俺ガイル ss 破局。 【俺ガイル】由比ヶ浜結衣はレベルが上がりやすい(前編) : SSでレッツゴー

女の子だらけの職場で俺がヒロインなのは間違っている

俺ガイル ss 破局

舞台は俺ガイル寄りで、期間的には俺ガイルは夏休み前。 物語シリーズは、皆、怪異から脱出したパラレルワールドとお考えください。 01 ID:kXzV57rP0 『ボランティア活動についてのレポート』 2-F 比企谷 八幡 ボランティアとは偽善であり自己正当化である。 そもそも人間は、自らにとって利益が無いものは行わない。 逆説的に、ボランティアにも。 無償と喚きつつ、何かの利益があるはずである。 その解は簡潔だ。 体裁である。 良い人。 素晴らしい人。 出来た人間。 そういう世間体を利益として獲得できるのだ。 アーティストがチャリティーライブをやれば、そのアーティストの評価が上がり。 結果、ライブ一回分より大きな報酬になる。 CD売上とか。 しかしながら、それが悪いとは言わない。 やらない善よりやる偽善という言葉がある。 結果的に助けられる人間が生まれるのだからWINWINである。 世間体を気にする方々は、もっと率先してボランティアに従事すべきだ。 そこで言いたい。 これはWINWINでのみ成立しなくてはならない。 すなわち、どちらかがルーザーではいけない。 この場合のルーザーとは、世間体や体裁という報酬が利益にならない人間だ。 すなわち、俺みたいなぼっち、いや1人を好む者にとって周りの評価は必要ではない。 赤ん坊に外車を渡すようなものだ。 不必要なのだ。 よって、俺がボランティアを学校行事とか言う強制力で行わせるのは間違っている。 それは既に強制労働だ。 ストライキも辞さない。 全ての時間が残業対象だ。 そもそも、俺みたいな人間一人が誰かを助けるなんておこがましい。 むしろ俺が助かりたい。 この青春とか言うドラマティックな諸悪達から。 更に言えば、俺が助けられるほどの人間なら、自分の力で勝手に助かってるハズだ。 以上から総合的に考えて。 ボランティアなんていう偽善事業は、有志を募って行うべきだ。 俺は参加したくともその資格がありません。 なので今回は欠席しました。 86 ID:kXzV57rP0 序章 『とにかく、羽川翼はブレない』 00 平塚「チッ……はぁ……」 舌打ちとため息のハイブリッドを繰り出す、目の前の生徒指導の教師、平塚静は俺を先ほどから睨みつけてくる。 俺が提出した、レポートと俺を交互に睨みつけてくる。 いや、マジ怖い。 やめて。 平塚「私は、先日のボランティアの課外活動に欠席した比企谷にレポートを頼んだのだが?」 比企谷「はぁ……」 平塚「課したものはなんだったかな?」 比企谷「ボランティアについてのレポートです……」 平塚「そうだな?じゃあ何故最終的に欠席の言い訳になっているんだ?」 その指でトントンするのやめませんか?圧迫面接です。 誘導尋問です。 そのリズミカルな音が、衝撃のファーストブリットへのカウントダウンにしか聞こえない。 しかもそれキャンセルボタンなさそうですよね?本当に痛いから勘弁してほしいんですけど……。 比企谷「いえ、その。 ボランティアについて自分なりの考えを述べる上で、結果自分の正しさも一緒に証明したんです。 ホラ、一粒で二度おいしいってヤツです」 平塚「そうか、なら2度も楽しめたお礼をしなくちゃいけないな……。 すまない。 私は一粒で一度しかうまみを与えられないのでな」 比企谷「ちょっとタイムタイム!そのうまみって一部の人間がご褒美と崇めるタイプのうまみでしょ!?ノー!ストップ暴力!」 懇願むなしく、俺の願いは棄却された。 おい、朝ごはん。 戻ってくるな、喉までただいまをしてくるな。 お帰りじゃなくてお帰り下さいお願いします……。 比企谷「ぐへ……」 そうやってすぐ拳で解決しようとするから貰い手が居ないんじゃないんですか? と、言えばラストブリットが来るのはわかっているので心の奥底に投げ捨てた。 平塚「まあ、セカンドブリットは保留にしておこう。 結局君は何も変わっていないんだな」 比企谷「ふぅ……。 前にも言ったように変わる事は本人の意思です。 俺のモットーは初志貫徹!」 平塚「あ?」 比企谷「いや、すみみゃへん」 アンタ、本当に先生ですか?どこにヤンキーみたいに生徒に向かって睨みきかせる教師が居るんですか?咄嗟に謝っちまったよ。 寧ろ下半身が緩くなりそうなほどだ。 平塚「そもそも、君に半永久的に課している奉仕部での活動こそ。 そのボランティアだと思うのだが?」 比企谷「いえ、それは先生が無理やりさせているからであって。 辞めていいと言ってくれれば今からでも辞めます」 平塚「まあ、それなら本格的に君は3年じゃあ卒業できないな」 比企谷「でしょう?それが奉仕部においてのメリットですよ。 その利益が無いと俺はボランティアとかしない。 そもそも、今回休んだのも不可抗力であり故意ではないので……」 平塚「……」 比企谷「レポート書きなおします」 無理。 正当な意見でさえも言える雰囲気じゃないっす。 警察の取り調べとかも、こうやって無罪の人々が自白させられてしまうのか……。 平塚「よろしい。 はぁ、それにしても君の目は4月から寸分違わず腐ったままだな」 ほっとけ。 01 ID:kXzV57rP0 「失礼します。 平塚先生はいらっしゃいますか?」 不意に、職員室の入り口から、透き通る声がした。 例えるならば、メガネを掛けてテレビの中に入るスパッツガールとか。 我儘で自己陶酔なゴールデンな時間を生きるお嬢様とか。 オッドアイで世話上手な麻雀部部長。 みたいな声。 そして俺と今対面している平塚先生の名前が呼ばれたので、俺はその声の方へと向いた。 まあ、その声の主を見た所で、この学校の生徒という時点で見覚えはあるはずないけど。 案の定女子だった。 リボンから察するに3年生。 見た目から察するに良い人。 多分委員長。 三つ編みが両端から伸びていてメガネをかけていて。 まさしく真面目です!と主張せんばかりの見た目だった。 いや、失言だった。 その胸部は真面目ではない。 平塚「ん?ああ、羽川か」 平塚先生はどうやら知り合いらしく、手でその委員長さんを職員室に招き入れた。 まあそもそも知り合いだから委員長さんは平塚先生を名指ししたんだよな。 いや、待て待て。 俺今勝手に委員長って名付けたけど、これ委員長じゃなかったら悪口じゃね? 羽川「あ、先日のレポートを提出に来ました」 平塚「すまないな、委員長だからと雑務を任せてしまって」 あ、今正解発表来たよ!パンパカパーン!比企谷選手大正解です! やはり、俺のぼっち特有識別眼に狂いはなかったようだな。 ってか、先生一度でいいから俺が雑務している時もそういう台詞くださいよ。 いつもいつも「おう」しか言ってくれないじゃないですか。 俺委員長でもないのに。 何?亭主関白なんですか?身近にいるとそれが当たり前になっちゃうんですか? 離婚沙汰よ!そういうのが破局の原因になるのよ!もう信じらんない!八幡ぷぅ! 比企谷「いや、でもそもそも破局以前か……」 平塚「ん?何か言ったか比企谷?」 ヤベッ!声出ちゃった!家で独り言話す癖でつい音声をオンにしちゃってたよ。 あぶねーあぶねー。 あれだよ、PCとかでイヤホン抜けて女性の不埒な声が部屋中大合唱とかそんな感じの不可抗力ですよ。 って誰に言い訳してんだよ。 平塚「あ、申し訳ありません。 面談中でしたか?」 俺を視認して改めて委員長さんは畏まった。 なにその言葉づかい。 社会人ですか? 平塚「ん?あぁ、そんな感じだ。 まあそんな大した話はしていないから。 安心したまえ。 羽川が聞いてマズい話などではないよ」 すると、委員長と俺は目があった。 いや、正直に言うと、胸部を見ようとした時に委員長さんがこっちを向いた。 ヤバい。 何あのおっぱい。 ダイソンなの?目線の吸引力半端じゃないんだけど。 羽川「あ、初めまして。 3年の羽川翼です」 いきなりの自己紹介に俺は目を見開いてのけ反る。 いや、別にそんな礼儀正しくされても、俺なんてもう2度と会わないレベルの底辺カーストですよ?何この人。 素直にスゲェ。 61 ID:kXzV57rP0 羽川「比企谷くん?ああ、奉仕部の比企谷くんですか?じゃあ、ひょっとして部活のお話でした?」 比企谷「え?あ……ウス」 何で知ってんの?怖い、怖いよ。 俺の事が実は好きだったパターン…。 は、数学でゼロとみなせる確率なのであり得ないとしても。 ユキペディアよりペディってるって。 ペディりすぎてヤバい。 …………いや、まぁ。 そもそもペディってるなんて造語ないけども。 平塚「羽川……君は本当に何でも知っているんだな」 羽川「いえいえ。 そんなことありませんよ」 平塚「まあ、一言で言って、問題児のような子だよ、比企谷は」 比企谷「誰が問題児ですか誰が。 多感な時期の子供に滅多なこと言うと不登校になりますよ?俺」 平塚「自分で言える奴は不登校にはならんよ。 ……あ、そうだ」 平塚先生が手を叩いて、何かを思いついた素振りをする。 絶対楽しい事じゃないのは予想できる。 だからこそ俺は無言で聞かない。 こういうときは敢えて空気を読まずにスルーするのが良いに決まっている。 アレだ、友達の「あー…もう最悪」と一緒。 どうしたの?って聞いたら愚痴のオンパレード。 ってか俺に友達いねーけど……。 羽川「どうされました?平塚先生?」 はぁ……。 この委員長さんはどうやら空気を読んでしまったようだ。 そのパンドラの箱を開けると被害が来るの俺なんだけどな……。 平塚「羽川、君は今週末の課外活動にボランティア活動を選択していたよな?」 羽川「え?ああ、はい。 山のゴミ拾いですよね?」 平塚「ああ、そうだ」 オチ、読めるんだけど。 えー……それは嫌だ。 断固拒否。 平塚「比企谷?」 比企谷「………嫌です」 平塚「まだ何も言ってないのだがな?」 比企谷「どうせアレでしょ?そのボランティア活動に俺も参加しろって言うんでしょ? 3年生の人たちの中に1人行けと?いやーペナルティにしても重すぎる刑罰ですよそれ。 もう少し情状酌量の余地という物もあっていいんじゃないでしょうか?」 もう殴られてもいい。 ただこの状況で最悪なのはこの議題が否決される事だ。 だからこそ俺は拒絶する。 必死に否定する。 だってそもそもボランティア活動を欠席したのも。 小町が熱出しちゃったからなんですよ? お涙頂戴の美談ですよ? だから俺は悪くない。 故に理不尽だろうが勘違いだろうが。 34 ID:kXzV57rP0 平塚「情状酌量の余地……ねぇ?」 平塚先生が口をとがらせて、人差し指を唇にあてる。 その考える仕草。 ちょっと可愛い……。 でも年齢的にアウトです。 残念……。 羽川「私は構わないよ?比企谷くん。 基本的に班行動で、私たちだけ3人班だから」 委員長さんが笑顔を向ける。 いや、その聖母みたいな包容力にも俺は騙されない。 ここで更に! 比企谷「いやー。 そういうじゃないですか?でもですね? 例えば、それ現地集合ですか?」 羽川「え?ううん。 学校に集合してから出発だよ?」 比企谷「ホラ、そもそもまずそこですよ。 そこで俺が1人学校の3年集合の最中に行けば。 「あれ?誰?」「2年?」「間違えてる?」「え?何でいるの?」 と……。 陰口、誹謗中傷、嘲笑いの集中豪雨ですよ」 羽川「いや、そんな事……」 比企谷「ないかもしれませんが、あるかもしれない。 そもそも、俺の精神がすり減ります」 羽川「うーん…。 あ!じゃあ、私と一緒に居ればいいよ。 私と話せばいいじゃない? 会話に気を取られてそんな被害妄想はできなくなるでしょ?」 比企谷「……まあ、じゃあ次に。 移動方法はどうですか?」 羽川「え?バスだよ?」 比企谷「でしょう?あれって、ボッチを否定した乗りものなんですよ。 ホラ、座席。 2人一組じゃん。 だから俺が参加する事で、誰か一人がハズレくじを引くことになりますよ? つまりは俺、ハズレ担当」 羽川「じゃあ、私と乗ろうよ。 3人班だから、阿良々木君と戦場ヶ原さんが乗って。 私と比企谷くん。 ホラ、これで君はハズレじゃなくなる」 比企谷「……まぁ、そうッスね」 羽川「それとも。 嫌かな。 私とじゃあ……。 22 ID:kXzV57rP0 え?なにこの委員長さん。 俺の捻くれた意見さえも笑顔で背負込んじゃうんだけど。 聖母かビッチですか?もしくはその両方。 いや、聖母でビッチって何だよ。 聖母ビッチ……。 略して聖母ッチ。 俺じゃん。 平塚「比企谷……。 君がそこまで言うなら。 私からも譲歩しよう」 比企谷「え?」 平塚「比企谷……。 君に奉仕部に依頼することを許そうじゃないか」 比企谷「え?ちょっと。 違いますって……ですから」 平塚「君は情状酌量の余地をくれと私に言ったのだろう? ならば、逆にいえば。 譲歩さえすれば行くと言った事に等しいのではないのかな?」 暴力の強制力と、優しさの強制力。 どこぞのバトル漫画の解説役っぽく言うなら、「このペアなら、神をも倒せる」と言わんばかり。 でも、俺は神どころか紙耐久なんですよ。 とにもかくにも、もう未来は決まっちゃってる。 選択肢も希望も。 俺の未来には存在しない。 81 ID:kXzV57rP0 俺ガイルSide 第一話 『しかしながら 雪ノ下雪乃は了承する』 「意味が分からないのだけれど」 奉仕部。 平塚先生と、脅威の驚異の胸囲の委員長との板挟み攻撃を喰らった俺は、放課後、足早にそこへ行く。 ……あの二人に板挟みされる。 その言葉の響きはそう悪い物じゃないなと、ちょっと口角が緩んだ。 雪ノ下「意味が分からないと言っているの」 いつにもなく冷淡に喋るなコイツ。 なんだ?飼い犬にでも手を噛まれたのか? いや、雪ノ下の場合犬というより猫…かな? 雪ノ下「聞いてるのかしら?貴方の発言に対しての返答だったのだけれど……。 ちなみに、その顔は凄く不快だから今すぐ辞めないのであれば警察を呼ぶわ」 比企谷「え?変な顔してた?」 雪ノ下「いえ、真顔」 比企谷「真顔が不快ってか?ったく……。 まぁ、その。 なんだ? そういう事を言われてさ。 平塚先生に」 部室には雪ノ下雪乃がいつものように椅子に座って読書に励んでいた。 そこに俺がいつものように来て、昼の事を話した。 比企谷「だからよ、奉仕部の依頼として。 お願いしてんだよ。 俺が3年生の中1人でボランティア活動に参加させられるから。 お前と由比ヶ浜に手伝ってくれと」 雪ノ下「その言葉の意味は分かっているわ。 それに対しての納得と言う意味で求めているのだけれど。 それは結局、あなた個人の責任でしょう?自業自得。 その尻拭いを何故しなくてはならないのかしら?」 比企谷「奉仕部なんて元々そんなもんだろ?誰かの面倒くさい事を助けるんじゃねーのかよ」 雪ノ下「勘違いしているようね。 奉仕部は決してそのような事をしない。 魚を取ってあげるのではなくて、その取り方を教えるのよ?」 比企谷「ああ、確かにそうだったな。 じゃあ、その魚の取り方を教えられる依頼者が、体が動かせない状態だったらどうすんだ?」 雪ノ下「それは……。 目的が食事というのであれば。 魚以外の食物で、依頼者が可能な方法で採取できる物を教えてあげればいいじゃない」 比企谷「アントワネットかよお前。 じゃあ、その例になぞって、俺はその動けない依頼者だ。 どうするんですか?」 雪ノ下「自分で自分を無能だと言っているのだけれど、それは理解できているの?」 比企谷「当たり前だ。 そう言ってんだから。 俺にはコミュ力とか言われるパラメーターはいくらレベルが上がっても上がんないんだ」 雪ノ下「そうね、貴方にコミュニケーションを求める方が間違いね」 比企谷「おい、「力」をつけろ。 84 ID:kXzV57rP0 雪ノ下「はぁ……。 まぁ、この会話に生産性が無い事も分かり切っている事なのだけれど。 で?それは、いつなのかしら?」 え?いまこの方は「いつ」と聞きました?それって日時を示す、when的な意味のいつですか? 何?意外とやる気だったりしてくれんの?ツンデレゆきのん最高っすわ……。 比企谷「え?今週末。 正確には土曜日の8時半に校庭集合」 雪ノ下「ふぅん。 いってらっしゃい」 比企谷「え?いやいや、え? なし崩し的に「あーもうしょうがないわねー」っていう。 そういう展開じゃねーんですか?」 雪ノ下「比企谷くん。 世の中はそんなに甘くないわよ?」 比企谷「世の中じゃなくて、お前が甘くねーんだよ。 世界とお前を一緒に語るな。 糖分とれ糖分。 MAXコーヒーとかお勧め」 雪ノ下「あら?味覚的な甘さの議論をしているつもりはなかったのだけれど。 やはりコミュニケーションを取るのは難しいようね」 比企谷「あーわかりましたわかりました。 もういいです。 1人3年生の荒波にもまれてきますよ」 雪ノ下「ええ、ちょっとはマシになるんじゃないのかしら」 比企谷「チッ……」 食えねえヤツって言葉があるけど。 雪ノ下はそもそもそれ以上だ。 喰いたくないヤツ。 いや、性的な意味では断じてない。 最初から期待はしていなかった。 他の誰かの頼みならいざしらず。 俺の頼みを二つ返事で了承するわけがない。 むしろ笑顔で崖に突き落とし、更なる笑みで高みから手を振ってくるに違いない。 本当に友達じゃなくてよかった……。 むしろ、こいつと友達になれる奴の気がしれねぇよ。 