「答えて」 お医者さんたちが、ガンヒョンの言葉を聞いて何かを話しあう横で。 ガンヒョンが、お世辞にも優しいとは言えない目をシンに向けている。 媽媽のお友達だから、シンにそんな態度になるのは、仕方ないのかもね。 「あなたの本当の気持ちは、どこにあるの?」 「・・・」 「悪いけど、私には今のあなたが皇太子だなんて思えない。 チェギョンのすごさを理解出来ない、ただの馬鹿な男だとしか。 そして、チェギョンの良さに鈍感過ぎて、引っ叩いてやりたいぐらい」 うわ~、怖いもの知らず! シンにそんなこと言ったら、シンが怒るよ? あれ?シン? ガンヒョンを見て、小さく自嘲するように笑うと媽媽に目を向けた。 その様子さえも、媽媽の友達に見せるはずの無い姿。 しかも。 「・・・そうだな」 認めるの? すごい、シンにこんなこと言わせるなんて。 シンの変化に気付いたのか、ガンヒョンは相変わらずシンをまっすぐに見据えているけど、幾分その眼差しから強さが消えた気がする。 「もう一度聞くわ。 あなたの本心は、どこにあるの?」 「何が言いたい?」 「あなたの周りには、たくさんの人がいる。 私に連絡するのはその人たちに電話をさせることだって出来たはず。 それなのに、さっきは自分でしてきたわ」 まるで、今の今までそのことに気付かなかったかのように、シンが息を飲んだ。 もしかして、本当に気付いていなかった? 「何より、以前のあなたならここにはいない。 違う?」 「・・・」 ガンヒョンってすごいね。 媽媽を通してかもしれないけど、シンの変化を見て取っていたんだ。 「昨日、チェギョンが言ってたの。 あなたが、皇太子をやめないと言ってくれたって。 完璧な姿を見せてやるって言ってくれたって。 とても喜んでたわ。 同時に、一緒にカメラの前で笑える相手欲しいって言われたって、落ち込んでいたけど」 どうしてシンは、こうも余計なこと言うかなぁ。 「あなたの気持ちは、本当はチェギョンに向かっているんじゃないの?でも、照れくさいのか、そうやって本音を隠してしまう」 「お前に何がわかる」 人間、隠していた真実を晒されると、それをさらに隠そうと焦るんだよね。 シン、怒っているというより焦りが声にでてるよ。 「じゃあ、チェギョンの何がわかるって言うの?」 「何だと?」 「だってそうでしょう?チェギョンがどうしてこうなったかわからないから、私にSOSしてきたんじゃないの?」 ガンヒョン! そのとおりだけど、間違ってないけど。 あんまり刺激しない方が良いよ。 シンは、こうやって言われることに慣れてないんだから、どんな反応をするか僕にもわからないぐらいなんだから。 「自分の好きな相手が、他の誰かを想っていると思い込んでいるつらさ、あなたにはわかるの?」 「・・・」 「チェギョンは能天気なように見えて、家族や友人をとても大切にする優しい子よ。 家族を助けたいからあなたと結婚しようとして、友人を大切にするからこそ宮での悩み事は誤解の元になるからと、あまり口にしなかった」 「当然だろう?宮の中のことは、そう簡単に話せるものでは・・・」 「チェギョンは、宮のしきたりに従ったんじゃないわ。 家族への迷惑よりも、友達との時間よりも、あなたを選ぼうとしたのよ!」 シン、もうごまかすのやめな。 わかってるはずだよ。 「あなたに幸せでいてほしいという思いだけで、そこまでしようとして、その上こんなことになるぐらいあなたに惹かれていたのに。 あなたのことを思っていたのに。 あなたは、それに気付かなかったとでも言うの?あなたにとってチェギョンは、それに気付く価値さえ無い存在だったの?」 「それは・・・」 「チェギョンは、あなたにとっていなくても良い存在なの?」 「違う!」 シン? 胸が痛むのか、そこに手を当てている。 媽媽を失う恐怖? それとも、自分の心を曝け出す大変さ? それで胸が痛いの? 