88 ID:0WuN67Vj0 小中学の頃は田舎もんで世間知らずで、特に仲の良かったA、Bと三人で毎日バカやって荒れた生活してたんだわ。 オレとAは家族にもまるっきり見放されてたんだが、Bはお母さんだけは必ず構ってくれてた。 あくまで厳しい態度でだけど、何だかんだ言ってBのためにいろいろと動いてくれてた。 そのB母子が中三のある時、かなりキツい喧嘩になった。 内容は言わなかったが、精神的にお母さんを痛め付けたらしい。 お母さんをズタボロに傷つけてたら、親父が帰ってきた。 一目で状況を察した親父はBを無視して黙ったまんまお母さんに近づいていった。 服とか髪とかボロボロなうえに、死んだ魚みたいな目で床を茫然と見つめてるお母さんを見て、親父はBに話した。 B父「お前、ここまで人を踏み躙れるような人間になっちまったんだな。 母さんがどれだけお前を想ってるか、なんでわからないんだ。 」 親父はBを見ず、お母さんを抱き締めながら話してたそうだ。 B「うるせえよ。 てめえは殺してやろうか?あ?」 Bは全く話を聞く気がなかった。 だが親父は何ら反応する様子もなく、淡々と話を続けたらしい。 B父「お前、自分には怖いものなんか何もないと、そう思ってるのか。 」 B「ねえな。 あるなら見せてもらいてえもんだぜ。 」 親父は少し黙った後、話した。 B父「お前はオレの息子だ。 母さんがお前をどれだけ心配してるかもよくわかってる。 だがな、お前が母さんに対してこうやって踏み躙る事しか出来ないなら、オレにも考えがある。 これは父としてでなく、一人の人間、他人として話す。 先にはっきり言っておくがオレがこれを話すのは、お前が死んでも構わんと覚悟した証拠だ。 それでいいなら聞け。 」 その言葉に何か凄まじい気迫みたいなものを感じたらしいが、いいから話してみろ!と煽った。 B父「森の中で立入禁止になってる場所知ってるよな。 あそこに入って奥へ進んでみろ。 後は行けばわかる。 そこで今みたいに暴れてみろよ。 出来るもんならな。 65 ID:0WuN67Vj0 親父が言う森ってのは、オレ達が住んでるとこに小規模の山があって、そのふもとにある場所。 樹海みたいなもんかな。 山自体は普通に入れるし、森全体も普通なんだが、中に入ってくと途中で立入禁止になってる区域がある。 言ってみれば四角の中に小さい円を書いてその円の中は入るな、ってのと同じできわめて部分的。 二メートル近い高さの柵で囲まれ、柵には太い綱と有刺鉄線、柵全体にはが連なった白い紙がからまってて(独自の紙垂みたいな)、大小いろんな鈴が無数についてる。 変に部分的なせいで柵自体の並びも歪だし、とにかく尋常じゃないの一言に尽きる。 あと、特定の日に巫女さんが入り口に数人集まってるのを見かけるんだが、その日は付近一帯が立入禁止になるため何してんのかは謎だった。 いろんな噂が飛び交ってたが、カルト教団の洗脳施設がある…ってのが一番広まってた噂。 そもそもその地点まで行くのが面倒だから、その奥まで行ったって話はほとんどなかったな。 親父はBの返事を待たずにお母さんを連れて2階に上がってった。 Bはそのまま家を出て、待ち合わせてたオレとAと合流。 そこでオレ達も話を聞いた。 A「父親がそこまで言うなんて相当だな。 」 オレ「噂じゃカルト教団のアジトだっけ。 捕まって洗脳されちまえって事かね。 怖いっちゃ怖いが…どうすんだ?行くのか?」 B「行くに決まってんだろ。 どうせ親父のハッタリだ。 」 面白半分でオレとAもついていき、三人でそこへ向かう事になった。 あれこれ道具を用意して、時間は夜中の一時過ぎぐらいだったかな。 意気揚揚と現場に到着し、持ってきた懐中電灯で前を照らしながら森へ入っていった。 