そいつはあれだな。 とびっきりのバカか、聖母くらいだ。 53 ID:kXzV57rP0 由比ヶ浜結衣。 俺と雪ノ下と同じ部活の人間だ。 雪ノ下の一方的……、いや。 既に相思相愛か?まぁ、友達だ。 由比ヶ浜「え?何ヒッキー。 ゼンシャ…?」 雪ノ下「おはよう。 由比ヶ浜さん」 由比ヶ浜「うん!ゆきのん、やっはろー!」 由比ヶ浜はいつものように、いつもの場所へ座る。 俺と雪ノ下が、机の端と端に座るその中間。 由比ヶ浜「でさーヒッキー。 ゼンシャって何?」 比企谷「あ?いや……なんでもねーよ」 由比ヶ浜「むー。 変な意味だったらぶっとばすかんねー?」 年頃の女の子がぶっとばすとか言うな。 もしも小町がそんな言葉づかいし始めたらお兄ちゃん泣くよ? ん?待てよ? 比企谷「あ、そうだ由比ヶ浜」 コイツに頼めば……。 由比ヶ浜に頼めば、ボランティア活動に一緒に来てくれるんじゃねえのか? 俺からが無理でも、由比ヶ浜からなら成功率は飛躍的にあがる。 まるで孔明さながらの機転! 由比ヶ浜「ん?どしたのー?」 比企谷「今週末。 ボランティア活動に行かなきゃいけないんだが…。 その、一緒にいかねーか?」 由比ヶ浜「ふぇ?……それって?え?え?」 え?なんでそんなキョドんの?やめてよ。 俺変な事言ったか? 雪ノ下「落ち着いて由比ヶ浜さん。 デートの誘いじゃなくて拷問の同伴のお願いよ?」 由比ヶ浜「え?」 比企谷「えっとな……」 雪ノ下にさっき言ったのと同じように、俺は由比ヶ浜にも昼の事柄を説明した。 由比ヶ浜「……なーんだ。 でもそれヒッキーの自業自得じゃん? それにあたしたちが付いていく意味はなくない?」 比企谷「まあ…そうなんだがな」 雪ノ下に正論を言われるのはいつもの事だが、事、由比ヶ浜に関して正論を言われると若干傷つくことが判明。 もういっそアレだ。 当日に体調不良を訴えよう。 そうすれば万事解決。 そうすればボランティア活動に参加できなかった罰の。 ボランティア活動に参加できなかった罰として。 今度はちゃんとしたレポートを書こう。 平塚先生からの暴力は甘んじよう。 この二人を説得できない俺のトークスキルを恨もう……。 75 ID:kXzV57rP0 由比ヶ浜「まあ、でも……いいよ?」 比企谷「え?」 逆転サヨナラ満塁ホームラン?まさかの? 顎が鋭くなりそうな感じに、俺の心はざわついた。 由比ヶ浜「ヒッキーには、色々助けてもらったし。 なんか、そういう恩返しじゃないけど。 ヒッキーが困ってるんなら。 力になってあげたいなーって……えへへ」 ………なにコイツ。 え?俺今ゲームしてたっけ?ときめいちゃうメモリアっちゃうゲームしてたっけ? ラブをプラスしてたっけ?なんで目の前でイベント進んだの? 勘違いするじゃねーかよ。 やめろよ由比ヶ浜。 そのビッチスキル発動すんな。 比企谷「いいの?」 由比ヶ浜「うん……。 だって、あたしが居れば、その。 ちょっとは……安心…でしょ?」 比企谷「お……おぅ……さんきゅ……」 目を見れない。 何これ。 ただ学校の課題を手伝ってもらうってだけなのに。 すっげー恥ずかしい…。 02 ID:kXzV57rP0 雪ノ下「はぁ……良かったじゃない比企谷君。 これで1人じゃなくなったわね」 由比ヶ浜「うん!これで3人!」 雪ノ下「え?その人数の内訳は聞きたくないのだけれど」 由比ヶ浜「ゆきのんも行くでしょー?」 これだよコレ。 由比ヶ浜の速攻トラップ効果!リア充オーラ! 「おーい置いてくぞ?」「バーカ。 俺たちもう友達だろ?」みたいなヤツ。 由比ヶ浜のこういう攻撃には、流石の雪ノ下様といえども太刀打ちできまい。 雪ノ下「残念だけど、私は由比ヶ浜さんのようにこの男に恩を返す必要が無いの。 だから奉仕部としては今回否決されたこの男の願いをかなえる義理はないの」 由比ヶ浜「願いとか恩とか……。 むー!いいじゃん!3人で行こうよ!」 雪ノ下「……何故?そこまで食い下がる意味を知りたいのだけれど」 由比ヶ浜「だって……ヒッキーと二人っきりだと……その……。 デートみたいで……」 デートってお前。 3年生のボランティア活動だろうがよ。 そんな風に見えねぇよ。 まぁ、由比ヶ浜にしてみれば。 俺と二人でいるってのが噂になると困る種なんだろうな…。 自他共にそれは認めている。 雪ノ下が、由比ヶ浜の方をちらりと見て、1つだけため息をついて本を閉じた。 雪ノ下「今回だけよ?」 由比ヶ浜「さっすがゆきのん!」 何はともあれ雪ノ下はついてきてくれる。 いや、これが必要だ。 奉仕部の3人が全員参加することが重要なのだ。 これで傍から見れば『部活動』だ。 俺が1人で行くのとは雲泥の差。 元々、1人で行くのとさして変わるわけがない。 向こうで会話する相手を欲するんなら、戸塚を誘う他ないから。 でも、周りの目。 そこをどうにかするにはこれしかない。 部活動を知らなくとも、女子2人がボランティア活動に参加したがっていて。 仕方なく俺が付き添うと言った形に見られればそれで良し。 完全なカモフラージュ。 これで乗り切れる。 後は同じ班の委員長さんと他2名と適当な言挨拶を交わしてゴミ拾って帰ればいいだけ。 85 ID:Nw11kqOB0 物語Side 第貳話 『こよみボランティア その壹』 01 「意味が分からないのだけれど」 彼女はそう言った。 簡潔に冷徹に明瞭に正確に言い放つ。 いっそ突き放すという表現もハマるほどの言葉で、言い放つ。 戦場ヶ原ひたぎ。 彼女は私、羽川翼の相談にたった一言言い放つ。 羽川「うーん。 簡単に言い換えて、更に良いように意訳すると。 私たちの班だけ3人班だから、他の6人班と合わせる形で後輩が班に加わるってことかな?」 それはお昼の事である。 比企谷八幡という人間と、たまたま出会った私は、流れで週末のボランティア活動を共にする。 それの了承。 というか、既に事後報告を今。 戦場ヶ原さんに伝えている最中なのである。 戦場ヶ原「いえ、確かにボランティア活動への参加の指揮は羽川さん。 貴方に任せたのだけれど。 これは意外ね。 まさか私も、面識のない人間と、ましてや回生が違う人と班を組むなんて思わなかったもの。 私のような人間が、あなたは、初対面の人間と楽しく清く正しく共に歩めると思うのかしら?」 羽川「大丈夫じゃないかな。 その子たち…。 まぁ、正確にはまだその全員と決まったわけじゃないけど。 同じ班になる3人は、『奉仕部』っていうそもそもボランティア活動みたいな部活動をしている人たちだし。 」 戦場ヶ原「奉仕部?聞いた事のない部活動ね。 淫靡な響きさえするわ」 羽川「淫靡って。 今日日女子高生が、むしろ若い人が使っていい言葉じゃない気もするけど。 まぁ、あんまり知られてない部活動であるのは確か。 ホラ、あの平塚先生の部活」 戦場ヶ原「平塚?ああ、あの白衣を常に来ている戦闘民族? 勝手な想像で運動部の顧問だと思っていたわ」 羽川「あの人結構アグレッシブな所あるからね……。 でも、戦闘民族は酷いと思いよ?あの人も女性だし」 戦場ヶ原「あら、私も女性なのだけれど」 羽川「私がいつ戦場ヶ原さんに性別的に酷い事を言ったのかな?」 戦場ヶ原「淫靡の下り」 羽川「ああ、そこで傷ついちゃうんだ…。 戦場ヶ原さん意外と繊細なんだね」 戦場ヶ原「そう、友人から。 私の数少ない友人から罵倒されて私はもう立ち直れないわ。 残念だわー。 こりゃボランティア活動も行けそうにねぇぜぇー」 羽川「棒読みで説得力のかけらも感じられないし……。 何かに理由つけてるけど。 とどのつまり戦場ヶ原さんは3人で行きたかったの?」 戦場ヶ原「あら、何を当たり前のことを言っているのかしら。 3人で行って。 66 ID:Nw11kqOB0 羽川「うわぁ。 なんていうか、私が言うべきじゃないんだろうけど。 普通こういう場合は、大抵。 逆じゃないかな? 阿良々木君と戦場ヶ原さんが仲良くするのを恋敵の私に見せつけるんじゃないのかな?」 戦場ヶ原「それならそもそも同じ班に誘わないわよ」 羽川「正論を突然言われると返す言葉がありません……」 戦場ヶ原「で?残念ながら。 誠に遺憾ではありながらも。 その子たちは同じ班になっちゃうのかしら?」 羽川「うーん。 戦場ヶ原さんがそこまで拒絶するのなら。 私は明日にでも断るんだけど。 私、その比企谷君って子と約束しちゃったんだよね。 一緒に行くって。 約束は破れないから、それなら私はあの子たちの班に入ることになっちゃうね」 戦場ヶ原「いやいや羽川さん?それはもしかするともしかしてなのだけれど。 私が阿良々木君と二人っきりのツーマンセルって事?」 羽川「そうだね」 不意にそう言うと、これもまた不意に。 彼女は眼を見開いて、見て分かるくらいにたじろいだ。 戦場ヶ原「いやよ。 絶対に嫌。 それだけは絶対に嫌。 勘弁してくださいすみませんでした」 羽川「実の彼氏と二人っきりになれるシチュエーションに対する返答じゃないよね。 じゃあ、戦場ヶ原さんの選択肢は1つだけになったんだけど?」 戦場ヶ原「ええ、付いていきます。 付いていかせてくださいお願いします」 一瞬だった。 彼女が手のひらを返したのは瞬く間だった。 懇願ともとれるそれは本当に、理解が追いつく隙も見せず一瞬。 阿良々木「話は終わったのか?」 三日月形のクッションに横たわっていた阿良々木君が口を挟んだ。 ここでようやく思い出す。 別に忘れていたわけではなかったんだけれども。 ただ彼が部屋の隅に居るように。 彼の存在が私の脳の隅っこに押しやられていただけ。 戦場ヶ原「あら、いたの?阿良々木君」 阿良々木「ここは僕の部屋だ!いて当然だろ!」 そう、ここは阿良々木君の部屋だった。 私が、週末のボランティ活動について話があるって戦場ヶ原さんに伝えたら。 「あら、それなら今から阿良々木君の家でデートするから。 そこで話して貰えるかしら?」 と、誘われたのだった。 00 ID:Nw11kqOB0 02 阿良々木「で。 改めて質問するが。 話は終わったのか?」 羽川「うん。 戦場ヶ原さんに向けた報告は終わったよ。 次は阿良々木君の番だけど」 阿良々木「いや、僕に対する報告は大丈夫だ。 僕は二つ返事で了承するよ」 羽川「そう。 それなら安心だ。 でも、阿良々木君に伝えるのはもう一つ、違う事なの」 阿良々木「うん?ボランティ活動で、下級生が付いて来ることに対する了承じゃないのか?」 羽川「ううん。 そこじゃないの。 ねぇ、阿良々木君?」 私は1つ息を吸い込んだ。 大きく吸い込んだ。 今から息を吐きだすには、私のいつも通りの呼吸じゃあ足りなかったから。 でも、これは聞いておきたかった。 いや、正しくは。 確認したかった。 羽川「阿良々木君は、困った人が。 その困った人が男の子でも。 本人が助けを求めてなくても。 阿良々木君と似たような人間でも。 その子が困っているのであれば。 助ける?」 私が息を吸い込んで吐き出した言葉に対して。 阿良々木君は益々いつもどおりに喋る。 阿良々木「助けるだろうな。 多分、いや。 絶対」 やっぱり。 絶対的で独裁的で独創的な正義感をもった正義漢。 それが、阿良々木暦なのだ。 羽川「そう。 それを聞いて安心した」 私も同じく。 さっきとは対照的に。 いつもどおりに喋りかけた。 02 ID:Nw11kqOB0 03 「お兄ちゃん?ねぇ起きてる?お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね?そこにいるのは?ねぇ、お兄ちゃん?」 阿良々木「そんな何度も兄の名を呼ばずとも最初の一度目で聞こえている。 起きているよ。 月火ちゃん」 月火「そう。 それなら良かった。 いや、起きているなら尚更遅いよ?お兄ちゃん。 羽川さんともう一人、お友達が迎えに来ているよ?」 我が妹。 小さいほうの妹は、僕の彼女を、もう一人の友達と言った。 阿良々木「そうか、待ち合わせの時間には多少早い気もするが。 羽川の事だ。 10分前行動を基本にした10分前行動なのだろうな。 いや、寧ろ僕が寝坊するという可能性を考慮した上での20分前行動かな?」 月火「その考察をする暇があったら。 友達を待たせてしまっている兄に対して。 申し訳なく思って部屋まで全力疾走で迎えに来た妹の心情を汲んで欲しいよ?」 阿良々木「全力疾走の割に息が上がってないぞ」 月火「こんな距離で息が上がるのはお兄ちゃんくらいだよ」 阿良々木「そうか。 で?2人は今どこに居るんだ?」 月火「お邪魔しちゃうと親御さんに気を遣わせるって言って。 外で待ってる」 阿良々木「そうか。 すぐに行くと伝えてくれ」 月火「なんで私が伝えなくちゃいけないのかな?私はお兄ちゃんの妹ではあるけれど。 お兄ちゃんの伝言係じゃない! 人を電報みたいに使うなぁあ!」 いつにもなくピーキーだった。 阿良々木「わかった!行く!今すぐ行く!」 今日は週末。 ボランティ活動の当日。 そして、これから起こる事の前哨戦というかオードブルのような。 前菜に位置づけられる。 これから起こる事と全く関係のない妹とのなんでもない会話。 それから。 いや、これから。 身近で現実的な、怪異なぞ出る幕もないくらいの平凡な物語。 しかしながら、やはり間違ってしまっている物語が……。 幕を開く。 09 ID:Nw11kqOB0 俺ガイルSide 第3話 『何故か八九寺真宵はグイグイくる』 面倒くさい。 結局それは、当日の朝になっても変わらない俺の感情である。 比企谷「ふぁ~……」 小町「あ、お兄ちゃん。 おはよー。 なんでお休みなのに早起きなの? 今日、なんかアニメしてたっけ?」 比企谷「俺は別にアニオタじゃねーよ。 今日はボランティア活動があるんだよ」 小町「ボランティアぁ?何…?お兄ちゃん遂に変な宗教に入信しちゃったの!?」 比企谷「なんでだよ。 まず宗教を考えちゃう妹に俺は残念さを通り越して心配になるよ。 ってか前に言ったじゃんよ。 聞いてなかったのか?」 小町が偏差値の低そうな雑誌を読んでいる傍ら、俺はコーヒーに練乳を入れて一気に飲み干す。 甘くてうまい。 糖分を取るにはやっぱりこの、自家製MAXコーヒーだ。 朝のやる気が一気に満ち溢れる。 俺の目も、死んだ魚の目から死にかけ程度には回復する勢い。 小町「まーたそんなにコーヒー甘くして……。 糖尿病になっちゃうよー?」 比企谷「馬鹿。 俺にとっての最高の回復剤だ。 FFで言うならフェニックスの尾。 DQで言うなら世界樹の葉。 テイルズで言うならライフボトルなんだよ」 小町「お兄ちゃんって死者だったんだ」 比企谷「おう、そうだぞ。 だからこそ俺は死に物狂いに頑張るなんて無理。 何故ならもう死んでいるのだから」 小町「それだと生き返ってないじゃん。 んもー。 お兄ちゃん朝から下向き過ぎだよ? そんな事だと小町は心配だよ。 40 ID:Nw11kqOB0 そんなどうでもいい雑談を小町とずっとしていたところだが。 今日はそうもいかない。 先週末と同じように、空気を読んで小町が体調を崩す事もない。 ならば俺も腹をくくるしかない。 というよりも現状は先週よりしんどい。 先週ならただのぼっち課外活動だが、今回はそのハードルが軒並み上がっている。 3年生と共に行動しなくてはならない。 なんでこうなったんだ?酷いよ神様。 神様なんて信じないが、もしもいるのなら。 嫌いだ。 いてほしくない。 むしろ、だからこそ神様なんか信じてやるもんか! 小町「でもさーお兄ちゃん。 今回は小町もちょーっと罪悪感あるかなーって」 比企谷「あ?なんで?」 小町「だって、小町のせいでお兄ちゃん。 今日ボランティア活動行くんでしょ? 小町が熱を出さなかったらって思うと……」 比企谷「馬鹿野郎。 お前のせいじゃねーよ。 むしろ誇らしい。 更なる苦行を背負っても、俺は妹を助けられたんだからな? お前のために何かしてやれるなら俺は世界を敵に回してもいい! お?今の八幡的にポイント高いよな?な?」 小町「いや、今のはシスコンって言うより厨二ポイント高すぎでどん引き……。 まあそう言ってくれるなら嬉しいかな。 じゃあちゃっちゃと行ってらっしゃい! 帰ってきたらおいしい料理で出迎えてあげるからさ!」 比企谷「おう、期待してるぜ。 んじゃまあ。 いってくら」 小町「はいはーい」 家を出た。 朝日がまぶしい。 足は今にも180度踵を返してもいいと言っている。 頭の中の天使と悪魔も口をそろえて帰って寝ようと誘ってくる。 ため息しか出てこないので。 俺は一歩前に出る。 08 ID:Nw11kqOB0 通学は基本自転車。 でも、今日は。 いや、いつも別に足取りが軽いわけでもないが。 今日は尚更、足が重い。 だから俺は、自転車を押しながら徒歩で学校へ向かう。 時間ぎりぎりに行って、注目を浴びるのは嫌だったから。 早めのタイムスケジュールを組んでいる。 しれっと集合場所であるグラウンドの端。 いるかいないか分かんないくらいの所に身を潜める。 そして、由比ヶ浜と雪ノ下が来たら、これまたしれッとその中に交っていれば万事大丈夫。 オーケー。 抜かりはない……。 だったんだが……。 集合時間がギリギリになってしまうかもしれない事件が起きる。 なんだか知らんけど、後ろから幼女が突進してきた。 意味が分かんない。 俺も分かんない。 小学生か、多分それくらいの幼い女の子が、後ろから猛ダッシュで突進してきた。 