通じた地域社会への参画モデルの提示• 医療・介護従事者向けの認知症に関する各種研修における意思決定支援に関するプログラムの導入率 100%• 広報紙やホームページ等により、認知症に関する相談窓口の周知を行っている市町村 100%• 厚生労働省ホームページに全市町村の認知症に関する相談窓口へのリンクを掲載• 認知症本人大使(希望宣言大使(仮称))の創設• 全都道府県においてピアサポーターによる本人支援を実施• 全市町村において本人の意見を重視した施策の展開 2.予防 新オレンジプランでも、発症予防に向けた研究開発の推進、予防につながる運動や社会交流、趣味活動を行うサロンの運営推進などについての記載はありましたが、重点的な課題として具体的な施策、目標が設定されたのは、新大綱が初めてとなります。 (1)認知症予防に資する可能性のある活動の推進 <Point>高齢者の「通いの場」の拡充 地域において高齢者が身近に通える場等を拡充します。 新オレンジプランでも、住民主体で運営するサロンなど、認知症予防につながる取り組みを推進していましたが、新大綱ではこれらの「通いの場」を、介護保険の保険者機能強化推進交付金(インセンティブ交付金)も活用し、拡充することが明言されています。 また、通いの場での、かかりつけ医、保健師、管理栄養士等の専門職による健康相談についても、認知症予防につながるとして推進する方針を示しています。 (2)予防に関するエビデンスの収集の推進 認知症の予防に有効と考えられる活動事例(市町村での認知症予防事業、認知症初期集中支援チームによる訪問活動、かかりつけ医や地域包括支援センターとの連携による早期発見・対応に関する取り組みなど)を収集し、全国に横展開するとの記載が盛り込まれました。 そのほかに、国内外の認知症予防に関する論文などを収集し、認知症予防に関するエビデンスを整理した活動の手引きを作成することのほか、国の介護保険総合データベース(レセプト情報など)の活用促進、2020年度から稼働予定の新データベース(CHASE)構築を進めるとのことです。 (3)民間の商品やサービスの評価・認証の仕組みの検討 認知症予防に有効と考えられる民間の商品やサービスの評価・認証の仕組みを検討します。 主なKPI/目標• 介護予防に資する通いの場への参加率を8%程度に高める• 認知症予防に関する取組の事例集作成• 認知症予防に関する取組の実践に向けたガイドラインの作成• 認知症予防に関するエビデンスを整理した活動の手引きの作成• 介護保険総合データベースやCHASEによりデータを収集・分析し、科学的に自立支援や認知症予防等の効果が裏付けられたサービスを国民に提示• 認知機能低下の抑制に関する機器・サービスの評価指標・手法の策定 まとめ 「共生」と「予防」が基本的な考えとなる「認知症施策推進大綱」。 新設された予防については、「通いの場」の拡充が大きく掲げられました。 認知症の予防に向けて、今後どのように環境が変化していくのか、要注目ですね。 新大綱解説(後編)については、来月掲載予定です。 <参考文献> 厚生労働省:認知症施策推進大綱について 厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン).
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1. これまでの認知症施策 (1) 認知症施策の歴史 認知症は、国際的に見ても大きな社会問題となっています。 日本のように、認知症施策を国家戦略として策定済、もしくは、策定中となっているのは50カ国程度にまで達していますが、日本も国家戦略として初めて策定したのは2012年で、まだまだ最近の出来事と言えます。 それ以前は「ボケ」「痴呆」などと呼ばれていた認知症は、「年をとれば仕方がないもの」ととらえられていた時期がありました。 病気や症状が理解されず、適切なケアがされないどころか、虐待の対象となることさえあったのです。 このような中、国の対策としては、「痴呆」から「認知症」へ呼び方の変更に始まり、介護保険制度の導入などを通じた介護サービスの整備や地域ケア体制の構築、そして、認知症対策を一層効果的に推進し、たとえ認知症になっても安心して生活できる社会を早期に構築するというところまで変化していきました。 そして、それまでの施策の検証を踏まえ、今後目指すべき基本目標や、その実現のための認知症施策の方向性が検討された上で、「今後の認知症施策の方向性について」という形でとりまとめられ、「オレンジプラン」として公表されました。 その後、それを発展させる形で「新オレンジプラン」が、2015年に5カ年計画として策定されるに至ったのです。 また新オレンジプランでは、以下が「7つの柱」として掲げられました。 新オレンジプランを契機に、「具体的な認知症施策の動きにつながった」、ということです。 参考: 内閣府 認知症施策推進関係閣僚会議 厚労省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) 独立行政法人福祉医療機構 Wamnet ホームページ 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)制定までの経緯と概要について 2. 