軽装でも進んで行けるような道だし、オレ達はいつも地下足袋だったんで歩きやすかったが、問題の地点へは四十分近くは歩かないといけない。 ところが、入って五分もしないうちにおかしな事になった。 オレ達が入って歩きだしたのとほぼ同じタイミングで、何か音が遠くから聞こえ始めた。 夜の静けさがやたらとその音を強調させる。 最初に気付いたのはBだった。 B「おい、何か聞こえねぇか?」 Bの言葉で耳をすませてみると、確かに聞こえた。 落ち葉を引きずるカサカサ…という音と、枝がパキッ…パキッ…と折れる音。 それが遠くの方から微かに聞こえてきている。 50 ID:0WuN67Vj0 遠くから微かに…というせいもあって、さほど恐怖は感じなかった。 人って考える前に動物ぐらいいるだろ、そんな思いもあり構わず進んでいった。 動物だと考えてから気にしなくなったが、そのまま二十分ぐらい進んできたところでまたBが何か気付き、オレとAの足を止めた。 B「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ。 」 A「?…何でだよ。 」 B「いいから早く」 Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、またこっちへ戻ってくる。 それを見て、Bは考え込むような表情になった。 A「おい、何なんだよ?」 オレ「説明しろ!」 オレ達がそう言うと Bは「静かにしてよ? く聞いててみ」と、Aにさせたように一人で前へ歩いていき、またこっちに戻ってきた。 二、三度繰り返してようやくオレ達も気付いた。 遠くから微かに聞こえてきている音は、オレ達の動きに合わせていた。 オレ達が歩きだせばその音も歩きだし、オレ達が立ち止まると音も止まる。 まるでこっちの様子がわかっているようだった。 何かひんやりした空気を感じずにはいられなかった。 周囲にオレ達が持つ以外の光はない。 月は出てるが、木々に遮られほとんど意味はなかった。 懐中電灯つけてんだから、こっちの位置がわかるのは不思議じゃない…だが一緒に歩いてるオレ達でさえ、互いの姿を確認するのに目を凝らさなきゃいけない暗さだ。 そんな暗闇で光もなしに何してる? なぜオレ達と同じように動いてんだ? B「ふざけんなよ。 誰かオレ達を尾けてやがんのか?」 A「近づかれてる気配はないよな。 向こうはさっきからずっと同じぐらいの位置だし。 」 Aが言うように森に入ってからここまでの二十分ほど、オレ達とその音との距離は一向に変わってなかった。 近づいてくるわけでも遠ざかるわけでもない。 終始、同じ距離を保ったままだった。 69 ID:0WuN67Vj0 A「そんな感じだよな…カルト教団とかなら何か変な装置とか持ってそうだしよ。 」 音から察すると、複数ではなく一人がずっとオレ達にくっついてるような感じだった。 しばらく足を止めて考え、下手に正体を探ろうとするのは危険と判断し、一応あたりを警戒しつつそのまま先へ進む事にした。 それからずっと音に付きまとわれながら進んでたが、やっと柵が見えてくると、音なんかどうでもよくなった。 音以上にその柵の様子の方が意味不明だったからだ。 三人とも見るのは初めてだったんだが、想像以上のものだった。 同時にそれまでなかったある考えが頭に過ってしまった。 普段は霊などバカにしてるオレ達から見ても、その先にあるのが現実的なものでない事を示唆しているとしか思えない。 それも半端じゃなくやばいものが。 まさか、そういう意味でいわくつきの場所なのか…?森へ入ってから初めて、今オレ達はやばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。 A「おい、これぶち破って奥行けってのか?誰が見ても普通じゃねえだろこれ!」 