壺でも買わされるんじゃないかと。 もしくは新種の当たり屋かとヒヤヒヤする。 63 ID:Nw11kqOB0 「阿良々木さーーーん!」 比企谷「うぐぉ!」 突進してきた幼女は、意味の分からない奇声を発していた。 既に事件だ。 「あれ?」 比企谷「だ…誰?」 振りむいた先にはやはり幼女。 しかし、今ぶつかって来たのに俺の方を向いて首をかしげている。 いやいや、かしげたいのは俺の方だっての。 勝手に首を傾けんな。 傾けんなって。 そんな傾げても、世界はおろか、物語だって傾かねーよ。 かぶかねーよ? 何この子。 メンタル強いな本当に。 ただの人違いでも俺だと顔から火が出るくらいに。 言うなればそれから1週間ブルーになっちゃうくらいの大ダメージなのに。 なんでそんなノーダメージなの?相手が俺だから? 「ごめんなさい。 人違いでした。 知り合いによく似ていたもので」 比企谷「は…はぁ。 そりゃどうも。 気を付けてくださいね」 人違いで突進されたらたまらねーよ。 俺が俺じゃなければ怒られてたよ?俺だから良かったものを……。 まあいいや。 考えるのはやめよう。 思考停止じゃなくて思考放棄。 帰って小町にする土産話ができたと思う事にしよう。 この子との関わりはそれで終了。 このまま会話を続けると事案が発生しそうだ。 「小学生に突進される男の事案が発生」 洒落になんないよ……。 「でも、あれー?私が見えるんですよね?」 比企谷「は?え?」 冷や汗が流れた。 何この子。 中二病なの?もしくはそういう人なの? 元々人と話す事を得意としない俺が、小さな子供。 ましてやそういう人と話すスキルはもってない。 「ああ、すみません。 私、八九寺真宵です。 はじめまして」 比企谷「え?あ、どうも。 比企谷です……」 不意に自己紹介しちゃった。 どんな流れですか?コレ。 52 ID:Nw11kqOB0 八九寺「えっと。 比企谷さんは、今なにをしてらっしゃるんですか?」 比企谷「いやいや。 いやいやちょっと待てよ」 思わず声に出しちゃった。 いや、いくら俺でも。 スルーされ続ける人生を歩んだ俺でさえもスルー出来ない。 どういうことだ?メンタルが強いとか、なんかそういう感じじゃない。 もしかして俺今、スタンド攻撃を受けている? グイグイ来すぎだろ。 何が浜結衣だよお前。 千葉村で会った小学生たちもこんなんじゃなかったぞ?小学生だよね?え? これ幻覚?俺、友達いなさ過ぎてこんな少女の幻覚見ちゃってるの? やべぇ、ボランティア活動行ってる場合じゃねえよ。 病院行かなくちゃ。 八九寺「ハッ!すみません。 初対面なのにずうずうしい質問でした。 知り合いにあまりにも良く似ているもので。 ナイリンの人間のように話してしまいました」 比企谷「いや、ナイリンって……。 それって多分。 「うちわ」って読むんですよ?」 八九寺「うちわ?いえいえ、別に暑くはありません」 比企谷「まあ真夏というにはまだ早いっすからね」 おっと。 普通に会話してしまった。 え?いやいや勘違いしないでもらいたい。 俺だって話しかけられれば普通に会話ごときできるんですよ? たじろいだりなんかしない。 それは勘違いしないでもらいたい所である。 と、自分に喋る。 それにしても、こうも話しかけられると。 俺だって興味が無いわけじゃない。 さっきから言われる「俺に似ている人」が気になる。 どうせ時間はあるんだ。 ちょっとこの意味の分からない少女と雑談を試みることにする。 62 ID:Nw11kqOB0 比企谷「その似ている人って、そんなに俺に似ているんですか?」 八九寺「ええ、制服も同じですし、髪型もソックリです。 雰囲気までもが」 なにそれクローンかよ。 ドッペルゲンガー? 絶対その人と会わないようにしないと、死んじゃうよ俺。 もしくはソレ、隣の世界の俺だよ。 いともたやすく行われるえげつない行為だよ。 それでも出会ったらくっついて死んじゃうよ? 比企谷「それで名前まで比企谷だったらそれ色々と不味いですね」 八九寺「いえ、名前は違います。 その人は阿良々木という人です」 比企谷「阿良々木?聞いた事あるな」 八九寺「え?あの最低最悪の畜生を知っているのですか?」 比企谷「いや、おいおい。 俺に似てるって言って置いて、いきなりなんですか?その形容の仕方は」 八九寺「失礼。 いえいえしかしながら。 彼は最低の人間なのは間違いありません。 私に出会い頭のセクハラはおろか性的虐待を幾度となく繰り返すロリコンです」 比企谷「おいおい。 それ警察行った方がいいんじゃないんですか?」 八九寺「いえ、私もまんざらではありません」 比企谷「……へぇ」 あ、駄目だわコレ。 やっぱり話しかけちゃいけない子供だったわ。 俺の頭の整理は追いつかない。 いや、処理速度の問題じゃなく、拡張子が既に非対応レベル。 キャパオーバーでもなく処理落ちでもなく、単純に種類が違う。 端的に。 この子はイっちゃってる。 45 ID:Nw11kqOB0 八九寺「あわわ!また私とした事がツッコミを前提に話を続けてしまいました……」 比企谷「いや、まあ俺これから学校へ行くんで。 では」 八九寺「学校?今日は土曜日のはずですが?受験勉強ですか? いや、でも受験勉強って女性の家で2人っきりでやるものでは?」 どこのリア充だよ。 そんなんじゃ勉強なんて身にはいらねーよ。 下心しか学べねーよ。 なんでこの子の価値観はそんなリア充基準なの? ってか付いて来るし……。 うわぁ。 八九寺「所で、比企ガイアさん」 比企谷「え?ガイア?俺は女神じゃないっすよ?そもそも男だし。 なんで突然あからさまに噛むんですか?寧ろ噛んだの?それ……」 八九寺「ああ、失礼。 噛みました」 比企谷「いや、そんな謝られても」 八九寺「え?」 比企谷「え?」 八九寺「ああ、すみません。 何度も言うように、貴方によく似た人と似たような会話をするので。 ちょっとその会話をしてみたくなったのですが……。 やはりうまくは行きませんね」 比企谷「そりゃ、俺はそのアラギさんではなく、比企谷ですから」 八九寺「その人は阿良々木です。 ラが足りません。 っていうか!それ私の持ちネタです!パクらないでください!」 比企谷「いや、パクルも何も。 そんな気ないですし。 怒られても困るっつーか」 八九寺「でも、意外とそのパターンもありですね。 先ほどから阿良々木さんを引き合いに出してはいますが、比企谷さんも結構面白い方ですね」 気に入られてしまった……。 この変な子に。 もうヤダ。 75 ID:Nw11kqOB0 比企谷「そりゃどうも。 でも、俺としてはそろそろ自転車に乗りたいんですが」 八九寺「後ろに乗れというお誘いですか?大胆ですね」 比企谷「なんでそんなポジティブなんだよ。 さよなら先生、また明日っ!の時間だって言ってんの」 八九寺「私は小学生です!幼稚園児の別れの挨拶を引用しないでください」 比企谷「今ので分かるのかよ。 察しが良すぎる以前に敏感過ぎて怖い」 八九寺「所で。 幼稚園生の次に小学生って……。 小さい。 と続きますが。 その流れで行くと。 幼い、小さい、中くらい、で。 何故高校生なのでしょうか。 本来小さいのであれば、中の次は大きいの大学生でしょう?」 比企谷「いきなり何?まあ確かにそうだな。 小中大なら流れはいいけど。 高校生って確かにどこから来たのか分かんないな」 八九寺「でしょう?低学生がいるわけでもないのに」 比企谷「響きだけだと携帯の基本料金みたいだな。 高学生なら、携帯の基本料金が高いみたいだしな」 八九寺「確かに。 でもそうしてみると、小学生って色々お得な響きになりますね」 比企谷「お得を良い事に手を出したら痛い目を見ちゃうけどな……」 八九寺「私はお得な女ですね?」 比企谷「そうなると高校生って損だな。 まあ、青春を演じなければならないって言う周りからの圧力の中。 勉強もスポーツも両立させて毎日社会人よろしく朝から出かけなくちゃいけないのは。 確かに損な人間だな。 高校生って」 八九寺「卑屈ですねー……比企谷さん」 比企谷「まあな。 こんな高校生になるなよ?八九寺さん。 いや、寧ろ高校生自体ならないほうが幸せかもな。 欺瞞と偽りで塗り固められた。 まるで台本を読むような事が高校生の幸せなんだからな。 10個の磁石をカチャカチャして算数して楽しんだり。 38 ID:Nw11kqOB0 八九寺「何故そんなに小学生に詳しいんですか?訴えますよ?」 比企谷「訴えるって流行語みたいに皆軽々しく口にするけど。 告訴の方法とか知ってんですか?」 八九寺「告訴?」 比企谷「訴えると行っても費用もかかるし、受付の後に受理と2段構えだし。 さらには何の犯罪かも被害者側が準備しないといけない。 日本は意外と被害者に厳しい国なんだぜ? 俺みたいなボッチは黙って隅っこで泣けって言われるのがオチだ」 八九寺「何故あなたはそこまで卑屈なのですか?」 比企谷「良く似た知り合いさんに聞いてみなよ。 雰囲気も同じなら俺と同じ言葉を言うだろうよ」 八九寺「前言撤回します。 阿良々木さんはここまで卑屈ではありませんでした。 貴方、嫌な人ですね」 ほっとけ。 34 ID:Nw11kqOB0 八九寺「あ、ではそろそろ私は行きます」 比企谷「あ?ああ、まあ一応。 その似た人によろしくな」 八九寺「ええ。 あと、最後に1ついいですか? ただの変な子供の独り言だと思っていただいてかまわないのですが」 比企谷「なんですか?」 八九寺「私に会ったってことは。 多分良い事ではありませんので。 その、迷っては駄目ですよ?色々とおありでしょうが、頑張ってくださいね?」 比企谷「はぁ……」 去っていった。 いや、本当に理解が出来なかった。 気付いたら色々話しちゃっていた。 本当に気の迷い。 話しかけられたから話し返しただけ。 ただそれだけ。 なんだっけ。 八九寺…?聞いたこともない名字だったな。 あの無意味に大きなリュックサックも。 意味が分からない。 どこかへ行く途中だったのか? まるで人生の迷子みたいな子供だった。 と、詩人のように言ってみる。 やべぇ、中二病っぽくてなんか恥ずかしくなる。 ……よし。 気を取り直して学校へ行こう。 早く出たのが幸いして、今から自転車に乗って行けば。 目標の時間にはつきそうだ。 行こう。 ……ットその前に、自販機でMAXコーヒーを買って行こう。 朝から疲れた。 91 ID:W7dhOgLT0 物語Side 第肆話 『こよみボランティア その貳』 01 阿良々木「初めまして。 阿良々木だ」 それだけ言った。 まるで何かの漫画の表紙絵のように、3人と3人が向かい合う凄く近寄りがたい雰囲気の構図。 僕らは今そんな風に立っていた。 羽川が言っていたように。 今日のボランティア活動で、僕たちの班は2年生と同じ班を組む。 基本は6人で一班の行動だったので、仕方がないと言えば仕方がない事なのだが。 その2年生もどうやらワケありで。 先週の2年生の活動に不参加だった人が。 つまりは特別枠という事で僕たちと共に行動するのだという。 つまり、面識はない。 羽川が、僕の目の前に立つ男子生徒、比企谷八幡と会った事がある程度で。 他の由比ヶ浜結衣。 雪ノ下雪乃。 この二人とは羽川ですら面識が無かった。 だからこその自己紹介。 その自己紹介で、僕は簡潔に。 別に趣味や特技を紹介するわけでもなく。 名前だけを伝えた。 由比ヶ浜「羽川先輩って…。 羽川先輩ですか?成績とか凄くいいんですよね?」 羽川「あら、そんなに有名なのかな?まぁ、成績は一応上位にはいるんだけど。 そんなの自慢できる特技でもなんでもないよ」 由比ヶ浜「えー!?十分凄い事ですよ! 私なんかいつも赤点スレスレで……」 比企谷「由比ヶ浜。 お前と同じ頭の人間なんか早々いないから安心しろ」 由比ヶ浜「え?なにそれヒッキー……それ褒めてる?」 比企谷「この言葉を皮肉だって即座に理解できないんなら。 お前は幸せだな」 羽川「比企谷くん?女性にそういう言い方はないと思うよ?」 比企谷「え?ああ、すいません……」 おいおい羽川。 あんまり言ってやるな。 その比企谷君とか言う男子生徒は多分それが基本スタイルだ。 斜に構えるのがかっこいいとか思ってしまう年頃なんだろう。 分かるぞ。 僕みたいな人間はそんなことはないが、大抵の男子生徒はそういう風にふるまってしまう物だ。 僕みたいな人間はそんなことはないが。 28 ID:W7dhOgLT0 羽川「あ、バスが来たみたいだね。 じゃあ、バスに乗ろうか。 えっと、戦場ヶ原さんと阿良々木くん。 由比ヶ浜さんと雪ノ下さん。 そして私と比企谷君でいいんだっけ?」 雪ノ下「すみませんが羽川先輩。 この人間の隣に座ってしまうと、感染してしまうのでお勧めはできません」 比企谷「何に感染するんだよ何に。 隣の座席で感染しちまうんなら、今既にお前は感染してるだろうが」 雪ノ下「セクハラとして訴えるわよ?いやらしい」 比企谷「お前が言い始めたんだろうが!」 羽川「こらこら、喧嘩は駄目だよ?2人とも。 私は比企谷君の隣でも大丈夫だよ?」 比企谷「え?……あ、ありがとうございます」 羽川にとってはいつもの事。 僕にとってもその光景はいつものことだった。 規則正しく、折り目正しい羽川委員長は。 誰にだって優しく、誰にだって公平だ。 だからこそ、特別、好意があるわけでもなく。 別段、敵意があるわけでもないのだ。 大抵、普通。 そういう一般的という枠組みにある行動を、まるで教科書のように行動できる。 それが羽川翼という人間なのだ。 しかしながら、それにより勘違いを生む。 この場合、本来なら比企谷という男子生徒が生み出すべき勘違いのはずなのだが。 しかしどうやら、彼ではなく、別の彼女がそれを生み出してしまったらしい。 由比ヶ浜「え?あ、いやいや!あたし!羽川先輩と座りたいです! 前からお話ししてみたかったんです……なんて」 初対面の先輩が、ただでさえこの彼女。 由比ヶ浜の知らない場所で羽川と比企谷に面識がある。 更に羽川の先ほどの台詞を普通に感じ取ってしまうのであれば。 好意があるように見えてしまうのは仕方がない事である。 つまりは、羽川の行動を、由比ヶ浜は比企谷に向けられた好意だと勘違いしている。 友達が知らない女の人に知らない所で好かれているという事柄がそんなに嫌だろうか。 友人というのは、特に女子というのは。 そうも独占欲が強いのか? 雪ノ下「私は嫌よ?この男と隣に座るだなんて」 そして彼女もまた。 その言葉が100パーセントの真意でないのは見て取れる。 いや、全てが真意でないにしても、彼女。 雪ノ下の場合は、もしかすると5割は超えるくらい。 それが真意なのかもしれない。 いや、しかしながらこれは。 穏やかではない空気だ。 僕はてっきり。 いや、普通の思考なのだけれど。 2年生の3人組は仲の良いグループだと思っていたのだが。 どうやら違うらしい。 いじめ……にしては楽しそうに話しているように見えるが。 それでも、仲は悪そうだ。 正確にいえば、仲違いをしているようだ。 そしてその渦中であり一番の被害者は多分比企谷という男子生徒。 羽川が共に座るという提案を、由比ヶ浜が拒絶し、雪ノ下も否定するのならば。 僕か戦場ヶ原が座るしかない。 69 ID:W7dhOgLT0 阿良々木「なあ戦場ヶ原」 戦場ヶ原「何かしら?阿良々木くん」 阿良々木「お前、雪ノ下って子の隣でも良いか?」 戦場ヶ原「まあ、話の流れからそうしないと駄目みたいね。 構わないわ。 でも、会話が盛り上がる事には期待しないで」 阿良々木「ああ、ごめん。 戦場ヶ原」 戦場ヶ原「いいのよ、謝らないで。 貴方と隣にならなくて感謝するくらいよ。 感染するから」 阿良々木「感染なんてするか!聞いたばかりの台詞で罵倒のレパートリーを増やすな!」 と、まあ。 結論はついた。 入口に近い、入ってから右側。 後ろから。 僕と比企谷。 由比ヶ浜と羽川。 雪ノ下と戦場ヶ原。 そんな不思議な座り方でバスに乗ることになった。 03 ID:W7dhOgLT0 02 バスが出て15分……。 僕は一言も話さずに通路を眺めていた。 本来なら、僕は。 先輩として、人生の先駆者として。 横にいる後輩に話しかけるべきなのだが。 彼こと比企谷八幡という男子は。 それをそうする前から否定している。 否定、いや……。 拒絶という方が正しいのかもしれない。 体の半分を窓に向けて、じっと流れる景色を見つめている。 話しかけるな。 と、体全体からそう発しているようだった。 でも、いやしかし。 僕も手持無沙汰なのだ。 これからあと1時間程はこのバスに乗っていなくてはならないし。 携帯ゲームや小説といった暇つぶしの類は持ってきていない。 阿良々木「なぁ、比企谷……だっけ?ちょっと話しでもしないか?」 普通のお誘い。 彼も絶対に暇なはずだ。 先輩の僕がそう提案すれば。 別に断る理由もないだろうと考えた。 比企谷「あ、いえ。 お構いなく。 大丈夫っすよ。 気を遣わなくても。 1人で時間を過ごすのには慣れているんで」 あっさりと却下されてしまった。 こちらに体を向けることなく、目線だけこちらに向けて。 阿良々木「ううん。 でも、今日は同じ班としての行動だ。 多少なりともお互いの事を知るべきじゃあないのか?」 比企谷「そうですか?いやいや、ゴミを拾って昼食を食べるだけじゃあないですか? そのどちらも1人でやる物じゃないっすか。 