「70代の認知症を1割削減!」 認知症施策の新たな大綱案 (1) 国の新たな認知症施策の必要性 このように、新オレンジプランの推進により、少しずつ課題解決が進んできてはいると、とらえられるわけですが、とはいえ、認知症の方にとって、暮らしやすい環境が十分に整っているとは言えない状況であるのは事実でしょう。 それは、金融機関や交通機関の利用、買物など、生活の基本的な部分であってさえ、と言わざるを得ない状況です。 一方で、まだまだ「解明」とまではいかないものの、認知症が運動や適切な食事、人と交流などによって、その発症を遅らせることができることが示されてきてもいます。 つまり、認知症施策は、ある程度の成果は見えつつも、まだまだ残された多くの課題があり、それは、研究や具体的な商品・サービスの開発、社会インフラの整備、認知症の理解など、多岐に及んでいるということになるわけです。 しかし、新オレンジプランは、先に見たように、2015年からの5年間の国家戦略。 この計画の最終年が2019年にあたることから、「新たな国家戦略が必要」なのです。 (2) 大綱案における最重要指標に、「70代の認知症の1割削減」という数値目標 「図-2020年からの新しい認知症施策大綱案の特徴」 そんな中、2019年5月、新しい国の認知症施策大綱案が公表されました。 その大きな特徴は、新オレンジプランでも掲げられてきた、認知症の方が暮らしやすい社会を目指すとする「共生」に加え、認知症の「予防」が重要な柱として設定されたことです。 つまり、「共生」と「予防」とが、認知症施策の2本柱として、明確に示されたのです。 ただそれ以上に大きなインパクトを与えたのは、認知症の人数を抑制する初の数値目標が導入された点です。 その数値目標とは、「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」というもの。 実現すれば、70代の認知症の方の割合が、今後10年間で約1割減少することになるとされています。 この数値目標は、認知症の方の実際の人数ではなく、「割合」であることがポイント。 70代人口が増えることが予想されていることから、認知症の方の人数が増えるのは仕方がないとしても、その割合は減らしていくとする目標だということです。 参考: 内閣府 認知症施策推進関係閣僚会議 日本経済新聞 認知症、70代を10年で1割減 政府が初の目標 3. 認知症を取り巻く環境 ~ 「予防」が1つの大きな柱とされた背景 (1) 認知症の方の将来予測 認知症の方の人数は、2025年には700万人、あるいは、730万人になるとも推計されています。 さらに2050年には、1000万人を超えるとの推計もあります。 この通りとなった場合、2050年の日本の総人口は9515万人になると推計されていることから、国民の9. 5人に1人が認知症の方になるということになります。 つまり、今回公表された新しい国の認知症施策大綱案では、この人数を可能な限り少なくできるよう、具体的な数字目標が設定されたと言い換えることができるわけです。 (2) 認知症のリスク因子に関する研究の進展 ~ 認知症はある程度予防できる ~ 「図-予防可能とされる認知症の危険因子」 このような具体的な数字目標が設定できた背景の一つに、認知症は「予防」により、「ある程度その発症を遅らせることができる」とする、これまでの研究成果があります。 実は、認知症の発症には、さまざまな「因子」が影響するとされています。 その因子には、「加齢」や「遺伝」といった、個人の努力ではどうにもならないものがある一方で、「予防可能」とされる「因子」も存在している、とされているのです。 その主な因子とは、教育の他、生活習慣病にも当てはまる高血圧・肥満・糖尿病・喫煙・運動不足、うつや社会的孤立といった精神に影響与える面、そして難聴などが上げられています。 これらの因子は、人のライフサイクルごとの適切な時期に、適切な「予防措置」を取れば、認知症の発症リスクを低減させるとされています。 逆に言えば、今回公表された新しい国の認知症施策大綱案では、人の一生の中で、適切な時期に適切な対応ができるようになっていくような施策を検討していくことが、予防の観点から盛り込まれることになると言えるわけです。 参考: 内閣府 認知症施策推進関係閣僚会議 総務省 我が国における総人口の長期的推移 4. 認知症のある方が暮らしやすい社会とは? ~ 共生の視点 ~ では、もう1つの柱として掲げられる「共生」については、どのようにとらえていくことができるのでしょうか? (1) 日本認知症本人ワーキンググループが掲げるキーワード 実は、新しい国の認知症施策大綱案を発表する前、厚労大臣・厚労省がヒアリングをした対象に「日本認知症本人ワーキンググループ」という一般社団法人があります。 同団体は、認知症の当事者の方々が設立された団体で、「認知症とともに生きる方の立場」として、以下のような「宣言」を表明されています。 この宣言は、「共生とは何か?」