B「うるせえな、こんなんでビビってんじゃねえよ!」 柵の異常な様子に怯んでいたオレとAを怒鳴り、Bは持ってきた道具あれこれで柵をぶち壊し始めた。 破壊音よりも、鳴り響く無数の鈴の音が凄かった。 しかしここまでとは想像してなかったため、持参した道具じゃ貧弱すぎた。 というか、不自然なほどに頑丈だったんだ。 特殊な素材でも使ってんのかってぐらい、びくともしなかった。 結局よじのぼるしかなかったんだが、綱のおかげで上るのはわりと簡単だった。 だが柵を越えた途端、激しい違和感を覚えた。 閉塞感と言うのかな、檻に閉じ込められたような息苦しさを感じた。 AとBも同じだったみたいで踏み出すのを躊躇したんだが、柵を越えてしまったからにはもう行くしかなかった。 先へ進むべく歩きだしてすぐ、三人とも気付いた。 ずっと付きまとってた音が、柵を越えてからバッタリ聞こえなくなった事に。 正直そんなんもうどうでもいいとさえ思えるほど嫌な空気だったが、Aが放った言葉でさらに嫌な空気が増した。 14 ID:0WuN67Vj0 A「もしかしてさぁ、そいつ…ずっとここにいたんじゃねえか?この柵、こっから見える分だけでも出入口みたいなのはないしさ、それで近付けなかったんじゃ…」 B「んなわけねえだろ。 オレ達が音の動きに気付いた場所ですらこっからじゃもう見えねえんだぞ?それなのに入った時点からオレ達の様子がわかるわけねえだろ。 」 普通に考えればBの言葉が正しかった。 禁止区域と森の入り口はかなり離れてる。 時間にして四十分ほどと書いたが、オレ達だってちんたら歩いてたわけじゃないし、距離にしたらそれなりの数字にはなる。 だが、現実のものじゃないかも…という考えが過ってしまった事で、Aの言葉を頭では否定できなかった。 柵を見てから絶対やばいと感じ始めていたオレとAを尻目に、Bだけが俄然強気だった。 B「霊だか何だか知らねえけどよ、お前の言うとおりだとしたら、そいつはこの柵から出られねえって事だろ?そんなやつ大したことねえよ。 」 そう言って奧へ進んでいった。 柵を越えてから二、三十分歩き、うっすらと反対側の柵が見え始めたところで、不思議なものを見つけた。 特定の六本の木に注連縄が張られ、その六本の木を六本の縄で括り、六角形の空間がつくられていた。 柵にかかってるのとは別の、正式なものっぽい紙垂もかけられてた。 そして、その中央に賽銭箱みたいなのがポツンと置いてあった。 目にした瞬間は、三人とも言葉が出なかった。 特にオレとAは、マジでやばい事になってきたと焦ってさえいた。 バカなオレ達でも、注連縄が通常どんな場で何のために用いられてるものか、何となくは知ってる。 そういう意味でも、ここを立入禁止にしているのは間違いなく目の前のこの光景のためだ。 オレ達はとうとう、来るとこまで来てしまったわけだ。 オレ「お前の親父が言ってたの、たぶんこれの事だろ。 」 A「暴れるとか無理。 明らかにやばいだろ。 」 だが、Bは強気な姿勢を崩さなかった。 B「別に悪いもんとは限らねえだろ。 とりあえずあの箱見て見ようぜ!宝でも入ってっかもな。 」 Bは縄をくぐって六角形の中に入り、箱に近づいてった。 オレとAは箱よりもBが何をしでかすかが不安だったが、とりあえずBに続いた。