それなら互いを知らなくとも業務はこなせます」 あっさりと。 食事を『1人でやるもの』と言った……。 何の迷いもなく。 定理のように。 真理のように。 いや、僕だってこんな事は得意ではない。 つい先日まで友人と呼べるものすらいなかった。 だからこそ。 いや、しかしながら。 今目の前に居る後輩くらいに会話できないでどうする? 僕は自分から友達をつくらなかったわけであって。 友達が作れないわけではない。 前の席の羽川は、流石というべきか。 笑い声が聞こえてくる。 阿良々木「いやいや、業務というけども。 これは学校行事だ。 仕事よりもアットホームにあるべきじゃあないか?」 比企谷「アットホーム?俺、家に友達とか呼んだことないので、それこそアットホームだとしたら俺は1人で大丈夫っす」 地雷を踏んだらしい。 どんな言葉を投げかけても、雑談にならない。 もしかすると。 雑談とは僕が思っている以上に難しいものなのかもしれない。 85 ID:W7dhOgLT0 阿良々木「何故そこまで話したがらないんだ?もしかすると……」 比企谷「?」 その可能性がある。 僕だってかつてはそうだったように。 彼もまた。 そうなのかもしれない。 阿良々木「友達をつくると、人間強度が下がると思っているのか?」 比企谷「え?」 どうやら違うようだ。 いや、その僕に対する明らかに奇人変人を見つめる目線が。 実は暴かれてしまった困惑という場合もある。 しかし、たいていこの場合は。 前者の場合が限りなく100パーセントだろうが……。 比企谷「いえ。 別に友達を作りたくないとかそんなんじゃねーんすよ」 初めて向こうから話しかけてくれた。 なんだろう。 この高揚感と安堵感は……。 阿良々木「じゃあどうなんだ?僕は理由も状況も理解できないまま、お前に否定され続けると。 心が折れるぞ」 比企谷「……例えば、今ここで楽しくおしゃべりするとするじゃないですか」 阿良々木「ああ」 比企谷「そして来週以降の学校で。 先輩はまあ、誰かに今日の思い出を語るじゃないですか?」 阿良々木「ああ、そうかもな」 比企谷「人のうわさは光よりも早く。 俺が学校外で仲良く話しているという事が伝わる」 阿良々木「……」 僕の中に先ほどまで存在した高揚感は、みるみるそのボルテージを下げて。 下手をすれば最初以下へと到達した。 比企谷「そしてそれは俺のクラスにも伝わり。 そもそも先輩が本当に良い人なのか不明ですし。 50 ID:W7dhOgLT0 比企谷「まだあるんすよ。 仮にそれがなかったとしても。 ここで仲良くなったら学校で会ったときに気軽に挨拶するでしょ?」 阿良々木「まあ、ここで仲良くなれたらな。 学校ですれ違ったらおはようくらいは言うだろうな」 比企谷「その時にも、先輩がもしその時誰かと一緒に居たら。 『アレ誰?』と聞かれます。 もしそれが先輩ではなく、雪ノ下や由比ヶ浜なら、部活の友達。 と紹介し。 俺のクラスメイトなら、同じクラスと紹介するでしょうね。 でも、先輩の場合、この前のボランティア活動の時に……。 と説明が要ります。 そして結果。 『なんで3年のボランティアに2年が?』等と話が膨らみ結果的に…」 阿良々木「もういい。 やめてくれ……。 失礼を承知で言うが、何故そんなにも卑屈なんだ?」 比企谷「その質問はアレですよ。 赤ん坊に何故言葉をしゃべらないのか聞くのと一緒ですよ?」 阿良々木「当たり前だとか、当然だとか、そういう類だって言いたいのか?」 比企谷「いえいえ。 赤ん坊に言っても理解はできないでしょう?」 阿良々木「愚問と言うことか!? そんなにもお前の人生は波乱万丈なのか?」 比企谷「いえ?俺の今までの人生をまとめた伝記を書いた所で。 15 ID:W7dhOgLT0 ため息が出そうだ。 こんなにも卑屈で否定的で屈折的で被虐的な人間はそうはいないのじゃないだろうか。 しかしながら、事実今の会話が成立したように。 別に話すことそのものが嫌いではないらしい。 きっと。 彼は平穏な今の学生生活を最大とみなし。 そこからマイナスに働く可能性を全て根絶やしにしている。 そこにプラスの可能性が含まれていてもだ。 運否天賦で変動する今後に身を置くのを拒んでいるのだ。 だからこそ。 他人と仲良くなるというプラスを虐げるのだろう。 阿良々木「じゃあ約束しよう。 今日の事は誰にも言わない。 今後あってもお前が話しかけない限り挨拶もしない。 鬼に誓って約束しよう。 それなら雑談に付き合ってくれるか?」 比企谷「神じゃなく?トップカーストの流行語には疎いんで、ちょっと謎ですよ?それ」 阿良々木「僕は寧ろトップカーストという言葉が謎なんだがな」 とまあ、こういう具合に会話は成立した。 比企谷も、そこまで言われたら。 というべきか。 そう言ってくれるなら。 というべきか。 まあ、どちらにせよ僕と会話をすることを了承してくれた。 話してみれば、いや、話したからこそなのだが。 彼は悪い人間ではない。 困った人間を心配する気持ちや、綺麗なものに感動できる心は持っているのだろう。 ただそれを表に出さないだけで。 僕は予想だが、彼からそういう印象を受けるのだった。 81 ID:W7dhOgLT0 数十分が過ぎた。 比企谷「……で、頭文字を取って、ggrksって言うんすよ」 阿良々木「ああ、そういう事か。 ふむふむ。 お前は色んな事を知っているんだな。 そんなにネットというものに浸ってないからなあ、僕は」 比企谷「ネットはいいですよ。 超便利。 休憩時間とかの必需品」 阿良々木「いや、うん。 みなまで言うまい」 比企谷「言う必要が無いというより、言ってもしょうがないと思いますよ。 俺には」 阿良々木「……所で比企谷。 僕たちって高校生だよな?」 比企谷「いきなり何を?まあ、そっすね」 阿良々木「考えてみると、不思議なものだよな。 僕たち。 高校生になる前は、中学生。 小学生だったじゃないか。 そしてこの後、大学生になる。 高学生ならなんか携帯の基本料金が高いみたいっ……。 81 ID:W7dhOgLT0 比企谷「いや、その。 ……先輩の名字って阿良々木っすよね?」 阿良々木「ああ、そうだ。 阿良々木暦だ。 下の名前は言ってなかったか?」 比企谷「いや。 なんていうか……。 俺、今違う意味で先輩の事信用できなくなりました」 阿良々木「それは何故だ?僕の名前って画数が不吉なのか?」 比企谷「占いとかじゃなく。 簡単に言うと、法律的な意味で」 阿良々木「僕は法に触れるレベルの名前なのか!?」 比企谷「名前じゃなく。 行動が……婦女暴行とか?」 阿良々木「何をいきなり言いだすんだ!? 確かに僕は戦場ヶ原とそういう事がしたいし。 羽川をそういう目線で見たことも認めよう。 でも、それは男子なら誰でもそういう感情になるだろう?」 比企谷「まあ、羽川先輩の乳トンの万乳引力の法則は認めますが……」 阿良々木「それに妹の胸を足で踏みつけた事もあるが。 それは法に触れる事じゃあないぞ!」 比企谷「なにやってんすか……。 さっき妹と仲良くないとか言ったのは嘘かよ。 いやいや、そういう事じゃなくて。 89 ID:W7dhOgLT0 阿良々木「八九寺?ツインテールの大きなリュックを背負った?」 比企谷「ええ、その八九寺っす。 今日たまたまその子に会って、俺。 どうやら先輩と見間違えられたらしく。 たまたまそういう話を聞きました。 セクハラ行為をされていますって……」 阿良々木「会った?八九寺に?本当にか?」 比企谷「これが嘘だったら。 俺は一流の詐欺師ですね」 阿良々木「いや、まああったことに関しての疑問は今置いておこう。 しかしだな。 僕は八九寺にそんな事はしない。 寧ろ彼女の貞操を僕は守っているんだ。 ホラ、八九寺は可愛いだろ?だから僕はもしそんな極悪非道な人間がいたら許せない」 比企谷「まあ、あの子もちょっと意味の分からない子供だったんで、話半分ですけどね」 阿良々木「分かってくれればそれで嬉しい」 比企谷「先輩の言い訳も話半分ですけど」 阿良々木「それならイーブンで相殺されるな」 比企谷「ぷよぷよかよ」 阿良々木「どっちかといえばテトリスだな」 比企谷「違いがわかんねーっすよ」 阿良々木「単純だ。 47 ID:W7dhOgLT0 03 その後僕と比企谷は、なんてことはない雑談を続けただけなので。 多少時を戻して、語り部を戦場ヶ原辺りにでも渡すとしよう。 77 ID:W7dhOgLT0 04 初対面の人間と話すのが苦手になってしまったのはいつ以来だろう。 少なくとも中学生の頃の私はそうではなかった。 まあ、いつから、という時間的な問いに対してみれば、その答えはすぐに出る。 蟹に会ってしまってから。 まあ、それでも中学生のころから変わらず。 横で読書をする後輩に話しかける言葉もなければ、話しかけようとも思いはしなかった。 由比ヶ浜「ゆきのんもポッキー食べる?」 後ろの座席から。 後輩が後輩へポッキーを差し出す。 まるで遠足みたいな雰囲気だった。 雪ノ下「遠足じゃあないんだからお菓子を持ってくるのはタブーだと思うのだけれど。 これも学業の一環なのだから。 校則違反にならないとしてもモラルを持つべきよ?」 言葉が被った。 いえ、といっても私は発言していないのだし。 そんな校則の事など話すつもりもなかった。 由比ヶ浜「もらる?マナーじゃなくて?」 羽川「モラルは道徳や倫理って意味だよ?ちなみにマナーは礼儀作法とかだね。 まあ、この場合雪ノ下さんがいうモラルは、常識とかそういう意味合いが強いかな」 あらあらこれは羽川さん。 なんとも分かりやすい解説をどうもありがとう。 私も若干不安があったのだけれど、それをも解消する流石の解説力ね。 本当に、羽川さんって何でも知っているのね。 羽川「まあ、特にルールの上でお菓子類の持参は禁止されてはいないからね。 でも、まあ今から奉仕活動へ行くのに遠足気分は確かに頂けないね……。 ごめんなさい雪ノ下さん。 私も一本貰っちゃったから同罪です」 雪ノ下「あ、いえ……。 別に説教をしたつもりも、羽川先輩を咎めようとは思っていなかったのですけれど」 羽川「じゃあ、一本どうぞ?」 由比ヶ浜「うん!どうぞ!ゆきのん」 雪ノ下「え、ええ。 じゃあ一本貰うわ」 流石羽川さん。 というか他人に対する。 更に言えば、どんなタイプの人間にも対する接し方を知っているのかしら。 この雪ノ下さんという人間は感情表現が苦手そうね。 私と違って。 私は違う。 感情表現が苦手なんじゃなく。 敢えて感情を表に出さないだけ。 嫌だわ。 なんだか阿良々木君と似たような事を言った気がする。 気のせいね。 96 ID:W7dhOgLT0 由比ヶ浜「戦場ヶ原先輩も一本入りますか?」 不意に話を振られた。 こんな時、どういう顔していいか分からない……。 笑えばいいと思う……事はないわね。 戦場ヶ原「それは私に言っているのかしら?」 由比ヶ浜「ふぇ?え、はい。 嫌いですか?ポッキー……」 戦場ヶ原「いえ。 ポッキーは好きよ。 でも、出来ればチョコを無くして代わりにミルクを混ぜてあった方が好きね」 由比ヶ浜「それじゃあポッキーじゃなくてプリッツのローストになっちゃいますよ?」 戦場ヶ原「あら、これは失礼。 棒の方を太くしてチョコを傘のように変えた方が良かったかしら」 由比ヶ浜「え?えっと……」 羽川「きのこの山?」 由比ヶ浜「それだ!」 戦場ヶ原「正解」 羽川「いや戦場ヶ原さん?別にお菓子の名前当てクイズはしていないよ? 後輩の言葉に返事くらいはしないと駄目だと思うよ?」 いやいやバサ姉。 いいじゃない別に。 当人の由比ヶ浜さんだって楽しそうじゃない。 まあでも。 そうね。 大人げなかったです。 ちょっと突然話しかけられたので言葉に困ってこんな事言ってしまいました。 戦場ヶ原「朝ごはんをたくさん食べて来たから今は遠慮しておくわ。 ありがとう由比ヶ浜さん」 羽川「よろしい」 また羽川さんに一本取られてしまったと。 敗北感に苛まれて前に向き直る。 ふと、雪ノ下雪乃。 彼女が先ほどから開いている本が気になった。 私のよく知る本のタイトル、『ドグラ・マグラ』という文字が見えた。 いえ、特に話しかける気はなかったのだけれど。 誰にでもあると思うの。 こういう感情。 同志というべきか、方向性が同じ人間とは話がしたい。 特に、この手の趣味は年々人口が減る一方で。 見つける事すら難しいのかもしれないのだけれど。 63 ID:W7dhOgLT0 戦場ヶ原「好きなの?夢野久作」 雪ノ下「え?いえ、特にこの作家が好きだというわけでなく。 日本探偵三大小説と歌われているので気になって……」 多少なりとも安心したのは否めない。 もしかすると会話そのものを無視されそうな、それほどまでに周りに否定的な雰囲気を醸し出していたからだ。 しかしながら思ったよりの長文が帰って来たという事は。 この子も話をしない気はないのだと感じた。 戦場ヶ原「三大小説ではなく、三大奇書ね。 とても奇妙で異様で怪奇的で懐疑的な小説。 読破すれば精神が病むとまで言われる物よね」 雪ノ下「よくご存じですね。 特に私は後半の部分。 『読破すれば』のくだりが気になって読んでいます。 質問から察するに、戦場ヶ原先輩は夢野久作がお好きなのですか?」 戦場ヶ原「ええ。 まあ私も、だからといって彼の作品だけ読むわけでもなく。 広く教養は積んでいるつもりなのだけれど」 雪ノ下「ええ、でも最近は多くはないですよね。 本当の意味で読書が趣味の人」 戦場ヶ原「そうなのよ。 後ろの羽川さんだって読んでいるのだけれど。 趣味というわけではないし……。 『その後ろの阿良々木という人は程度の低い物しか読まないし』」 阿良々木「聞こえているぞ戦場ヶ原……。 僕を勝手にそんなキャラ付けするな!」 戦場ヶ原「事実ほど否定したがるものよね。 67 ID:W7dhOgLT0 閑話休題。 話を戻しましょう。 雪ノ下「まあ、でも。 この作品は確かにそう批評される程度はありますね。 ちょっと気分が悪くなってきます」 戦場ヶ原「乗り物酔いの可能性もあるから一概にはそうとは言えないわね。 でも、私も3回しか読めなかったわ」 雪ノ下「3回も……。 お好きなんですね。 夢野久作」 戦場ヶ原「いえ、一度読むと分かるのだけれど。 その作品、意味が分からないのよ。 ジャンルは探偵小説なのだけれど、実際的に私たちが物語の真相を探偵するような感覚になるのよ」 雪ノ下「その言葉を聞いて益々楽しみになりました。 今度お勧めの作品があれば教えていただきたいですね」 戦場ヶ原「奇書を進められたいって。 結構奇特なのね」 雪ノ下「夢野久作のお勧めを聞いたはずなのですけれど」 戦場ヶ原「ああ、そっちね。 それは是非とも聞いてちょうだい。 55 ID:W7dhOgLT0 羽川「え?戦場ヶ原さん。 私との議論は不満だったのかな?」 戦場ヶ原「あら。 いえいえ羽川さん。 確かに貴方とも議論できたことは嬉しかったのだけれど。 羽川さんの解釈って、参考書のような、なんていうか。 辞書のような感じだったのよ。 もう少し、いや、少しでも主観が入った解釈も聞きたいかなと思っただけよ」 羽川「なんだかひどい言われようをしている気がするのは気のせいかな」 気のせいよ。 由比ヶ浜「それ面白いの?私も読んでみようかな」 羽川「辞めた方が良いよ」 戦場ヶ原「辞めた方がいいわね」 雪ノ下「辞めた方がいいわよ」 由比ヶ浜「声をそろえて言われた!なんか酷い!」 思った以上にバス移動の間が短く思えた。 夢野久作の話の後も、髪のトリートメントの話だとか。 勉強の話だとか。 意外と盛り上がってしまった。 盛り上がった。 といっても、私も雪ノ下さんも淡々と会話していただけなのだけれど。 内容的にはガールズトークだったかしらね。 72 ID:W7dhOgLT0 05 というわけでこの話数も終わり。 最後は再び僕が、阿良々木暦が語る事にしよう。 そうしてこうして、バスは目的に到着。 事故もなく渋滞もなく時間通りだった。 降りてからは今日のメインイベント。

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ミカン「転校初日や呪いが出ちゃった時に励ましてくれてありがとう」杏里「ミカンもシャミ子達と同じくらい世話がかかるからね」

俺ガイル ss 破局