を考えるにあたって、「認知症の方、当事者の意見」として参考になるものだと考えられます。 「認知症とともに生きる希望宣言 一足先に認知症になった私たちからすべての人たちへ」 1. 自分自身がとらわれている常識の殻を破り、前を向いて生きていきます。 2. 自分の力を活かして、大切にしたい暮らしを続け、社会の一員として、楽しみながらチャレンジしていきます。 3. 私たち本人同士が、出会い、つながり、生きる力をわき立たせ、元気に暮らしていきます。 4. 自分の思いや希望を伝えながら、味方になってくれる人たちを、身近なまちで見つけ、一緒に歩んでいきます。 5. 認知症とともに生きている体験や工夫を活かし、暮らしやすいわがまちを、一緒につくっていきます。 いかがでしょうか? 「自分がやれることはやる」「やれることの範囲で、社会に貢献する」など、決して「受け身ではない姿勢」が、この宣言からは感じ取れるのではないでしょうか? (2) 認知症のある方が暮らしやすい社会とは? どんなに予防に努めたとしても、加齢など、ご本人の努力ではどうにもならないことが原因で、認知症を発症することは、誰の身にも起こり得ます。 そう考えると、認知症の当事者の方々が、主体となって活動できる場を増やしていける社会であることが、目指すべき社会であると考えられます。 また、そのような社会であれば、「認知症になったら人生終わり」とするような考えを、限りなく少なくしていける可能性もあるでしょう。 言い換えれば、そのような社会になることが、本当の意味で、認知症の方と「共生」する社会と言えるのかもしれません。 だとすると、認知症発症後の進行を遅らせることも大切になりますし、物理的にも精神的にも、認知症の当事者の方が暮らしやすい、いわゆるバリアフリーの地域づくりも重要になるはず。 また、そのような「整備がされた社会」は、認知症の有無に関わらず誰にとっても暮らしやすい社会なのではないかとも考えられます。 (3) 認知症の方がいるご家族が、一方的に責められないことも重要 もう一つ、忘れてはならないのは、認知症の方がいるご家族が、一方的に責められるようなことがないようにすることです。 新しい認知症施策大綱案は、「予防」と「共生」が2本柱とされ、また、認知症を発症する方の抑制において、数値目標が掲げられたことが注目されているわけですが、その数値目標の達成は見通せないとの指摘もあります。 認知症の根本的な治療方法が確立されているわけでもなく、また、予防施策は、「それに取り組んだら、認知症にはならない」というものではないからです。 そのような中で、数値目標だけが独り歩きしてしまうと、認知症の当事者の方やそのご家族が「認知症になったのは、その当事者の方やご家族の方々の努力が足りなかったからだ」との非難の対象とされる懸念もあります。 設定されようとしている数値目標は、あくまでも目標に過ぎませんし、これまでに「わかってきたこと」に基づき定められたもの。 と言うよりはむしろ、膨大化する「社会保障費の抑制」という視点から、設定されている面があることも否定できません。 そのような事情も組んだ上で、認知症施策大綱案をとらえていくことも重要になると考えられるのです。 それをひと言でまとめるなら、「自分や、自分のご家族がその立場だったなら」を考えるということになるのではないでしょうか。 参考: 内閣府 認知症施策推進関係閣僚会議 一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ 最後に 2019年5月、国の認知症施策大綱案が発表されました。 この大綱案は、それまでの国家戦略であった新オレンジプランを引き継ぐ国家戦略として、検討が進められている案です。 ここで特に注目されているのは、「数値目標が設定された点」で、それは「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」というもの。 実現すれば、70代の認知症の方の割合が、今後10年間で約1割減少することになるとされています。 しかし、この数値目標は、少子高齢社会の到来により社会保障費が増大する中、その抑制の視点から設定されている面がある点を忘れてはならないでしょう。 むしろきちんと押さえるべきは、新オレンジプランでも掲げられてきた、認知症のある方が暮らしやすい社会を実現するとする「共生」に加え、認知症の「予防」が重要な柱として設定されたこと。 つまり、「共生」と「予防」とが、認知症施策の2本柱として、明確に示された点です。 本来的な意味での共生社会を実現するには、認知症の当事者の方々が、主体となって活動できる場を増やしていく社会であることが必要です。 その意味で、日本認知症本人ワーキンググループが掲げる「認知症とともに生きる希望宣言 一足先に認知症になった私たちからすべての人たちへ」は、「そもそも共生社会とは何なのか?」を考えるにあたって、非常に重要な指摘であるとも考えられるのではないでしょうか。 またそれは、「予防」という視点でも同様にとらえることができそうです。 いずれにしても、「自分たちが当事者となって、主体的に関わることが重要」との考え方が提示されている、ととらえるのが、この認知症施策大綱案のポイントと考えられるということです。 なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。 参考までご確認ください。 kantei. mhlw. soumu. wam. jdwg. nikkei.