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殿堂入りの怖い話 一覧 邪視 山にまつわる系の怖い話。 叔父に連れられ行った山奥の別荘で二人に恐怖が襲う。 巣くうもの 大学の仲間と心霊スポットの古びた民家に向かう。 そこで何かが彼らへ近づいてくる・・・。 リョウメンスクナ 建築会社の男が、寺院の解体作業を行っていた時、黒ずんだ長い木箱を発見。 その木箱の中身とは・・・? リンフォン 骨董屋にあった不思議な玩具「リンフォン」。 バイト先で入ってはならないと言われていた場所があったが、気になって入ってしまう。 ひょうせ・渦人形 高校2年の夏休み、某県の山奥にある合宿所に行った主人公。 その石碑には集落独自の恐ろしい秘密が隠されていた。 危険な好奇心 小学生のとき、近くの裏山に秘密基地を作っていた。 3人は秘密基地で一夜を過ごすことにするが怖くなり下山することに。 しかし下山をしている途中に、 3人は人の気配を感じる。 旅館の求人 マネキン 邪霊の巣窟 リアル くねくね コトリバコ 神社の神主をしていた彼の元に、友達が持ってきたパズルのような箱。 封印された呪いの箱『 ことりばこ』を解放させてしまう。 それは八尺様と呼ばれる異形の存在だった。 猿夢 夢の中で、駅のホームにいると、遊園地にあるおもちゃのような電車がやってきた。 アナウンスで、乗ると怖い目に遭うと説明されるが、電車に乗ってしまう・・・。 パンドラ・禁后 田舎にぽつんとある玄関や入口が見つからない変わった空き家。 大人達は子供たちがそこへ行かないように注意するが。 ヤマノケ・テンソウメツ 娘を連れてドライブに出かけた父が、娘を驚かそうと舗装もされていないような脇道へ入り込んだ。 地下の丸穴 主人公が住んでる田舎のとある場所に巨大な宗教施設が建設された。 幼い頃は悪魔教だの般若団体だのと言っていたが、実際は恐ろしい施設だった。
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モッケ 私は友人の間では「幽霊避け」扱いされています。 行ったら絶対何かある!と言われているような心霊スポット巡りに私が同行すると、何も起こらない。 自殺者が出た部屋に入居した友人が霊現象で悩まされてた時も、私が泊まりに行ったら、それ以降霊現象はぴたりと止みました。 オカルト好きな友人からは「よっぽど強い守護霊がいるんだね!」と言われますが、 私の後ろにいるのは守護霊というよりも、怨霊に近い存在じゃないかと思ってます。 そういうモノに守られてるのかな?と自覚したのは、子供の頃です。 当時小学四年生だった私は、二歳上の兄と一緒に、母方の祖父母の家に遊びに行きました。 毎年夏休みの間、お盆前後の一週間から十日近く滞在することになっていました。 いつもは母と一緒に行くんですが、その夏は初めて子供だけで新幹線に乗ったということもあり、よく覚えています。 祖父母はずっとその土地に住んでいたのですが、なんとなく近所とは付き合いが薄い感じで、 私と兄は身内以外の同年代の子と遊ぶということもありませんでした。 かといって差別されているような雰囲気でもなく、どちらかといえば敬意を払われていたように思います。 祖父の地元では盆祭の時、神社の境内で神楽舞のようなものを奉納するのですが、 太刀を持って魔物を追い払うといった役割の舞い手は、常に祖父の一族の誰かが務めていました。 その夏も例年通り、神社で神楽舞が行われることになりました。 この年の舞い手に選ばれたのは兄で、舞いを覚えるため、子供達だけ先に田舎へ向かったのです。 ちなみにこの時、兄だけでなく私も舞いを覚えさせられました。 兄は退屈な田舎で舞いの練習をさせられるのが嫌でたまらず、しょっちゅう 従兄弟達と抜け出してはさぼっていました。 それでもなんとか、祭までには一通り舞えるようになっていたようです。 祭の当日、太刀を持つメインの舞い手は、朝から神社の拝殿にこもらなければならないというしきたりがありました。 兄は最初大人しく拝殿にこもるふりをしていたのですが、大人達の隙を見て私を身代わりに拝殿に押し込め、従兄弟と一緒に出かけてしまいました。 