『ボランティア活動についてのレポート』 2-F 比企谷 八幡 ボランティアとは偽善であり自己正当化である。 そもそも人間は、自らにとって利益が無いものは行わない。 逆説的に、ボランティアにも。 無償と喚きつつ、何かの利益があるはずである。 その解は簡潔だ。 体裁である。 良い人。 素晴らしい人。 出来た人間。 そういう世間体を利益として獲得できるのだ。 アーティストがチャリティーライブをやれば、そのアーティストの評価が上がり。 結果、ライブ一回分より大きな報酬になる。 CD売上とか。 しかしながら、それが悪いとは言わない。 やらない善よりやる偽善という言葉がある。 結果的に助けられる人間が生まれるのだからWINWINである。 世間体を気にする方々は、もっと率先してボランティアに従事すべきだ。 そこで言いたい。 これはWINWINでのみ成立しなくてはならない。 すなわち、どちらかがルーザーではいけない。 この場合のルーザーとは、世間体や体裁という報酬が利益にならない人間だ。 すなわち、俺みたいなぼっち、いや1人を好む者にとって周りの評価は必要ではない。 赤ん坊に外車を渡すようなものだ。 不必要なのだ。 よって、俺がボランティアを学校行事とか言う強制力で行わせるのは間違っている。 それは既に強制労働だ。 ストライキも辞さない。 全ての時間が残業対象だ。 そもそも、俺みたいな人間一人が誰かを助けるなんておこがましい。 むしろ俺が助かりたい。 この青春とか言うドラマティックな諸悪達から。 更に言えば、俺が助けられるほどの人間なら、自分の力で勝手に助かってるハズだ。 以上から総合的に考えて。 ボランティアなんていう偽善事業は、有志を募って行うべきだ。 俺は参加したくともその資格がありません。 なので今回は欠席しました。 序章 『とにかく、羽川翼はブレない』 00 平塚「チッ……はぁ……」 舌打ちとため息のハイブリッドを繰り出す、目の前の生徒指導の教師、平塚静は俺を先ほどから睨みつけてくる。 俺が提出した、レポートと俺を交互に睨みつけてくる。 いや、マジ怖い。 やめて。 平塚「私は、先日のボランティアの課外活動に欠席した比企谷にレポートを頼んだのだが?」 比企谷「はぁ……」 平塚「課したものはなんだったかな?」 比企谷「ボランティアについてのレポートです……」 平塚「そうだな?じゃあ何故最終的に欠席の言い訳になっているんだ?」 その指でトントンするのやめませんか?圧迫面接です。 誘導尋問です。 そのリズミカルな音が、衝撃のファーストブリットへのカウントダウンにしか聞こえない。 しかもそれキャンセルボタンなさそうですよね?本当に痛いから勘弁してほしいんですけど……。 比企谷「いえ、その。 ボランティアについて自分なりの考えを述べる上で、結果自分の正しさも一緒に証明したんです。 ホラ、一粒で二度おいしいってヤツです」 平塚「そうか、なら2度も楽しめたお礼をしなくちゃいけないな……。 すまない。 私は一粒で一度しかうまみを与えられないのでな」 比企谷「ちょっとタイムタイム!そのうまみって一部の人間がご褒美と崇めるタイプのうまみでしょ!?ノー!ストップ暴力!」 懇願むなしく、俺の願いは棄却された。 おい、朝ごはん。 戻ってくるな、喉までただいまをしてくるな。 お帰りじゃなくてお帰り下さいお願いします……。 比企谷「ぐへ……」 そうやってすぐ拳で解決しようとするから貰い手が居ないんじゃないんですか? と、言えばラストブリットが来るのはわかっているので心の奥底に投げ捨てた。 平塚「まあ、セカンドブリットは保留にしておこう。 結局君は何も変わっていないんだな」 比企谷「ふぅ……。 前にも言ったように変わる事は本人の意思です。 俺のモットーは初志貫徹!」 平塚「あ?」 比企谷「いや、すみみゃへん」 アンタ、本当に先生ですか?どこにヤンキーみたいに生徒に向かって睨みきかせる教師が居るんですか?咄嗟に謝っちまったよ。 寧ろ下半身が緩くなりそうなほどだ。 平塚「そもそも、君に半永久的に課している奉仕部での活動こそ。 そのボランティアだと思うのだが?」 比企谷「いえ、それは先生が無理やりさせているからであって。 辞めていいと言ってくれれば今からでも辞めます」 平塚「まあ、それなら本格的に君は3年じゃあ卒業できないな」 比企谷「でしょう?それが奉仕部においてのメリットですよ。 その利益が無いと俺はボランティアとかしない。 そもそも、今回休んだのも不可抗力であり故意ではないので……」 平塚「……」 比企谷「レポート書きなおします」 無理。 正当な意見でさえも言える雰囲気じゃないっす。 警察の取り調べとかも、こうやって無罪の人々が自白させられてしまうのか……。 平塚「よろしい。 はぁ、それにしても君の目は4月から寸分違わず腐ったままだな」 ほっとけ。 「失礼します。 平塚先生はいらっしゃいますか?」 不意に、職員室の入り口から、透き通る声がした。 例えるならば、メガネを掛けてテレビの中に入るスパッツガールとか。 我儘で自己陶酔なゴールデンな時間を生きるお嬢様とか。 オッドアイで世話上手な麻雀部部長。 みたいな声。 そして俺と今対面している平塚先生の名前が呼ばれたので、俺はその声の方へと向いた。 まあ、その声の主を見た所で、この学校の生徒という時点で見覚えはあるはずないけど。 案の定女子だった。 リボンから察するに3年生。 見た目から察するに良い人。 多分委員長。 三つ編みが両端から伸びていてメガネをかけていて。 まさしく真面目です!と主張せんばかりの見た目だった。 いや、失言だった。 その胸部は真面目ではない。 平塚「ん?ああ、羽川か」 平塚先生はどうやら知り合いらしく、手でその委員長さんを職員室に招き入れた。 まあそもそも知り合いだから委員長さんは平塚先生を名指ししたんだよな。 いや、待て待て。 俺今勝手に委員長って名付けたけど、これ委員長じゃなかったら悪口じゃね? 羽川「あ、先日のレポートを提出に来ました」 平塚「すまないな、委員長だからと雑務を任せてしまって」 あ、今正解発表来たよ!パンパカパーン!比企谷選手大正解です! やはり、俺のぼっち特有識別眼に狂いはなかったようだな。 ってか、先生一度でいいから俺が雑務している時もそういう台詞くださいよ。 いつもいつも「おう」しか言ってくれないじゃないですか。 俺委員長でもないのに。 何?亭主関白なんですか?身近にいるとそれが当たり前になっちゃうんですか? 離婚沙汰よ!そういうのが破局の原因になるのよ!もう信じらんない!八幡ぷぅ! 比企谷「いや、でもそもそも破局以前か……」 平塚「ん?何か言ったか比企谷?」 ヤベッ!声出ちゃった!家で独り言話す癖でつい音声をオンにしちゃってたよ。 あぶねーあぶねー。 あれだよ、PCとかでイヤホン抜けて女性の不埒な声が部屋中大合唱とかそんな感じの不可抗力ですよ。 って誰に言い訳してんだよ。 平塚「あ、申し訳ありません。 面談中でしたか?」 俺を視認して改めて委員長さんは畏まった。 なにその言葉づかい。 社会人ですか? 平塚「ん?あぁ、そんな感じだ。 まあそんな大した話はしていないから。 安心したまえ。 羽川が聞いてマズい話などではないよ」 すると、委員長と俺は目があった。 いや、正直に言うと、胸部を見ようとした時に委員長さんがこっちを向いた。 ヤバい。 何あのおっぱい。 ダイソンなの?目線の吸引力半端じゃないんだけど。 羽川「あ、初めまして。 3年の羽川翼です」 いきなりの自己紹介に俺は目を見開いてのけ反る。 いや、別にそんな礼儀正しくされても、俺なんてもう2度と会わないレベルの底辺カーストですよ?何この人。 素直にスゲェ。 比企谷「あ、ウス……2年の……比企谷八幡……ッス」 羽川「比企谷くん?ああ、奉仕部の比企谷くんですか?じゃあ、ひょっとして部活のお話でした?」 比企谷「え?あ……ウス」 何で知ってんの?怖い、怖いよ。 俺の事が実は好きだったパターン…。 は、数学でゼロとみなせる確率なのであり得ないとしても。 ユキペディアよりペディってるって。 ペディりすぎてヤバい。 …………いや、まぁ。 そもそもペディってるなんて造語ないけども。 平塚「羽川……君は本当に何でも知っているんだな」 羽川「いえいえ。 そんなことありませんよ」 平塚「まあ、一言で言って、問題児のような子だよ、比企谷は」 比企谷「誰が問題児ですか誰が。 多感な時期の子供に滅多なこと言うと不登校になりますよ?俺」 平塚「自分で言える奴は不登校にはならんよ。 ……あ、そうだ」 平塚先生が手を叩いて、何かを思いついた素振りをする。 絶対楽しい事じゃないのは予想できる。 だからこそ俺は無言で聞かない。 こういうときは敢えて空気を読まずにスルーするのが良いに決まっている。 アレだ、友達の「あー…もう最悪」と一緒。 どうしたの?って聞いたら愚痴のオンパレード。 ってか俺に友達いねーけど……。 羽川「どうされました?平塚先生?」 はぁ……。 この委員長さんはどうやら空気を読んでしまったようだ。 そのパンドラの箱を開けると被害が来るの俺なんだけどな……。 平塚「羽川、君は今週末の課外活動にボランティア活動を選択していたよな?」 羽川「え?ああ、はい。 山のゴミ拾いですよね?」 平塚「ああ、そうだ」 オチ、読めるんだけど。 えー……それは嫌だ。 断固拒否。 平塚「比企谷?」 比企谷「………嫌です」 平塚「まだ何も言ってないのだがな?」 比企谷「どうせアレでしょ?そのボランティア活動に俺も参加しろって言うんでしょ? 3年生の人たちの中に1人行けと?いやーペナルティにしても重すぎる刑罰ですよそれ。 もう少し情状酌量の余地という物もあっていいんじゃないでしょうか?」 もう殴られてもいい。 ただこの状況で最悪なのはこの議題が否決される事だ。 だからこそ俺は拒絶する。 必死に否定する。 だってそもそもボランティア活動を欠席したのも。 小町が熱出しちゃったからなんですよ? お涙頂戴の美談ですよ? だから俺は悪くない。 故に理不尽だろうが勘違いだろうが。 殴られても俺は、このボランティアには行かない! 平塚「情状酌量の余地……ねぇ?」 平塚先生が口をとがらせて、人差し指を唇にあてる。 その考える仕草。 ちょっと可愛い……。 でも年齢的にアウトです。 残念……。 羽川「私は構わないよ?比企谷くん。 基本的に班行動で、私たちだけ3人班だから」 委員長さんが笑顔を向ける。 いや、その聖母みたいな包容力にも俺は騙されない。 ここで更に! 比企谷「いやー。 そういうじゃないですか?でもですね? 例えば、それ現地集合ですか?」 羽川「え?ううん。 学校に集合してから出発だよ?」 比企谷「ホラ、そもそもまずそこですよ。 そこで俺が1人学校の3年集合の最中に行けば。 「あれ?誰?」「2年?」「間違えてる?」「え?何でいるの?」 と……。 陰口、誹謗中傷、嘲笑いの集中豪雨ですよ」 羽川「いや、そんな事……」 比企谷「ないかもしれませんが、あるかもしれない。 そもそも、俺の精神がすり減ります」 羽川「うーん…。 あ!じゃあ、私と一緒に居ればいいよ。 私と話せばいいじゃない? 会話に気を取られてそんな被害妄想はできなくなるでしょ?」 比企谷「……まあ、じゃあ次に。 移動方法はどうですか?」 羽川「え?バスだよ?」 比企谷「でしょう?あれって、ボッチを否定した乗りものなんですよ。 ホラ、座席。 2人一組じゃん。 だから俺が参加する事で、誰か一人がハズレくじを引くことになりますよ? つまりは俺、ハズレ担当」 羽川「じゃあ、私と乗ろうよ。 3人班だから、阿良々木君と戦場ヶ原さんが乗って。 私と比企谷くん。 ホラ、これで君はハズレじゃなくなる」 比企谷「……まぁ、そうッスね」 羽川「それとも。 嫌かな。 私とじゃあ……。 おせっかい……かな?」 比企谷「え?あ、いや……その」 羽川「もしかして、ハズレ担当は君にとって私だったりする?」 比企谷「あ、その、違くて…えと……」 え?なにこの委員長さん。 俺の捻くれた意見さえも笑顔で背負込んじゃうんだけど。 聖母かビッチですか?もしくはその両方。 いや、聖母でビッチって何だよ。 聖母ビッチ……。 略して聖母ッチ。 俺じゃん。 平塚「比企谷……。 君がそこまで言うなら。 私からも譲歩しよう」 比企谷「え?」 平塚「比企谷……。 君に奉仕部に依頼することを許そうじゃないか」 比企谷「え?ちょっと。 違いますって……ですから」 平塚「君は情状酌量の余地をくれと私に言ったのだろう? ならば、逆にいえば。 譲歩さえすれば行くと言った事に等しいのではないのかな?」 暴力の強制力と、優しさの強制力。 どこぞのバトル漫画の解説役っぽく言うなら、「このペアなら、神をも倒せる」と言わんばかり。 でも、俺は神どころか紙耐久なんですよ。 とにもかくにも、もう未来は決まっちゃってる。 選択肢も希望も。 俺の未来には存在しない。 ー序章・完ー 俺ガイルSide 第一話 『しかしながら 雪ノ下雪乃は了承する』 「意味が分からないのだけれど」 奉仕部。 平塚先生と、脅威の驚異の胸囲の委員長との板挟み攻撃を喰らった俺は、放課後、足早にそこへ行く。 ……あの二人に板挟みされる。 その言葉の響きはそう悪い物じゃないなと、ちょっと口角が緩んだ。 雪ノ下「意味が分からないと言っているの」 いつにもなく冷淡に喋るなコイツ。 なんだ?飼い犬にでも手を噛まれたのか? いや、雪ノ下の場合犬というより猫…かな? 雪ノ下「聞いてるのかしら?貴方の発言に対しての返答だったのだけれど……。 ちなみに、その顔は凄く不快だから今すぐ辞めないのであれば警察を呼ぶわ」 比企谷「え?変な顔してた?」 雪ノ下「いえ、真顔」 比企谷「真顔が不快ってか?ったく……。 まぁ、その。 なんだ? そういう事を言われてさ。 平塚先生に」 部室には雪ノ下雪乃がいつものように椅子に座って読書に励んでいた。 そこに俺がいつものように来て、昼の事を話した。 比企谷「だからよ、奉仕部の依頼として。 お願いしてんだよ。 俺が3年生の中1人でボランティア活動に参加させられるから。 お前と由比ヶ浜に手伝ってくれと」 雪ノ下「その言葉の意味は分かっているわ。 それに対しての納得と言う意味で求めているのだけれど。 それは結局、あなた個人の責任でしょう?自業自得。 その尻拭いを何故しなくてはならないのかしら?」 比企谷「奉仕部なんて元々そんなもんだろ?誰かの面倒くさい事を助けるんじゃねーのかよ」 雪ノ下「勘違いしているようね。 奉仕部は決してそのような事をしない。 魚を取ってあげるのではなくて、その取り方を教えるのよ?」 比企谷「ああ、確かにそうだったな。 じゃあ、その魚の取り方を教えられる依頼者が、体が動かせない状態だったらどうすんだ?」 雪ノ下「それは……。 目的が食事というのであれば。 魚以外の食物で、依頼者が可能な方法で採取できる物を教えてあげればいいじゃない」 比企谷「アントワネットかよお前。 じゃあ、その例になぞって、俺はその動けない依頼者だ。 どうするんですか?」 雪ノ下「自分で自分を無能だと言っているのだけれど、それは理解できているの?」 比企谷「当たり前だ。 そう言ってんだから。 俺にはコミュ力とか言われるパラメーターはいくらレベルが上がっても上がんないんだ」 雪ノ下「そうね、貴方にコミュニケーションを求める方が間違いね」 比企谷「おい、「力」をつけろ。 会話ができない人みたいじゃねーか、俺」 雪ノ下「あら?会話ができているとでも思っていたの?」 比企谷「じゃあコレは会話じゃなければ何なんだよ」 雪ノ下「教育」 比企谷「授業料なんて払う気ないっすよ?」 雪ノ下「はぁ……。 まぁ、この会話に生産性が無い事も分かり切っている事なのだけれど。 で?それは、いつなのかしら?」 え?いまこの方は「いつ」と聞きました?それって日時を示す、when的な意味のいつですか? 何?意外とやる気だったりしてくれんの?ツンデレゆきのん最高っすわ……。 比企谷「え?今週末。 正確には土曜日の8時半に校庭集合」 雪ノ下「ふぅん。 いってらっしゃい」 比企谷「え?いやいや、え? なし崩し的に「あーもうしょうがないわねー」っていう。 そういう展開じゃねーんですか?」 雪ノ下「比企谷くん。 世の中はそんなに甘くないわよ?」 比企谷「世の中じゃなくて、お前が甘くねーんだよ。 世界とお前を一緒に語るな。 糖分とれ糖分。 MAXコーヒーとかお勧め」 雪ノ下「あら?味覚的な甘さの議論をしているつもりはなかったのだけれど。 やはりコミュニケーションを取るのは難しいようね」 比企谷「あーわかりましたわかりました。 もういいです。 1人3年生の荒波にもまれてきますよ」 雪ノ下「ええ、ちょっとはマシになるんじゃないのかしら」 比企谷「チッ……」 食えねえヤツって言葉があるけど。 雪ノ下はそもそもそれ以上だ。 喰いたくないヤツ。 いや、性的な意味では断じてない。 最初から期待はしていなかった。 他の誰かの頼みならいざしらず。 俺の頼みを二つ返事で了承するわけがない。 むしろ笑顔で崖に突き落とし、更なる笑みで高みから手を振ってくるに違いない。 本当に友達じゃなくてよかった……。 むしろ、こいつと友達になれる奴の気がしれねぇよ。 そいつはあれだな。 とびっきりのバカか、聖母くらいだ。 ガラガラ 「やっはろー!」 比企谷「前者が来た」 由比ヶ浜結衣。 俺と雪ノ下と同じ部活の人間だ。 雪ノ下の一方的……、いや。 既に相思相愛か?まぁ、友達だ。 由比ヶ浜「え?何ヒッキー。 ゼンシャ…?」 雪ノ下「おはよう。 由比ヶ浜さん」 由比ヶ浜「うん!ゆきのん、やっはろー!」 由比ヶ浜はいつものように、いつもの場所へ座る。 俺と雪ノ下が、机の端と端に座るその中間。 由比ヶ浜「でさーヒッキー。 ゼンシャって何?」 比企谷「あ?いや……なんでもねーよ」 由比ヶ浜「むー。 変な意味だったらぶっとばすかんねー?」 年頃の女の子がぶっとばすとか言うな。 もしも小町がそんな言葉づかいし始めたらお兄ちゃん泣くよ? ん?待てよ? 比企谷「あ、そうだ由比ヶ浜」 コイツに頼めば……。 由比ヶ浜に頼めば、ボランティア活動に一緒に来てくれるんじゃねえのか? 俺からが無理でも、由比ヶ浜からなら成功率は飛躍的にあがる。 まるで孔明さながらの機転! 由比ヶ浜「ん?どしたのー?」 比企谷「今週末。 