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新大綱の冒頭では、今後、我が国の高齢化はますます進行し、併せて総人口の減少も進むことが見込まれていること等から、これまでの我が国の社会モデルが今後もそのまま有効である保証はなく、10年、20年先の風景を見据えて持続可能な高齢社会を作っていくことが必要である、と謳われている。 高齢者の体力的年齢は若くなっていること、就業・地域活動など何らかの形で社会との関わりを持つことについての意欲も高いことなどから、65歳以上を一律に「高齢者」と見る一般的な傾向はもはや現実的なものではなくなりつつあり、70歳やそれ以降でも、意欲・能力に応じた力を発揮できる時代が到来しているとも指摘した。 こうした現状認識のもと、新しい大綱は、高齢化が一段と進む中、すべての世代が満ち足りた人生を送ることができる環境に向けて、意欲ある層の能力発揮を可能にする環境整備と、支援が必要な層へのセーフティネットの整備の両面に配意した内容となっている。 新しい大綱には、24年大綱の策定後に示された新しい政策方針が、以下のように反映された。 少子高齢化の流れに歯止めをかけ、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、障害や難病のある方も、家庭で、職場で、地域で、あらゆる場で、誰もが活躍できる一億総活躍社会の実現に向けて、「ニッポン一億総活躍プラン」に基づく取組を推進する。 また、技術革新の成果が新たな視点で課題への解決策をもたらす可能性を踏まえて以下のような方針を明示した。 また、こうした目的での技術革新の活用に多世代が参画して、それぞれの得意とする役割を果たすよう促すことが必要である。 新しい大綱の各論においては、図に示すとおり6つの分野「就業・所得」、「健康・福祉」、「学習・社会参加」、「生活環境」、「研究開発・国際社会への貢献等」、「全ての世代の活躍推進」について具体的な対策の方向性が定められ、以下のような内容が盛り込まれた。 【高齢期の就業意欲の高まりを踏まえた社会保障制度の見直し】 「年金の受給開始時期は、現在、60歳から70歳までの間で個人が自由に選べる仕組みとなっている。 このうち65歳より後に受給を開始する繰下げ制度について、積極的に制度の周知に取り組むとともに、70歳以降の受給開始を選択可能とするなど、年金受給者にとってより柔軟で使いやすいものとなるよう制度の改善に向けた検討を行う。 」 新しい大綱の閣議決定後、厚生労働省にて開催された第1回社会保障審議会年金部会(平成30年4月4日開催)で具体的な検討が開始。 第1回会合では、今後の議論の進め方及びこれまでの制度改正のレビューが議題となった。 平成31年の財政検証の結果を踏まえ、制度改正に向けて検討を行っていく予定。 【人生の最終段階における医療の在り方】 「人生の最終段階における医療は、患者・家族に適切な情報が提供された上で、これに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人の意思決定を基本として行われることが重要である。 このため、患者の相談に適切に対応できる人材の育成等による体制整備を行うとともに、国民向けの情報提供・普及啓発を推進する。 」 このテーマについては、大綱の改定に先立ち、開催された「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」において平成29年8月から検討が進められてきた。 新しい大綱の閣議決定後、同検討会で更に検討が深められ、平成30年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」へ改訂・公表した。 従前のガイドラインでは、医療従事者からの適切な情報提供に基づき患者本人による決定を基本とすべきこと、人生の最終段階における医療行為の開始・不開始・変更・中止等は多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって慎重に判断すべきこと、可能な限り不快な症状を充分に緩和し、患者や家族の援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要であることなどが謳われていた。 今回の新たなガイドラインでは、このような内容に加えて• 病院だけではなく、在宅医療や介護の現場において活用できるよう、表題に「・ケア」を追記するとともに、医療・ケアチームの対象に介護従事者が含まれることを明確化• 心身の状態の変化等に応じて、本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等、事前に日頃から繰り返し話し合うこと(ACP)の重要性を強調• 本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくことの重要性 などの観点から見直しを行った。 