祖父の田舎には「絶対に足を踏み入れてはいけない山」があったのですが、 兄と従兄弟達はその山へと向かったそうです。 祭の時なら大人達は忙しくて気がつかないだろう、と考えた兄達は、 神社の裏手から伸びる山道をつたい、禁足地とされた山へと足を踏み入れました。 兄の話によると、その山へと入る山道にはぼろぼろの鳥居があって、道を塞ぐように注連縄が張ってあったそうです。 鳥居はぼろぼろなのに注連縄は新しく、定期的に誰かが取り換えているように見えた、とのことでした。 悪ガキだった兄達はその注連縄を越えて、山へと入りました。 奥へと進むに従って、真夏とは思えないほど気温が下がり、なんだか生臭いような、吐き気を催す匂いが鼻をついたそうです。 誰からともなく「帰ろう」と言いだした頃には、少し開けた場所へと出ていました。 そこには大きな岩があり、その岩にも注連縄が巻きつけてあったそうです。 皆がなんとなく黙り込み、怖がっていた中で、リーダー格の中学生の従兄弟が 「山に入った証拠を持って帰ろうぜ!」と言いだし、その注連縄をほどきました。 しかしほどいた注連縄は地面に触れた瞬間、ぐずぐずに朽ちてしまったそうです。 その異様な光景に皆が声をのんでいると、妙な声が聞こえてきました。 最初は怖がった従兄弟の誰かが泣いているのかと思ったそうです。 しかしそれは「んーっ、んーっ」という唸り声で、しかも兄や従兄弟達を囲むように、周囲から聞こえてきます。 「何か」が唸りながら、木々に紛れて自分達の周囲をぐるぐると回っている。 そのことに気付いた瞬間、兄達はその場から逃げ出しました。 皆必死になって山を下り、注連縄をはった鳥居のところまで逃げてきたのですが、 その時兄が注連縄につまづき、注連縄はたわんでしまったそうです。 兄がほんの一瞬だけ振り返った瞬間、大きく飛び跳ねながら追いかけてくる何かの姿が見えたそうです。 兄達はそのまま神社に逃げ込み、拝殿へと戻ってきました。 私はというと、兄達を待ちくたびれて居眠りしており、戻ってきた時にパニックを起こして泣いている従兄弟を見て、ただ驚いていました。 この時は外で何があったのか、いくら訪ねても教えてもらえず、私はただ単に、 抜け出したのが大人にばれて怒られたのかくらいに思っていました。 そのまま何事もなかったかのように、再び兄が拝殿にこもったのですが、神楽舞の 直前になって問題が発生しました。 神楽舞の衣装に着替えている時、兄の左足首がひどく腫れていることがわかったのです。 急きょ代役をたてることになり、一緒に練習した私が、舞い手を務めることになりました。 朝まではなんともなかったので、兄は祖父や叔父から「何か悪さでもしたのか」と 問い詰められていました。 しかし兄や従兄弟は抜け出したことを黙っており、大人達も異変に気付いた様子はありませんでした。 神楽舞は確か、夕方頃から始まり、最初は女性が数人で踊ったりしていたように思います。 舞の締めはいつも「剣を持った武士が龍のような妖怪を追い払う」踊りで、 クライマックスの頃には周囲にかがり火を焚いて辺りを照らしていました。 武士の舞い手も龍の舞い手(こちらは正月の獅子舞のように、二人一組でした)も、 面をつけるのが決まりでした。 そして舞いが終わった後、武士の舞い手は神社から少し離れた、山の中にある祠のような場所で一晩過ごすしきたりになっていました。 舞の後、私もしきたりに従い、祠に入りました。 一人きりは怖くてしょうがなかったのですが、外には一応、村の人が二人、 付き添っていてくれました。 時々声をかけてくれたのでそれほど怖い思いはせずに済んだのですが、三畳ほどの大きさの祠の中で、ろうそくの明かりを頼りに一人でいるのは、 やはりあまりいい気分ではありませんでした。 兄はこれを知っていたので、舞い手を嫌がったのだろうかなどと考えました。 