ボランティア活動に行かなきゃいけないんだが…。 その、一緒にいかねーか?」 由比ヶ浜「ふぇ?……それって?え?え?」 え?なんでそんなキョドんの?やめてよ。 俺変な事言ったか? 雪ノ下「落ち着いて由比ヶ浜さん。 デートの誘いじゃなくて拷問の同伴のお願いよ?」 由比ヶ浜「え?」 比企谷「えっとな……」 雪ノ下にさっき言ったのと同じように、俺は由比ヶ浜にも昼の事柄を説明した。 由比ヶ浜「……なーんだ。 でもそれヒッキーの自業自得じゃん? それにあたしたちが付いていく意味はなくない?」 比企谷「まあ…そうなんだがな」 雪ノ下に正論を言われるのはいつもの事だが、事、由比ヶ浜に関して正論を言われると若干傷つくことが判明。 もういっそアレだ。 当日に体調不良を訴えよう。 そうすれば万事解決。 そうすればボランティア活動に参加できなかった罰の。 ボランティア活動に参加できなかった罰として。 今度はちゃんとしたレポートを書こう。 平塚先生からの暴力は甘んじよう。 この二人を説得できない俺のトークスキルを恨もう……。 由比ヶ浜「まあ、でも……いいよ?」 比企谷「え?」 逆転サヨナラ満塁ホームラン?まさかの? 顎が鋭くなりそうな感じに、俺の心はざわついた。 由比ヶ浜「ヒッキーには、色々助けてもらったし。 なんか、そういう恩返しじゃないけど。 ヒッキーが困ってるんなら。 力になってあげたいなーって……えへへ」 ………なにコイツ。 え?俺今ゲームしてたっけ?ときめいちゃうメモリアっちゃうゲームしてたっけ? ラブをプラスしてたっけ?なんで目の前でイベント進んだの? 勘違いするじゃねーかよ。 やめろよ由比ヶ浜。 そのビッチスキル発動すんな。 比企谷「いいの?」 由比ヶ浜「うん……。 だって、あたしが居れば、その。 ちょっとは……安心…でしょ?」 比企谷「お……おぅ……さんきゅ……」 目を見れない。 何これ。 ただ学校の課題を手伝ってもらうってだけなのに。 すっげー恥ずかしい…。 雪ノ下「はぁ……良かったじゃない比企谷君。 これで1人じゃなくなったわね」 由比ヶ浜「うん!これで3人!」 雪ノ下「え?その人数の内訳は聞きたくないのだけれど」 由比ヶ浜「ゆきのんも行くでしょー?」 これだよコレ。 由比ヶ浜の速攻トラップ効果!リア充オーラ! 「おーい置いてくぞ?」「バーカ。 俺たちもう友達だろ?」みたいなヤツ。 由比ヶ浜のこういう攻撃には、流石の雪ノ下様といえども太刀打ちできまい。 雪ノ下「残念だけど、私は由比ヶ浜さんのようにこの男に恩を返す必要が無いの。 だから奉仕部としては今回否決されたこの男の願いをかなえる義理はないの」 由比ヶ浜「願いとか恩とか……。 むー!いいじゃん!3人で行こうよ!」 雪ノ下「……何故?そこまで食い下がる意味を知りたいのだけれど」 由比ヶ浜「だって……ヒッキーと二人っきりだと……その……。 デートみたいで……」 デートってお前。 3年生のボランティア活動だろうがよ。 そんな風に見えねぇよ。 まぁ、由比ヶ浜にしてみれば。 俺と二人でいるってのが噂になると困る種なんだろうな…。 自他共にそれは認めている。 雪ノ下が、由比ヶ浜の方をちらりと見て、1つだけため息をついて本を閉じた。 雪ノ下「今回だけよ?」 由比ヶ浜「さっすがゆきのん!」 何はともあれ雪ノ下はついてきてくれる。 いや、これが必要だ。 奉仕部の3人が全員参加することが重要なのだ。 これで傍から見れば『部活動』だ。 俺が1人で行くのとは雲泥の差。 元々、1人で行くのとさして変わるわけがない。 向こうで会話する相手を欲するんなら、戸塚を誘う他ないから。 でも、周りの目。 そこをどうにかするにはこれしかない。 部活動を知らなくとも、女子2人がボランティア活動に参加したがっていて。 仕方なく俺が付き添うと言った形に見られればそれで良し。 完全なカモフラージュ。 これで乗り切れる。 後は同じ班の委員長さんと他2名と適当な言挨拶を交わしてゴミ拾って帰ればいいだけ。 この計画に抜かりはない! 俺ガイルSide 第一話 ー完ー 物語Side 第貳話 『こよみボランティア その壹』 01 「意味が分からないのだけれど」 彼女はそう言った。 簡潔に冷徹に明瞭に正確に言い放つ。 いっそ突き放すという表現もハマるほどの言葉で、言い放つ。 戦場ヶ原ひたぎ。 彼女は私、羽川翼の相談にたった一言言い放つ。 羽川「うーん。 簡単に言い換えて、更に良いように意訳すると。 私たちの班だけ3人班だから、他の6人班と合わせる形で後輩が班に加わるってことかな?」 それはお昼の事である。 比企谷八幡という人間と、たまたま出会った私は、流れで週末のボランティア活動を共にする。 それの了承。 というか、既に事後報告を今。 戦場ヶ原さんに伝えている最中なのである。 戦場ヶ原「いえ、確かにボランティア活動への参加の指揮は羽川さん。 貴方に任せたのだけれど。 これは意外ね。 まさか私も、面識のない人間と、ましてや回生が違う人と班を組むなんて思わなかったもの。 私のような人間が、あなたは、初対面の人間と楽しく清く正しく共に歩めると思うのかしら?」 羽川「大丈夫じゃないかな。 その子たち…。 まぁ、正確にはまだその全員と決まったわけじゃないけど。 同じ班になる3人は、『奉仕部』っていうそもそもボランティア活動みたいな部活動をしている人たちだし。 」 戦場ヶ原「奉仕部?聞いた事のない部活動ね。 淫靡な響きさえするわ」 羽川「淫靡って。 今日日女子高生が、むしろ若い人が使っていい言葉じゃない気もするけど。 まぁ、あんまり知られてない部活動であるのは確か。 ホラ、あの平塚先生の部活」 戦場ヶ原「平塚?ああ、あの白衣を常に来ている戦闘民族? 勝手な想像で運動部の顧問だと思っていたわ」 羽川「あの人結構アグレッシブな所あるからね……。 でも、戦闘民族は酷いと思いよ?あの人も女性だし」 戦場ヶ原「あら、私も女性なのだけれど」 羽川「私がいつ戦場ヶ原さんに性別的に酷い事を言ったのかな?」 戦場ヶ原「淫靡の下り」 羽川「ああ、そこで傷ついちゃうんだ…。 戦場ヶ原さん意外と繊細なんだね」 戦場ヶ原「そう、友人から。 私の数少ない友人から罵倒されて私はもう立ち直れないわ。 残念だわー。 こりゃボランティア活動も行けそうにねぇぜぇー」 羽川「棒読みで説得力のかけらも感じられないし……。 何かに理由つけてるけど。 とどのつまり戦場ヶ原さんは3人で行きたかったの?」 戦場ヶ原「あら、何を当たり前のことを言っているのかしら。 3人で行って。 羽川さんと仲良くゴミを拾う様を、阿良々木君に見せつけたかったのに」 羽川「うわぁ。 なんていうか、私が言うべきじゃないんだろうけど。 普通こういう場合は、大抵。 逆じゃないかな? 阿良々木君と戦場ヶ原さんが仲良くするのを恋敵の私に見せつけるんじゃないのかな?」 戦場ヶ原「それならそもそも同じ班に誘わないわよ」 羽川「正論を突然言われると返す言葉がありません……」 戦場ヶ原「で?残念ながら。 誠に遺憾ではありながらも。 その子たちは同じ班になっちゃうのかしら?」 羽川「うーん。 戦場ヶ原さんがそこまで拒絶するのなら。 私は明日にでも断るんだけど。 私、その比企谷君って子と約束しちゃったんだよね。 一緒に行くって。 約束は破れないから、それなら私はあの子たちの班に入ることになっちゃうね」 戦場ヶ原「いやいや羽川さん?それはもしかするともしかしてなのだけれど。 私が阿良々木君と二人っきりのツーマンセルって事?」 羽川「そうだね」 不意にそう言うと、これもまた不意に。 彼女は眼を見開いて、見て分かるくらいにたじろいだ。 戦場ヶ原「いやよ。 絶対に嫌。 それだけは絶対に嫌。 勘弁してくださいすみませんでした」 羽川「実の彼氏と二人っきりになれるシチュエーションに対する返答じゃないよね。 じゃあ、戦場ヶ原さんの選択肢は1つだけになったんだけど?」 戦場ヶ原「ええ、付いていきます。 付いていかせてくださいお願いします」 一瞬だった。 彼女が手のひらを返したのは瞬く間だった。 懇願ともとれるそれは本当に、理解が追いつく隙も見せず一瞬。 阿良々木「話は終わったのか?」 三日月形のクッションに横たわっていた阿良々木君が口を挟んだ。 ここでようやく思い出す。 別に忘れていたわけではなかったんだけれども。 ただ彼が部屋の隅に居るように。 彼の存在が私の脳の隅っこに押しやられていただけ。 戦場ヶ原「あら、いたの?阿良々木君」 阿良々木「ここは僕の部屋だ!いて当然だろ!」 そう、ここは阿良々木君の部屋だった。 私が、週末のボランティ活動について話があるって戦場ヶ原さんに伝えたら。 「あら、それなら今から阿良々木君の家でデートするから。 そこで話して貰えるかしら?」 と、誘われたのだった。 02 阿良々木「で。 改めて質問するが。 話は終わったのか?」 羽川「うん。 戦場ヶ原さんに向けた報告は終わったよ。 次は阿良々木君の番だけど」 阿良々木「いや、僕に対する報告は大丈夫だ。 僕は二つ返事で了承するよ」 羽川「そう。 それなら安心だ。 でも、阿良々木君に伝えるのはもう一つ、違う事なの」 阿良々木「うん?ボランティ活動で、下級生が付いて来ることに対する了承じゃないのか?」 羽川「ううん。 そこじゃないの。 ねぇ、阿良々木君?」 私は1つ息を吸い込んだ。 大きく吸い込んだ。 今から息を吐きだすには、私のいつも通りの呼吸じゃあ足りなかったから。 でも、これは聞いておきたかった。 いや、正しくは。 確認したかった。 羽川「阿良々木君は、困った人が。 その困った人が男の子でも。 本人が助けを求めてなくても。 阿良々木君と似たような人間でも。 その子が困っているのであれば。 助ける?」 私が息を吸い込んで吐き出した言葉に対して。 阿良々木君は益々いつもどおりに喋る。 阿良々木「助けるだろうな。 多分、いや。 絶対」 やっぱり。 絶対的で独裁的で独創的な正義感をもった正義漢。 それが、阿良々木暦なのだ。 羽川「そう。 それを聞いて安心した」 私も同じく。 さっきとは対照的に。 いつもどおりに喋りかけた。 03 「お兄ちゃん?ねぇ起きてる?お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね?そこにいるのは?ねぇ、お兄ちゃん?」 阿良々木「そんな何度も兄の名を呼ばずとも最初の一度目で聞こえている。 起きているよ。 月火ちゃん」 月火「そう。 それなら良かった。 いや、起きているなら尚更遅いよ?お兄ちゃん。 羽川さんともう一人、お友達が迎えに来ているよ?」 我が妹。 小さいほうの妹は、僕の彼女を、もう一人の友達と言った。 阿良々木「そうか、待ち合わせの時間には多少早い気もするが。 羽川の事だ。 10分前行動を基本にした10分前行動なのだろうな。 いや、寧ろ僕が寝坊するという可能性を考慮した上での20分前行動かな?」 月火「その考察をする暇があったら。 友達を待たせてしまっている兄に対して。 申し訳なく思って部屋まで全力疾走で迎えに来た妹の心情を汲んで欲しいよ?」 阿良々木「全力疾走の割に息が上がってないぞ」 月火「こんな距離で息が上がるのはお兄ちゃんくらいだよ」 阿良々木「そうか。 で?2人は今どこに居るんだ?」 月火「お邪魔しちゃうと親御さんに気を遣わせるって言って。 外で待ってる」 阿良々木「そうか。 すぐに行くと伝えてくれ」 月火「なんで私が伝えなくちゃいけないのかな?私はお兄ちゃんの妹ではあるけれど。 お兄ちゃんの伝言係じゃない! 人を電報みたいに使うなぁあ!」 いつにもなくピーキーだった。 阿良々木「わかった!行く!今すぐ行く!」 今日は週末。 ボランティ活動の当日。 そして、これから起こる事の前哨戦というかオードブルのような。 前菜に位置づけられる。 これから起こる事と全く関係のない妹とのなんでもない会話。 それから。 いや、これから。 身近で現実的な、怪異なぞ出る幕もないくらいの平凡な物語。 しかしながら、やはり間違ってしまっている物語が……。 幕を開く。 結局それは、当日の朝になっても変わらない俺の感情である。 比企谷「ふぁ~……」 小町「あ、お兄ちゃん。 おはよー。 なんでお休みなのに早起きなの? 今日、なんかアニメしてたっけ?」 比企谷「俺は別にアニオタじゃねーよ。 今日はボランティア活動があるんだよ」 小町「ボランティアぁ?何…?お兄ちゃん遂に変な宗教に入信しちゃったの!?」 比企谷「なんでだよ。 まず宗教を考えちゃう妹に俺は残念さを通り越して心配になるよ。 ってか前に言ったじゃんよ。 聞いてなかったのか?」 小町が偏差値の低そうな雑誌を読んでいる傍ら、俺はコーヒーに練乳を入れて一気に飲み干す。 甘くてうまい。 糖分を取るにはやっぱりこの、自家製MAXコーヒーだ。 朝のやる気が一気に満ち溢れる。 俺の目も、死んだ魚の目から死にかけ程度には回復する勢い。 小町「まーたそんなにコーヒー甘くして……。 糖尿病になっちゃうよー?」 比企谷「馬鹿。 俺にとっての最高の回復剤だ。 FFで言うならフェニックスの尾。 DQで言うなら世界樹の葉。 テイルズで言うならライフボトルなんだよ」 小町「お兄ちゃんって死者だったんだ」 比企谷「おう、そうだぞ。 だからこそ俺は死に物狂いに頑張るなんて無理。 何故ならもう死んでいるのだから」 小町「それだと生き返ってないじゃん。 んもー。 お兄ちゃん朝から下向き過ぎだよ? そんな事だと小町は心配だよ。 もうちょっと上を向いて生きてくれると小町は凄くうれしいんだけど? あ、今の小町的にポイント高い!」 そんなどうでもいい雑談を小町とずっとしていたところだが。 今日はそうもいかない。 先週末と同じように、空気を読んで小町が体調を崩す事もない。 ならば俺も腹をくくるしかない。 というよりも現状は先週よりしんどい。 先週ならただのぼっち課外活動だが、今回はそのハードルが軒並み上がっている。 3年生と共に行動しなくてはならない。 なんでこうなったんだ?酷いよ神様。 神様なんて信じないが、もしもいるのなら。 嫌いだ。 いてほしくない。 むしろ、だからこそ神様なんか信じてやるもんか! 小町「でもさーお兄ちゃん。 今回は小町もちょーっと罪悪感あるかなーって」 比企谷「あ?なんで?」 小町「だって、小町のせいでお兄ちゃん。 今日ボランティア活動行くんでしょ? 小町が熱を出さなかったらって思うと……」 比企谷「馬鹿野郎。 お前のせいじゃねーよ。 むしろ誇らしい。 更なる苦行を背負っても、俺は妹を助けられたんだからな? お前のために何かしてやれるなら俺は世界を敵に回してもいい! お?今の八幡的にポイント高いよな?な?」 小町「いや、今のはシスコンって言うより厨二ポイント高すぎでどん引き……。 まあそう言ってくれるなら嬉しいかな。 じゃあちゃっちゃと行ってらっしゃい! 帰ってきたらおいしい料理で出迎えてあげるからさ!」 比企谷「おう、期待してるぜ。 んじゃまあ。 いってくら」 小町「はいはーい」 家を出た。 朝日がまぶしい。 足は今にも180度踵を返してもいいと言っている。 頭の中の天使と悪魔も口をそろえて帰って寝ようと誘ってくる。 ため息しか出てこないので。 俺は一歩前に出る。 通学は基本自転車。 でも、今日は。 いや、いつも別に足取りが軽いわけでもないが。 今日は尚更、足が重い。 だから俺は、自転車を押しながら徒歩で学校へ向かう。 時間ぎりぎりに行って、注目を浴びるのは嫌だったから。 早めのタイムスケジュールを組んでいる。 しれっと集合場所であるグラウンドの端。 いるかいないか分かんないくらいの所に身を潜める。 そして、由比ヶ浜と雪ノ下が来たら、これまたしれッとその中に交っていれば万事大丈夫。 オーケー。 抜かりはない……。 だったんだが……。 集合時間がギリギリになってしまうかもしれない事件が起きる。 なんだか知らんけど、後ろから幼女が突進してきた。 意味が分かんない。 俺も分かんない。 小学生か、多分それくらいの幼い女の子が、後ろから猛ダッシュで突進してきた。 壺でも買わされるんじゃないかと。 もしくは新種の当たり屋かとヒヤヒヤする。 なんで?なんで今日はこんなについていないの? 「阿良々木さーーーん!」 比企谷「うぐぉ!」 突進してきた幼女は、意味の分からない奇声を発していた。 既に事件だ。 「あれ?」 比企谷「だ…誰?」 振りむいた先にはやはり幼女。 しかし、今ぶつかって来たのに俺の方を向いて首をかしげている。 いやいや、かしげたいのは俺の方だっての。 勝手に首を傾けんな。 傾けんなって。 そんな傾げても、世界はおろか、物語だって傾かねーよ。 かぶかねーよ? 何この子。 メンタル強いな本当に。 ただの人違いでも俺だと顔から火が出るくらいに。 言うなればそれから1週間ブルーになっちゃうくらいの大ダメージなのに。 なんでそんなノーダメージなの?相手が俺だから? 「ごめんなさい。 人違いでした。 知り合いによく似ていたもので」 比企谷「は…はぁ。 そりゃどうも。 気を付けてくださいね」 人違いで突進されたらたまらねーよ。 俺が俺じゃなければ怒られてたよ?俺だから良かったものを……。 まあいいや。 考えるのはやめよう。 思考停止じゃなくて思考放棄。 帰って小町にする土産話ができたと思う事にしよう。 この子との関わりはそれで終了。 