また、検討会報告書では、人生の最終段階における医療・ケアについて、本人の意思に沿った医療・ケアが行われるよう考える機会を確保し、家族等と話し合う取組を、国民に対し普及・啓発していくこととしており、今後、厚生労働省において具体的な普及・啓発の取組を進めていく予定である。 【認知症高齢者支援施策の推進など】 「高齢化の進展に伴い更に増加が見込まれる認知症高齢者やその介護を行う家族等への支援を図るため、『認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)』(平成27年1月27日策定、平成29年7月改定)を踏まえ、認知症への理解を深めるための普及啓発や認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等が提供される循環型の仕組みを構築するために認知症初期集中支援チームの設置及び認知症疾患医療センターの整備等の施策を推進するとともに、認知症の人の介護者への支援や認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの取組を推進する。 」 厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる平成37(2025)年を見据え、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し、新たに「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン)を関係府省庁と共同で策定した(平成27年1月27日策定、平成29年7月改訂)。 新しい大綱には、新オレンジプランの推進のほか、認知能力の低下への対策として以下のような内容が幅広く盛り込まれた。 高齢投資家の保護については、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)の進展も踏まえ、認知能力の低下等の高齢期に見られる特徴への一層の対応を図る。 認知機能検査及び高齢者講習の実施等により、高齢者への交通安全意識の普及徹底、高齢者の交通事故の防止を図る。 振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺等の高齢者が被害に遭いやすい犯罪、認知症等によるはいかいに伴う危険、悪質商法等から高齢者を保護するため、各種施策を推進する。 健康立国の構築に向けて、認知症、虚弱(フレイル)等の健康課題や生活環境等に起因・関連する課題に対し、「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)で提唱したSociety 5. 0の実現を目指す一環として、最先端科学技術を活用・実装すること等により、これらの課題解決に取り組む。 認知症等高齢期にかかりやすい疾患や、がん等高齢期の主要な死因である疾患について、その病態や発症機序解明等の研究とともに、ゲノム科学など先端科学技術の活用等による、新たな医療技術・新薬の研究開発やその成果の臨床応用のための研究、これらによる効果的な保健医療技術を確立するための研究等を推進する。 【交通安全の確保】 「高齢者に配慮した交通安全施設等の整備、参加・体験・実践型の交通安全教育の推進、認知機能検査及び高齢者講習の実施、運転適性相談の充実、運転免許証を返納した者の支援のための取組の促進、高齢者交通安全教育指導員(シルバーリーダー)の養成、各種の普及啓発活動の推進等により、高齢者への交通安全意識の普及徹底、高齢者の交通事故の防止を図る。 特に高齢運転者による交通事故防止については、『高齢運転者による交通事故防止対策について』(平成29年7月7日交通対策本部決定)に基づき、改正道路交通法の円滑な施行、高齢者の移動手段の確保など社会全体で生活を支える体制の整備並びに運転免許制度の更なる見直しの検討、安全運転サポート車の普及啓発及び高速道路における逆走対策の一層の推進など高齢運転者の特性も踏まえた更なる対策を政府一体となって推進する。 」 高齢人口の増加に伴い、75歳以上の高齢運転者が第一当事者となる交通死亡事故件数が全交通死亡事故件数に占める割合は高まっている。 新しい大綱の検討開始に先立つ平成28年11月15日、政府は「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」を開催するなど、高齢運転者による交通事故の防止について政府一体となって取組を進めてきた。 80歳以上の高齢運転者による交通事故死者数は、平成28(2016)年の1年間で266人に上る。 新しい大綱では、大綱に明記された上記の取組を通じ、平成32(2020)年までに80歳以上の高齢運転者による交通事故死者数を200人以下とする数値目標を掲げている。
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