眠くなったら、祠の中でなら眠ってもいいと言われたので、疲れていた私はそのうちぐっすりと寝入ってしまいました。 しかし寝入ってどれぐらい経った頃かわかりませんが、外からものすごい悲鳴が聞こえてきて、そこで目が覚めました。 社の外でもかがり火をたいていたはずなのに、それが消えて真っ暗になっています。 ろうそくの火もいつの間にか消えていて、私は外にいる村の人の名前を呼んだのですが、返事がありません。 ただ「んーっ、んーっ」という、唸り声のようなものが聞こえてきます。 村の人が怪我をして唸っているのかと思い、怖くなって、思わず祠の扉を開けました。 すると扉のそばにいた私を突き飛ばすようにして、何かが中に飛び込んできました。 飛び込んできた何かは祠の中をものすごい勢いでぐるぐると回り、やがてぴたりと 止まりました。 この日は満月ではなかったのですが、扉を開けると月明かりでかなりはっきり辺りを見ることができました。 そして月明かりが差し込む祠の中に、異様なものが立っていました。 はげ上がった頭に巨大な一つ目、一本足。 そんな化け物が、私のほうを見ていました。 化け物と目があった瞬間、私は悲鳴をあげて祠から飛び出しました。 ただひたすら集落のほうへ逃げようと思ったのですが、辺りが暗いうえに 祠周辺は初めて来た場所なので、どちらに行けばいいのかさっぱりわかりません。 祠の横のほうに細い道が伸びていたので、ただひたすらそちらに向かって、 泣きながら走りだしました。 そのすぐ後ろを、あれが一本足で飛び跳ねながら追いかけてくる気配を感じていました。 やがて少し開けた場所に出たのですが、そこは集落の入り口などではなく、幾つかの墓が並んだ古い墓地でした。 隠れる場所も、逃げる場所もない。 私はあれに捕まってしまうのだと思いました。 それでも少しでも身を隠したくて、一番奥にある墓の裏手に回りこもうと駆け寄った時です。 不意に墓石ががたりと揺れて倒れ、地面に空いた穴から何かが躍り出ました。 墓から躍り出たのは、血塗れの刀を下げた鎧武者でした。 肩に矢が刺さっており、兜をかぶっておらず、長い髪を振り乱しています。 私は思わず大声で叫んで腰を抜かしてしまったのですが、鎧武者は私には一瞥もくれず、 刀を下げて私が逃げてきた山道へと向かって駆け出しました。 少し離れた場所で「んんんんんーっ!」という物凄い断末魔がして、それを 聞いた瞬間、気を失ってしまいました。 目を覚ましたのは翌朝でした。 私と付き役の人達が戻ってこないのを不審に思い、神主さんをはじめとする 祭の世話役の人が祠に向かい、そこで異変に気付いたとのことです。 付き役の人達は特に外傷はなかったのですが、起こされるまで気を失っていたそうです。 私は昼前に、古い墓地で叔父に発見されました。 付き役の人達は何があったのか全く覚えておらず、私は泣きながら、昨晩一つ目の 化け物が祠に来て追いかけられたことを大人達に話しました。 ちなみに、私が隠れようとした墓石は倒れていましたが、地面に穴はあいていませんでした。 それから祖父の家に戻され、その日一日、神主さんがずっと私に付き添っていました。 その時に神主さんから、一つ目の化け物について説明を受けました。 一つ目の化け物は、この辺りでは「モッケ」と呼ばれていること。 山の中に棲み、山に入ってきた村人を迷わせ、女を犯し、時には喰っていたこと。 しかしある侍が当時の神主の協力を得て、山の中の岩にモッケを封じたこと。 その岩には注連縄をして、岩に続く道にも鳥居をたてて注連縄をし、立ち入り禁止に したこと。 今行われている神楽舞は、その一連のエピソードを元にしていること。 正直「嘘だろ」と思ったのですが、さすがに自分が見たものを否定することは できませんでした。 