このまま会話を続けると事案が発生しそうだ。 「小学生に突進される男の事案が発生」 洒落になんないよ……。 「でも、あれー?私が見えるんですよね?」 比企谷「は?え?」 冷や汗が流れた。 何この子。 中二病なの?もしくはそういう人なの? 元々人と話す事を得意としない俺が、小さな子供。 ましてやそういう人と話すスキルはもってない。 「ああ、すみません。 私、八九寺真宵です。 はじめまして」 比企谷「え?あ、どうも。 比企谷です……」 不意に自己紹介しちゃった。 どんな流れですか?コレ。 曲がり角でパンを咥えてぶつかっても自己紹介の流れではない気がするんだけど? 八九寺「えっと。 比企谷さんは、今なにをしてらっしゃるんですか?」 比企谷「いやいや。 いやいやちょっと待てよ」 思わず声に出しちゃった。 いや、いくら俺でも。 スルーされ続ける人生を歩んだ俺でさえもスルー出来ない。 どういうことだ?メンタルが強いとか、なんかそういう感じじゃない。 もしかして俺今、スタンド攻撃を受けている? グイグイ来すぎだろ。 何が浜結衣だよお前。 千葉村で会った小学生たちもこんなんじゃなかったぞ?小学生だよね?え? これ幻覚?俺、友達いなさ過ぎてこんな少女の幻覚見ちゃってるの? やべぇ、ボランティア活動行ってる場合じゃねえよ。 病院行かなくちゃ。 八九寺「ハッ!すみません。 初対面なのにずうずうしい質問でした。 知り合いにあまりにも良く似ているもので。 ナイリンの人間のように話してしまいました」 比企谷「いや、ナイリンって……。 それって多分。 「うちわ」って読むんですよ?」 八九寺「うちわ?いえいえ、別に暑くはありません」 比企谷「まあ真夏というにはまだ早いっすからね」 おっと。 普通に会話してしまった。 え?いやいや勘違いしないでもらいたい。 俺だって話しかけられれば普通に会話ごときできるんですよ? たじろいだりなんかしない。 それは勘違いしないでもらいたい所である。 と、自分に喋る。 それにしても、こうも話しかけられると。 俺だって興味が無いわけじゃない。 さっきから言われる「俺に似ている人」が気になる。 どうせ時間はあるんだ。 ちょっとこの意味の分からない少女と雑談を試みることにする。 比企谷「その似ている人って、そんなに俺に似ているんですか?」 八九寺「ええ、制服も同じですし、髪型もソックリです。 雰囲気までもが」 なにそれクローンかよ。 ドッペルゲンガー? 絶対その人と会わないようにしないと、死んじゃうよ俺。 もしくはソレ、隣の世界の俺だよ。 いともたやすく行われるえげつない行為だよ。 それでも出会ったらくっついて死んじゃうよ? 比企谷「それで名前まで比企谷だったらそれ色々と不味いですね」 八九寺「いえ、名前は違います。 その人は阿良々木という人です」 比企谷「阿良々木?聞いた事あるな」 八九寺「え?あの最低最悪の畜生を知っているのですか?」 比企谷「いや、おいおい。 俺に似てるって言って置いて、いきなりなんですか?その形容の仕方は」 八九寺「失礼。 いえいえしかしながら。 彼は最低の人間なのは間違いありません。 私に出会い頭のセクハラはおろか性的虐待を幾度となく繰り返すロリコンです」 比企谷「おいおい。 それ警察行った方がいいんじゃないんですか?」 八九寺「いえ、私もまんざらではありません」 比企谷「……へぇ」 あ、駄目だわコレ。 やっぱり話しかけちゃいけない子供だったわ。 俺の頭の整理は追いつかない。 いや、処理速度の問題じゃなく、拡張子が既に非対応レベル。 キャパオーバーでもなく処理落ちでもなく、単純に種類が違う。 端的に。 この子はイっちゃってる。 八九寺「あわわ!また私とした事がツッコミを前提に話を続けてしまいました……」 比企谷「いや、まあ俺これから学校へ行くんで。 では」 八九寺「学校?今日は土曜日のはずですが?受験勉強ですか? いや、でも受験勉強って女性の家で2人っきりでやるものでは?」 どこのリア充だよ。 そんなんじゃ勉強なんて身にはいらねーよ。 下心しか学べねーよ。 なんでこの子の価値観はそんなリア充基準なの? ってか付いて来るし……。 うわぁ。 八九寺「所で、比企ガイアさん」 比企谷「え?ガイア?俺は女神じゃないっすよ?そもそも男だし。 なんで突然あからさまに噛むんですか?寧ろ噛んだの?それ……」 八九寺「ああ、失礼。 噛みました」 比企谷「いや、そんな謝られても」 八九寺「え?」 比企谷「え?」 八九寺「ああ、すみません。 何度も言うように、貴方によく似た人と似たような会話をするので。 ちょっとその会話をしてみたくなったのですが……。 やはりうまくは行きませんね」 比企谷「そりゃ、俺はそのアラギさんではなく、比企谷ですから」 八九寺「その人は阿良々木です。 ラが足りません。 っていうか!それ私の持ちネタです!パクらないでください!」 比企谷「いや、パクルも何も。 そんな気ないですし。 怒られても困るっつーか」 八九寺「でも、意外とそのパターンもありですね。 先ほどから阿良々木さんを引き合いに出してはいますが、比企谷さんも結構面白い方ですね」 気に入られてしまった……。 この変な子に。 もうヤダ。 比企谷「そりゃどうも。 でも、俺としてはそろそろ自転車に乗りたいんですが」 八九寺「後ろに乗れというお誘いですか?大胆ですね」 比企谷「なんでそんなポジティブなんだよ。 さよなら先生、また明日っ!の時間だって言ってんの」 八九寺「私は小学生です!幼稚園児の別れの挨拶を引用しないでください」 比企谷「今ので分かるのかよ。 察しが良すぎる以前に敏感過ぎて怖い」 八九寺「所で。 幼稚園生の次に小学生って……。 小さい。 と続きますが。 その流れで行くと。 幼い、小さい、中くらい、で。 何故高校生なのでしょうか。 本来小さいのであれば、中の次は大きいの大学生でしょう?」 比企谷「いきなり何?まあ確かにそうだな。 小中大なら流れはいいけど。 高校生って確かにどこから来たのか分かんないな」 八九寺「でしょう?低学生がいるわけでもないのに」 比企谷「響きだけだと携帯の基本料金みたいだな。 高学生なら、携帯の基本料金が高いみたいだしな」 八九寺「確かに。 でもそうしてみると、小学生って色々お得な響きになりますね」 比企谷「お得を良い事に手を出したら痛い目を見ちゃうけどな……」 八九寺「私はお得な女ですね?」 比企谷「そうなると高校生って損だな。 まあ、青春を演じなければならないって言う周りからの圧力の中。 勉強もスポーツも両立させて毎日社会人よろしく朝から出かけなくちゃいけないのは。 確かに損な人間だな。 高校生って」 八九寺「卑屈ですねー……比企谷さん」 比企谷「まあな。 こんな高校生になるなよ?八九寺さん。 いや、寧ろ高校生自体ならないほうが幸せかもな。 欺瞞と偽りで塗り固められた。 まるで台本を読むような事が高校生の幸せなんだからな。 10個の磁石をカチャカチャして算数して楽しんだり。 お道具箱のせいで教科書が片方しか入らない悩みを抱えられるのも今のうちだ」 八九寺「何故そんなに小学生に詳しいんですか?訴えますよ?」 比企谷「訴えるって流行語みたいに皆軽々しく口にするけど。 告訴の方法とか知ってんですか?」 八九寺「告訴?」 比企谷「訴えると行っても費用もかかるし、受付の後に受理と2段構えだし。 さらには何の犯罪かも被害者側が準備しないといけない。 日本は意外と被害者に厳しい国なんだぜ? 俺みたいなボッチは黙って隅っこで泣けって言われるのがオチだ」 八九寺「何故あなたはそこまで卑屈なのですか?」 比企谷「良く似た知り合いさんに聞いてみなよ。 雰囲気も同じなら俺と同じ言葉を言うだろうよ」 八九寺「前言撤回します。 阿良々木さんはここまで卑屈ではありませんでした。 貴方、嫌な人ですね」 ほっとけ。 八九寺「あ、ではそろそろ私は行きます」 比企谷「あ?ああ、まあ一応。 その似た人によろしくな」 八九寺「ええ。 あと、最後に1ついいですか? ただの変な子供の独り言だと思っていただいてかまわないのですが」 比企谷「なんですか?」 八九寺「私に会ったってことは。 多分良い事ではありませんので。 その、迷っては駄目ですよ?色々とおありでしょうが、頑張ってくださいね?」 比企谷「はぁ……」 去っていった。 いや、本当に理解が出来なかった。 気付いたら色々話しちゃっていた。 本当に気の迷い。 話しかけられたから話し返しただけ。 ただそれだけ。 なんだっけ。 八九寺…?聞いたこともない名字だったな。 あの無意味に大きなリュックサックも。 意味が分からない。 どこかへ行く途中だったのか? まるで人生の迷子みたいな子供だった。 と、詩人のように言ってみる。 やべぇ、中二病っぽくてなんか恥ずかしくなる。 ……よし。 気を取り直して学校へ行こう。 早く出たのが幸いして、今から自転車に乗って行けば。 目標の時間にはつきそうだ。 行こう。 ……ットその前に、自販機でMAXコーヒーを買って行こう。 朝から疲れた。 阿良々木だ」 それだけ言った。 まるで何かの漫画の表紙絵のように、3人と3人が向かい合う凄く近寄りがたい雰囲気の構図。 僕らは今そんな風に立っていた。 羽川が言っていたように。 今日のボランティア活動で、僕たちの班は2年生と同じ班を組む。 基本は6人で一班の行動だったので、仕方がないと言えば仕方がない事なのだが。 その2年生もどうやらワケありで。 先週の2年生の活動に不参加だった人が。 つまりは特別枠という事で僕たちと共に行動するのだという。 つまり、面識はない。 羽川が、僕の目の前に立つ男子生徒、比企谷八幡と会った事がある程度で。 他の由比ヶ浜結衣。 雪ノ下雪乃。 この二人とは羽川ですら面識が無かった。 だからこその自己紹介。 その自己紹介で、僕は簡潔に。 別に趣味や特技を紹介するわけでもなく。 名前だけを伝えた。 由比ヶ浜「羽川先輩って…。 羽川先輩ですか?成績とか凄くいいんですよね?」 羽川「あら、そんなに有名なのかな?まぁ、成績は一応上位にはいるんだけど。 そんなの自慢できる特技でもなんでもないよ」 由比ヶ浜「えー!?十分凄い事ですよ! 私なんかいつも赤点スレスレで……」 比企谷「由比ヶ浜。 お前と同じ頭の人間なんか早々いないから安心しろ」 由比ヶ浜「え?なにそれヒッキー……それ褒めてる?」 比企谷「この言葉を皮肉だって即座に理解できないんなら。 お前は幸せだな」 羽川「比企谷くん?女性にそういう言い方はないと思うよ?」 比企谷「え?ああ、すいません……」 おいおい羽川。 あんまり言ってやるな。 その比企谷君とか言う男子生徒は多分それが基本スタイルだ。 斜に構えるのがかっこいいとか思ってしまう年頃なんだろう。 分かるぞ。 僕みたいな人間はそんなことはないが、大抵の男子生徒はそういう風にふるまってしまう物だ。 僕みたいな人間はそんなことはないが。 羽川「あ、バスが来たみたいだね。 じゃあ、バスに乗ろうか。 えっと、戦場ヶ原さんと阿良々木くん。 由比ヶ浜さんと雪ノ下さん。 そして私と比企谷君でいいんだっけ?」 雪ノ下「すみませんが羽川先輩。 この人間の隣に座ってしまうと、感染してしまうのでお勧めはできません」 比企谷「何に感染するんだよ何に。 隣の座席で感染しちまうんなら、今既にお前は感染してるだろうが」 雪ノ下「セクハラとして訴えるわよ?いやらしい」 比企谷「お前が言い始めたんだろうが!」 羽川「こらこら、喧嘩は駄目だよ?2人とも。 私は比企谷君の隣でも大丈夫だよ?」 比企谷「え?……あ、ありがとうございます」 羽川にとってはいつもの事。 僕にとってもその光景はいつものことだった。 規則正しく、折り目正しい羽川委員長は。 誰にだって優しく、誰にだって公平だ。 だからこそ、特別、好意があるわけでもなく。 別段、敵意があるわけでもないのだ。 大抵、普通。 そういう一般的という枠組みにある行動を、まるで教科書のように行動できる。 それが羽川翼という人間なのだ。 しかしながら、それにより勘違いを生む。 この場合、本来なら比企谷という男子生徒が生み出すべき勘違いのはずなのだが。 しかしどうやら、彼ではなく、別の彼女がそれを生み出してしまったらしい。 由比ヶ浜「え?あ、いやいや!あたし!羽川先輩と座りたいです! 前からお話ししてみたかったんです……なんて」 初対面の先輩が、ただでさえこの彼女。 由比ヶ浜の知らない場所で羽川と比企谷に面識がある。 更に羽川の先ほどの台詞を普通に感じ取ってしまうのであれば。 好意があるように見えてしまうのは仕方がない事である。 つまりは、羽川の行動を、由比ヶ浜は比企谷に向けられた好意だと勘違いしている。 友達が知らない女の人に知らない所で好かれているという事柄がそんなに嫌だろうか。 友人というのは、特に女子というのは。 そうも独占欲が強いのか? 雪ノ下「私は嫌よ?この男と隣に座るだなんて」 そして彼女もまた。 その言葉が100パーセントの真意でないのは見て取れる。 いや、全てが真意でないにしても、彼女。 雪ノ下の場合は、もしかすると5割は超えるくらい。 それが真意なのかもしれない。 いや、しかしながらこれは。 穏やかではない空気だ。 僕はてっきり。 いや、普通の思考なのだけれど。 2年生の3人組は仲の良いグループだと思っていたのだが。 どうやら違うらしい。 いじめ……にしては楽しそうに話しているように見えるが。 それでも、仲は悪そうだ。 正確にいえば、仲違いをしているようだ。 そしてその渦中であり一番の被害者は多分比企谷という男子生徒。 羽川が共に座るという提案を、由比ヶ浜が拒絶し、雪ノ下も否定するのならば。 僕か戦場ヶ原が座るしかない。 02 バスが出て15分……。 僕は一言も話さずに通路を眺めていた。 本来なら、僕は。 先輩として、人生の先駆者として。 横にいる後輩に話しかけるべきなのだが。 彼こと比企谷八幡という男子は。 それをそうする前から否定している。 否定、いや……。 拒絶という方が正しいのかもしれない。 体の半分を窓に向けて、じっと流れる景色を見つめている。 話しかけるな。 と、体全体からそう発しているようだった。 でも、いやしかし。 僕も手持無沙汰なのだ。 これからあと1時間程はこのバスに乗っていなくてはならないし。 携帯ゲームや小説といった暇つぶしの類は持ってきていない。 阿良々木「なぁ、比企谷……だっけ?ちょっと話しでもしないか?」 普通のお誘い。 彼も絶対に暇なはずだ。 先輩の僕がそう提案すれば。 別に断る理由もないだろうと考えた。 比企谷「あ、いえ。 お構いなく。 大丈夫っすよ。 気を遣わなくても。 1人で時間を過ごすのには慣れているんで」 あっさりと却下されてしまった。 こちらに体を向けることなく、目線だけこちらに向けて。 阿良々木「ううん。 でも、今日は同じ班としての行動だ。 多少なりともお互いの事を知るべきじゃあないのか?」 比企谷「そうですか?いやいや、ゴミを拾って昼食を食べるだけじゃあないですか? そのどちらも1人でやる物じゃないっすか。 それなら互いを知らなくとも業務はこなせます」 あっさりと。 食事を『1人でやるもの』と言った……。 何の迷いもなく。 定理のように。 真理のように。 いや、僕だってこんな事は得意ではない。 つい先日まで友人と呼べるものすらいなかった。 だからこそ。 いや、しかしながら。 今目の前に居る後輩くらいに会話できないでどうする? 僕は自分から友達をつくらなかったわけであって。 友達が作れないわけではない。 前の席の羽川は、流石というべきか。 笑い声が聞こえてくる。 阿良々木「いやいや、業務というけども。 これは学校行事だ。 仕事よりもアットホームにあるべきじゃあないか?」 比企谷「アットホーム?俺、家に友達とか呼んだことないので、それこそアットホームだとしたら俺は1人で大丈夫っす」 地雷を踏んだらしい。 どんな言葉を投げかけても、雑談にならない。 もしかすると。 雑談とは僕が思っている以上に難しいものなのかもしれない。 阿良々木「何故そこまで話したがらないんだ?もしかすると……」 比企谷「?」 その可能性がある。 僕だってかつてはそうだったように。 彼もまた。 そうなのかもしれない。 阿良々木「友達をつくると、人間強度が下がると思っているのか?」 比企谷「え?」 どうやら違うようだ。 いや、その僕に対する明らかに奇人変人を見つめる目線が。 実は暴かれてしまった困惑という場合もある。 しかし、たいていこの場合は。 前者の場合が限りなく100パーセントだろうが……。 比企谷「いえ。 別に友達を作りたくないとかそんなんじゃねーんすよ」 初めて向こうから話しかけてくれた。 なんだろう。 この高揚感と安堵感は……。 阿良々木「じゃあどうなんだ?僕は理由も状況も理解できないまま、お前に否定され続けると。 心が折れるぞ」 比企谷「……例えば、今ここで楽しくおしゃべりするとするじゃないですか」 阿良々木「ああ」 比企谷「そして来週以降の学校で。 先輩はまあ、誰かに今日の思い出を語るじゃないですか?」 阿良々木「ああ、そうかもな」 比企谷「人のうわさは光よりも早く。 俺が学校外で仲良く話しているという事が伝わる」 阿良々木「……」 僕の中に先ほどまで存在した高揚感は、みるみるそのボルテージを下げて。 下手をすれば最初以下へと到達した。 