「チェギョンは」 言葉を探しているのか、それとも言葉は決まっているけれどもそれを口にする勇気をかき集めているのか。 シンが、唇を噛みしめている。 こんな姿、見たこと無いや。 「チェギョンは、俺の人生で」 歯を食いしばるようにしてそこまで言うと。 さっきまで言われ放題だったガンヒョンに言い返すかのように、まっすぐに見据えた。 「一番大事な人だ」 シン! やっと言えたね。 でも、昨日僕も言ったしコン内官も言ったけど、言う相手が違うから。 「私に言われても困るわ」 ガンヒョン、ごもっとも。 どうせなら、もっと言ってやって。 「さっきも言ったけど、チェギョンは優しい子よ。 あなたの、人には見せ無いようにしてきた姿だってちゃんと受け入れてくれる。 仮面の下でしか泣けないあなたさえも、大切にしてくれる。 チェギョンの前ならきちんと泣けるようにしてくれるわ。 だから、ちゃんとチェギョンに言ってあげて。 チェギョンは、どんなあなたでも受け入れてくれる。 だから、あなたもちゃんとチェギョンを受け入れてあげて」 「・・・チェギョンの友達だけあるな」 誰にも気付かせ無いようにしていたはずのことを、ズバリと言い当てられてしまったせいか。 シンは小さく笑った。 取り繕うことさえ、やめちゃった? それはそれで、良い事だと思うけどね。 「チェギョンがずっとあなたを見ていたから。 イヤでも気付くわ」 イヤそうに言われてしまった。 ガンヒョンには、通じないみたいだね。 「殿下」 話し合いをしていたお医者さんたちが、結論が出たのかシンに声を掛けた。 「皆様のお話を伺い、話しあったのですが。 妃宮媽媽は、おそらくご自身で催眠術をかけられた状態かと思われます」 「自分で、催眠術を?」 「はい。 先ほどお友達の方がおっしゃったとおり、明日に、つまり今日にならなければと強く思われた。 その思いが強かっただけに、催眠術にかかったような状態になり、目を醒まされないのではないかと思われます」 「・・・それを解くには?」 「妃宮媽媽が強く願われた結果と言いますか、媽媽の心理状態から来ていますので、媽媽ご自身が今日になっても大丈夫だと思い、目を醒まそうと思って下さらない限りは・・・」 お医者さんたちは、最後まで言えなかった。 シンが皇太子だと思うからこそ、かもしれないけど。 シンの、ショックを受けたような表情に、最後まで言葉を続けられなかった。 「目を醒まさない、眠ったままだと?」 僕でさえ聞いたことが無いような、低く威圧するような声。 お医者さんたちがそれに気圧されているのに。 ガンヒョンは、媽媽の友達だけあると言うか、さすがと言うか。 「大事な質問よ」 と、まっすぐにシンを見た。 「チェギョンと離婚するつもりはあるの?それとも、ないの?」 「ない」 お医者さんの言葉にショックを受けていたはずのシンが即答すると、ガンヒョンは眠っている媽媽に近付き、その手をとった。 「チェギョン、聞こえる?良かったね、あんた、両想いだったよ」 シンを睨みつけるぐらい強気のガンヒョンだったのに。 目が潤んでる? 「だから。 だから、安心して起きていいんだよ」 涙で言葉が詰まってしまったみたい。 それ以上何も言えなくなってしまった代わりに、チェギョンの頬を、髪を撫でている。 そんなガンヒョンに触発されたのかな。 シンが、ガンヒョンとは反対側のベッドサイドに立った。 シン、ちゃんと伝えるんだよ。 シンの本当の気持ちを。 「チェギョン」 そう言ったきり、媽媽を見下ろすだけのシン。 何してるんだよ。 媽媽が催眠術を解けるように、シンの気持ちを伝えなきゃ。 「チェギョン」 もう一度呼びかけると、シンの手が媽媽の手に触れた。 お~、頑張れ、シン! 「ずっと、言葉にすることが怖かった。 俺が弱いせいで、ずっと辛い思いをさせてしまってた。 ごめん」 シンの言葉に、ガンヒョンが媽媽に触れていた手を離した。 