既に皆様お察しかと思いますが、兄達はそのモッケが封じられていた禁域を 侵してしまったのです。 岩を見に行った人の話によると、岩は真っ二つに割れていたそうです。 鳥居の注連縄も緩んでいたので、誰かが侵入したんだ!ということが判り、 大騒ぎになりました。 そこで兄達は黙っていられないと思い、大人達に禁域へと足を踏み入れたことを 打ち明けたそうです。 兄達はみっちり叱られていました。 兄の左足が腫れたのはおそらく、注連縄につまづいたからだろうとのことでした。 封じていたモッケが放たれた、と青くなる神主さんに、私は墓から飛び出した 鎧武者のことを伝えました。 神主さんは半信半疑といった顔つきでしたが、やがて私を見て 「モッケに追われたのに逃げ切ったという話は、確かに今まで聞いたことがない」 と、呟きました。 神主さんが私に付き添っていたのは、私の体調を心配していただけではなく、 モッケから守るためでもあったそうです。 同系列の神社の、他の神主さんにも協力を仰いで岩を調べたところ、 モッケの気配は綺麗さっぱり消え失せていることがわかったそうです。 肝心の鎧武者についてですが、どうやらこれは私のご先祖様ではないかとのことでした。 祖父の家の墓は菩提寺の墓地ではなく、祖父が持っている山の一画に墓地を 設けています。 モッケに追われた時に私が逃げ込んだのが、この墓地だったわけです。 祖父の家の祖先を辿っていくと、なんでも平家の落ち武者になるとのことですが、 本当かどうかはわかりません。 ですがこの出来事以来、私は霊感があるという人から高確率で 「あなたに武士の守護霊みたいなものが憑いている」と言われるようになりました。 「守護霊みたいなもの」という表現が、少々ひっかかりますが…… ある人からは「守ってくれているけど、決していいものではない」と言われました。 そして神楽舞ですが、祖父が住んでいた地域は現在、市町村の統合などで地名が 変わり、祭の形態も変わったと聞いています。 私も兄もモッケが出た夏以降の数年間、祖父の家に泊まりに行くことはありませんでした。 神楽舞は今でもやっているそうですが、兄や私が習った「武士が魔物を追い払う舞」は もうやっていないそうです。 長々と失礼しました。 後ろの人が平家の落人だからなのか、八幡宮系の神社に足を踏み入れると高確率で 体調不良になります。 高校の時、修学旅行で京都に行ったのですが、戻ってから高熱が出て大変でした。 「幽霊避け」で友人の部屋に行った後はひどい帯状疱疹に悩まされたのですが、 そちらはただタイミングが悪かっただけかもしれません。 あとモッケですが、鳥山石燕の今昔画図続百鬼に、よく似たものが載っていました。 そちらでは山精と記載されていましたが。 ただ私が目撃したのは腰みの姿ではなく、ぼろぼろの着物をまとっていました。 叔父に聞いてみたところ、モッケを封じた侍も祖父の祖先だそうです。 ただこちらは源平合戦の頃の話ではなく、もう少し時代が新しい伝承とのことでした。 数年前に祖父が亡くなったため、今伝承に一番詳しい親族は叔父なので。 八幡宮にお参りしないほうがいいというアドバイスをくれたのも、叔父でした。 舞でモッケ封じを再現するにあたって、障りが出てはいけないということで、 モッケの姿をそのままあらわすのではなく、龍のような形にしたそうです。 今まですっかり忘れていたのですが、そういえば魔物の面は一つ目でした。 額に角がついた面だったので、子供の頃の私はその魔物を「龍」と認識していたようです。 しかし「障りがあるかも」というのなら、何故わざわざ舞を作ったのか… 少し奇妙ですね。
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