比企谷「そしてそれは俺のクラスにも伝わり。 そもそも先輩が本当に良い人なのか不明ですし。 ホラ、よく言われているでしょう?人をすぐ信用するのはよくないって」 阿良々木「かといって、まず底辺から評価するのもどうかと思うぞ?」 比企谷「まだあるんすよ。 仮にそれがなかったとしても。 ここで仲良くなったら学校で会ったときに気軽に挨拶するでしょ?」 阿良々木「まあ、ここで仲良くなれたらな。 学校ですれ違ったらおはようくらいは言うだろうな」 比企谷「その時にも、先輩がもしその時誰かと一緒に居たら。 『アレ誰?』と聞かれます。 もしそれが先輩ではなく、雪ノ下や由比ヶ浜なら、部活の友達。 と紹介し。 俺のクラスメイトなら、同じクラスと紹介するでしょうね。 でも、先輩の場合、この前のボランティア活動の時に……。 と説明が要ります。 そして結果。 『なんで3年のボランティアに2年が?』等と話が膨らみ結果的に…」 阿良々木「もういい。 やめてくれ……。 失礼を承知で言うが、何故そんなにも卑屈なんだ?」 比企谷「その質問はアレですよ。 赤ん坊に何故言葉をしゃべらないのか聞くのと一緒ですよ?」 阿良々木「当たり前だとか、当然だとか、そういう類だって言いたいのか?」 比企谷「いえいえ。 赤ん坊に言っても理解はできないでしょう?」 阿良々木「愚問と言うことか!? そんなにもお前の人生は波乱万丈なのか?」 比企谷「いえ?俺の今までの人生をまとめた伝記を書いた所で。 プレパラート並みっすよ」 阿良々木「薄っ!10ページもあるのか?それともなんだ?A1サイズの紙なのか!?」 比企谷「いえ、ラノベサイズで更に厚紙です」 阿良々木「1ページで容量オーバーじゃないか……」 比企谷「更に文字のフォントも太字」 阿良々木「出版社に問い合わせろ!」 比企谷「とうの昔に潰れました」 阿良々木「だろうな!」 ため息が出そうだ。 こんなにも卑屈で否定的で屈折的で被虐的な人間はそうはいないのじゃないだろうか。 しかしながら、事実今の会話が成立したように。 別に話すことそのものが嫌いではないらしい。 きっと。 彼は平穏な今の学生生活を最大とみなし。 そこからマイナスに働く可能性を全て根絶やしにしている。 そこにプラスの可能性が含まれていてもだ。 運否天賦で変動する今後に身を置くのを拒んでいるのだ。 だからこそ。 他人と仲良くなるというプラスを虐げるのだろう。 阿良々木「じゃあ約束しよう。 今日の事は誰にも言わない。 今後あってもお前が話しかけない限り挨拶もしない。 鬼に誓って約束しよう。 それなら雑談に付き合ってくれるか?」 比企谷「神じゃなく?トップカーストの流行語には疎いんで、ちょっと謎ですよ?それ」 阿良々木「僕は寧ろトップカーストという言葉が謎なんだがな」 とまあ、こういう具合に会話は成立した。 比企谷も、そこまで言われたら。 というべきか。 そう言ってくれるなら。 というべきか。 まあ、どちらにせよ僕と会話をすることを了承してくれた。 話してみれば、いや、話したからこそなのだが。 彼は悪い人間ではない。 困った人間を心配する気持ちや、綺麗なものに感動できる心は持っているのだろう。 ただそれを表に出さないだけで。 僕は予想だが、彼からそういう印象を受けるのだった。 数十分が過ぎた。 比企谷「……で、頭文字を取って、ggrksって言うんすよ」 阿良々木「ああ、そういう事か。 ふむふむ。 お前は色んな事を知っているんだな。 そんなにネットというものに浸ってないからなあ、僕は」 比企谷「ネットはいいですよ。 超便利。 休憩時間とかの必需品」 阿良々木「いや、うん。 みなまで言うまい」 比企谷「言う必要が無いというより、言ってもしょうがないと思いますよ。 俺には」 阿良々木「……所で比企谷。 僕たちって高校生だよな?」 比企谷「いきなり何を?まあ、そっすね」 阿良々木「考えてみると、不思議なものだよな。 僕たち。 高校生になる前は、中学生。 小学生だったじゃないか。 そしてこの後、大学生になる。 高学生ならなんか携帯の基本料金が高いみたいっ……。 ん?」 阿良々木「どうした?」 比企谷「いや、その。 ……先輩の名字って阿良々木っすよね?」 阿良々木「ああ、そうだ。 阿良々木暦だ。 下の名前は言ってなかったか?」 比企谷「いや。 なんていうか……。 俺、今違う意味で先輩の事信用できなくなりました」 阿良々木「それは何故だ?僕の名前って画数が不吉なのか?」 比企谷「占いとかじゃなく。 簡単に言うと、法律的な意味で」 阿良々木「僕は法に触れるレベルの名前なのか!?」 比企谷「名前じゃなく。 行動が……婦女暴行とか?」 阿良々木「何をいきなり言いだすんだ!? 確かに僕は戦場ヶ原とそういう事がしたいし。 羽川をそういう目線で見たことも認めよう。 でも、それは男子なら誰でもそういう感情になるだろう?」 比企谷「まあ、羽川先輩の乳トンの万乳引力の法則は認めますが……」 阿良々木「それに妹の胸を足で踏みつけた事もあるが。 それは法に触れる事じゃあないぞ!」 比企谷「なにやってんすか……。 さっき妹と仲良くないとか言ったのは嘘かよ。 いやいや、そういう事じゃなくて。 あの、八九寺って小学生知ってます?」 阿良々木「八九寺?ツインテールの大きなリュックを背負った?」 比企谷「ええ、その八九寺っす。 今日たまたまその子に会って、俺。 どうやら先輩と見間違えられたらしく。 たまたまそういう話を聞きました。 セクハラ行為をされていますって……」 阿良々木「会った?八九寺に?本当にか?」 比企谷「これが嘘だったら。 俺は一流の詐欺師ですね」 阿良々木「いや、まああったことに関しての疑問は今置いておこう。 しかしだな。 僕は八九寺にそんな事はしない。 寧ろ彼女の貞操を僕は守っているんだ。 ホラ、八九寺は可愛いだろ?だから僕はもしそんな極悪非道な人間がいたら許せない」 比企谷「まあ、あの子もちょっと意味の分からない子供だったんで、話半分ですけどね」 阿良々木「分かってくれればそれで嬉しい」 比企谷「先輩の言い訳も話半分ですけど」 阿良々木「それならイーブンで相殺されるな」 比企谷「ぷよぷよかよ」 阿良々木「どっちかといえばテトリスだな」 比企谷「違いがわかんねーっすよ」 阿良々木「単純だ。 お前は色眼鏡を使わないだろ?」 比企谷「成程……ってテトリスにも色付いてるじゃん」 04 初対面の人間と話すのが苦手になってしまったのはいつ以来だろう。 少なくとも中学生の頃の私はそうではなかった。 まあ、いつから、という時間的な問いに対してみれば、その答えはすぐに出る。 蟹に会ってしまってから。 まあ、それでも中学生のころから変わらず。 横で読書をする後輩に話しかける言葉もなければ、話しかけようとも思いはしなかった。 由比ヶ浜「ゆきのんもポッキー食べる?」 後ろの座席から。 後輩が後輩へポッキーを差し出す。 まるで遠足みたいな雰囲気だった。 雪ノ下「遠足じゃあないんだからお菓子を持ってくるのはタブーだと思うのだけれど。 これも学業の一環なのだから。 校則違反にならないとしてもモラルを持つべきよ?」 言葉が被った。 いえ、といっても私は発言していないのだし。 そんな校則の事など話すつもりもなかった。 由比ヶ浜「もらる?マナーじゃなくて?」 羽川「モラルは道徳や倫理って意味だよ?ちなみにマナーは礼儀作法とかだね。 まあ、この場合雪ノ下さんがいうモラルは、常識とかそういう意味合いが強いかな」 あらあらこれは羽川さん。 なんとも分かりやすい解説をどうもありがとう。 私も若干不安があったのだけれど、それをも解消する流石の解説力ね。 本当に、羽川さんって何でも知っているのね。 羽川「まあ、特にルールの上でお菓子類の持参は禁止されてはいないからね。 でも、まあ今から奉仕活動へ行くのに遠足気分は確かに頂けないね……。 ごめんなさい雪ノ下さん。 私も一本貰っちゃったから同罪です」 雪ノ下「あ、いえ……。 別に説教をしたつもりも、羽川先輩を咎めようとは思っていなかったのですけれど」 羽川「じゃあ、一本どうぞ?」 由比ヶ浜「うん!どうぞ!ゆきのん」 雪ノ下「え、ええ。 じゃあ一本貰うわ」 流石羽川さん。 というか他人に対する。 更に言えば、どんなタイプの人間にも対する接し方を知っているのかしら。 この雪ノ下さんという人間は感情表現が苦手そうね。 私と違って。 私は違う。 感情表現が苦手なんじゃなく。 敢えて感情を表に出さないだけ。 嫌だわ。 なんだか阿良々木君と似たような事を言った気がする。 気のせいね。 いや、気の迷いかしら? 由比ヶ浜「戦場ヶ原先輩も一本入りますか?」 不意に話を振られた。 こんな時、どういう顔していいか分からない……。 笑えばいいと思う……事はないわね。 戦場ヶ原「それは私に言っているのかしら?」 由比ヶ浜「ふぇ?え、はい。 嫌いですか?ポッキー……」 戦場ヶ原「いえ。 ポッキーは好きよ。 でも、出来ればチョコを無くして代わりにミルクを混ぜてあった方が好きね」 由比ヶ浜「それじゃあポッキーじゃなくてプリッツのローストになっちゃいますよ?」 戦場ヶ原「あら、これは失礼。 棒の方を太くしてチョコを傘のように変えた方が良かったかしら」 由比ヶ浜「え?えっと……」 羽川「きのこの山?」 由比ヶ浜「それだ!」 戦場ヶ原「正解」 羽川「いや戦場ヶ原さん?別にお菓子の名前当てクイズはしていないよ? 後輩の言葉に返事くらいはしないと駄目だと思うよ?」 いやいやバサ姉。 いいじゃない別に。 当人の由比ヶ浜さんだって楽しそうじゃない。 まあでも。 そうね。 大人げなかったです。 ちょっと突然話しかけられたので言葉に困ってこんな事言ってしまいました。 戦場ヶ原「朝ごはんをたくさん食べて来たから今は遠慮しておくわ。 ありがとう由比ヶ浜さん」 羽川「よろしい」 また羽川さんに一本取られてしまったと。 敗北感に苛まれて前に向き直る。 ふと、雪ノ下雪乃。 彼女が先ほどから開いている本が気になった。 私のよく知る本のタイトル、『ドグラ・マグラ』という文字が見えた。 いえ、特に話しかける気はなかったのだけれど。 誰にでもあると思うの。 こういう感情。 同志というべきか、方向性が同じ人間とは話がしたい。 特に、この手の趣味は年々人口が減る一方で。 見つける事すら難しいのかもしれないのだけれど。 戦場ヶ原「好きなの?夢野久作」 雪ノ下「え?いえ、特にこの作家が好きだというわけでなく。 日本探偵三大小説と歌われているので気になって……」 多少なりとも安心したのは否めない。 もしかすると会話そのものを無視されそうな、それほどまでに周りに否定的な雰囲気を醸し出していたからだ。 しかしながら思ったよりの長文が帰って来たという事は。 この子も話をしない気はないのだと感じた。 戦場ヶ原「三大小説ではなく、三大奇書ね。 とても奇妙で異様で怪奇的で懐疑的な小説。 読破すれば精神が病むとまで言われる物よね」 雪ノ下「よくご存じですね。 特に私は後半の部分。 『読破すれば』のくだりが気になって読んでいます。 質問から察するに、戦場ヶ原先輩は夢野久作がお好きなのですか?」 戦場ヶ原「ええ。 まあ私も、だからといって彼の作品だけ読むわけでもなく。 広く教養は積んでいるつもりなのだけれど」 雪ノ下「ええ、でも最近は多くはないですよね。 本当の意味で読書が趣味の人」 戦場ヶ原「そうなのよ。 後ろの羽川さんだって読んでいるのだけれど。 趣味というわけではないし……。 『その後ろの阿良々木という人は程度の低い物しか読まないし』」 阿良々木「聞こえているぞ戦場ヶ原……。 僕を勝手にそんなキャラ付けするな!」 戦場ヶ原「事実ほど否定したがるものよね。 というか、ガールズトークの邪魔をしないでくれる? 聞き耳を立てるなんて趣味は最悪よ?」 阿良々木「明らかに僕の名前からの台詞は後ろを向いて喋ったじゃないか!」 閑話休題。 話を戻しましょう。 雪ノ下「まあ、でも。 この作品は確かにそう批評される程度はありますね。 ちょっと気分が悪くなってきます」 戦場ヶ原「乗り物酔いの可能性もあるから一概にはそうとは言えないわね。 でも、私も3回しか読めなかったわ」 雪ノ下「3回も……。 お好きなんですね。 夢野久作」 戦場ヶ原「いえ、一度読むと分かるのだけれど。 その作品、意味が分からないのよ。 ジャンルは探偵小説なのだけれど、実際的に私たちが物語の真相を探偵するような感覚になるのよ」 雪ノ下「その言葉を聞いて益々楽しみになりました。 今度お勧めの作品があれば教えていただきたいですね」 戦場ヶ原「奇書を進められたいって。 結構奇特なのね」 雪ノ下「夢野久作のお勧めを聞いたはずなのですけれど」 戦場ヶ原「ああ、そっちね。 それは是非とも聞いてちょうだい。 その前に、その作品を読んで感想を議論したいものだわ」 羽川「え?戦場ヶ原さん。 私との議論は不満だったのかな?」 戦場ヶ原「あら。 いえいえ羽川さん。 確かに貴方とも議論できたことは嬉しかったのだけれど。 羽川さんの解釈って、参考書のような、なんていうか。 辞書のような感じだったのよ。 もう少し、いや、少しでも主観が入った解釈も聞きたいかなと思っただけよ」 羽川「なんだかひどい言われようをしている気がするのは気のせいかな」 気のせいよ。 由比ヶ浜「それ面白いの?私も読んでみようかな」 羽川「辞めた方が良いよ」 戦場ヶ原「辞めた方がいいわね」 雪ノ下「辞めた方がいいわよ」 由比ヶ浜「声をそろえて言われた!なんか酷い!」 思った以上にバス移動の間が短く思えた。 夢野久作の話の後も、髪のトリートメントの話だとか。 勉強の話だとか。 意外と盛り上がってしまった。 盛り上がった。 といっても、私も雪ノ下さんも淡々と会話していただけなのだけれど。 内容的にはガールズトークだったかしらね。 05 というわけでこの話数も終わり。 最後は再び僕が、阿良々木暦が語る事にしよう。 そうしてこうして、バスは目的に到着。 事故もなく渋滞もなく時間通りだった。 降りてからは今日のメインイベント。 ゴミ拾いだ。 ゴミ拾いは僕ではなく、比企谷の語りで話をさせてもらうとしよう。 ずっと僕の感情が分かってしまうというのもなんだか恥ずかしい気もするし。 そもそもコラボSSで僕ばかりが出ずっぱりだと、彼らと対等とは言えなくなるから。 というわけで。 一旦僕は休ませてもらう。 第6話で、また会おう。 比企谷「ブツブツ言ってると、怖いですよ?」 阿良々木「え?ああすまない。 八九寺Pの陰謀だ」 比企谷「どんな遠隔操作ですか。 と、俺は勘違いをしてしまいそうなほどに。 阿良々木先輩と意外と話が合う。 でもそれは阿良々木先輩本人が言うとおり。 ただの暇つぶし。 これに調子に乗って、気安く話しかけると酷い目を見るのは火を見るより明らか。 寧ろ火の方がマシなレベル。 だって、火はいつか消えるけど、心の傷は消えねーもん。 というわけで、一度バスの下りは俺の中で消去。 デリート。 よし、完了。

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元天才サッカープレイヤーの俺は監督業始めます。(改稿版)(碧咲瑠璃)

俺ガイル ss 破局

奉仕部の関係性です。 3人の今の間柄を見てみればわかると思いますが、どこか筋が通らない、ギクシャクというほど悪くはないですが、3人ともが本当の自分たちの関係ではなく、比企ヶ谷の言う「欺瞞 偽物 」の関係なのです。 その「欺瞞」を超えた先にある真の関係、それが「本物」です。 欺瞞について解説しておきますと、まずは比企ヶ谷。 比企ヶ谷は由比ヶ浜が自分のことを好きなのではないか?と薄々気づいています。 それを過去のトラウマetc... な理由で気づかないフリをしています。 雪ノ下に対してもどう接すればいいのかわからないでオロオロしていますね。 彼女の家族関係に首を突っ込むべきかなどなどです。 雪ノ下。 彼女の場合は比企ヶ谷への気持ちでしょう。 雪ノ下は比企ヶ谷に対していい印象を抱いています。 それは自分では解けない問題を解いてしまう、正確に言えば問題自体を無くしてしまう。 雪ノ下はそんな奉仕部としての依頼をうまく対処してしまう比企ヶ谷に憧れているんです。 だから彼女の家族関係について比企ヶ谷に頼ろうとするんですね。 他にも彼女が比企ヶ谷に恋をしているのかは正確にはわかりませんが、もしそうなのであればやはり由比ヶ浜の事を気にかけるでしょう。 彼女は由比ヶ浜を大切な友人と思っており失いたくはないですから。 由比ヶ浜。 彼女は上記2人とは別です。 彼女はあえて「欺瞞」の関係こそを求めているんです。 アニメ最終話。 彼女が2人にはなし、比企ヶ谷に否定されたのがそれです。 どういうことかと言いますと、由比ヶ浜は雪ノ下が比企ヶ谷の事を好きなんだと思っているんですね。 自分も比企ヶ谷が好き。 でも比企ヶ谷と自分が付き合うと雪ノ下だけ仲間はずれになってしまう。 そんなことは彼女にとって嫌だ。 だから由比ヶ浜は「比企ヶ谷と付き合いたい、でも雪ノ下とも友達のままいたい」そういう願望 欺瞞 を求めたのです。 上記の全てが解決する3人の関係性、それが「本物」です。

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