すると、入れ替わるようにシンの手が、媽媽の頬に触れたんだ。 「皇太子という重荷を降ろしたかった。 皇太子という服を脱いでしまいたかった。 だから、その時にお前を実家に帰してやれるように、深入りしないでおこうと思った。 でも、ユルといるお前を見ると、無性に腹が立った。 当てつけのようにヒョリンと一緒にいる時間を作ったけど、腹立ちが収まるどころか、もっと自分を見失いそうになった。 いや、見失っていた。 お前への想いを認めないように、伝え無いようにしてたんだから」 嘘! シンが、跪いた。 儀式でもないのに、直接床に膝をつくなんて。 その上、媽媽の手を両手で包んで、まるで祈るようにそこに自分の額を当てている。 自分の思いを、そこから媽媽に伝えるかのように。 「ずっと言えなかった。 言ったら、自分がどうなるかわからなかった。 でも、言わないとお前は俺をひとりにするだろう?それはイヤだ。 ずっとそばにいてほしい、ずっと俺を見ていてほしい。 だから、言うよ」 媽媽の指に、キスをすると。 いつの間に泣いてたんだろう。 シンの目から鼻を伝って、涙が媽媽の手に落ちた。 「チェギョン、お前が好きだ」 やった~!! シン、良く言えたね。 媽媽、聞こえた? 「ずっと言えなくて、ごめん。 でも、本気だから。 俺の人生でこれ以上大切なものはないと思ってる。 もう、自分にもお前にも嘘はつかない。 お前だけを見るから。 だから、俺を見てくれ。 俺だけを・・・。 目を醒ましてくれ」.
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高野は律を抱き上げると、そのままバスルームに入った。 用意しておいた小さな椅子に律を座らせると、高野は丁寧に律を洗ってやった。 負傷している左手首と右足は手でゆっくり労わるように洗った。 「次の通院っていつなんだ?」 「1週間後です」 「それもちゃんと俺が連れてってやるからな。 会社も毎日車で行くからな」 「はい…」 「明日と明後日が休みで良かったな」 「はい。 でも…会社1日休んじゃいました…」 「そんなこと気にしなくていい」 「高野さん、もし週末何か用事があるなら出掛けてくれていいですよ。 俺は1人で大丈夫ですから」 「何言ってんだ。 お前といる以外に俺に用事なんかない」 「ありがとう…ございます…」 高野は律を脱衣所でバスタオルに包むと、そのまま抱き上げてソファに座らせた。 律の体を綺麗に拭きながら、律の胸元を指でつーっとなぞった。 ピクンと肩を揺らした律に「かわいい」と言って高野は笑った。 高野がなぞったその場所には、高野がつけた赤い華がいくつも咲いていた。 律はそれを見て顔を赤らめると「またこんなに…」と言って赤い顔のまま手で胸元を隠した。 「隠れてないぞー」と楽しそうに言う高野に「もうっ」と頬をぷぅっと膨らませた。 ただ、律の体には高野がつけた華以外に、階段から落ちたときの痣がまだたくさん残っていた。 高野はそれらに触れないように律に下着とパジャマを着せてやると、律の額に軟膏を塗ってガーゼをあててやり、左手首と右足首に処方された湿布を貼り、固めの包帯を丁寧に巻いていった。 きつすぎず緩すぎずしっかり固定された自分の手足に「高野さんってほんとになんでもできるんですね」と律は感心しきりだった。 「ま、親に放置されてるとなんでもできるようになるもんだ」 「……ごめんなさい……」 高野の自嘲気味な発言に、律はしょんぼりしてしまった。 高野としては特に意識していなかったのだが、今日高野と共に養父に会っているのだ。 律が自分の発言を軽はずみだったと思っても仕方がない。 高野は自分こそ軽はずみな発言をしてしまったと、律をふわりと正面から抱きしめた。 「ごめん…。 別に今日のことをどうこう思って言った訳じゃないんだ。 つい口から出た。 ごめんな」 律は高野の腕の中で首を振り、高野の胸元をきゅっと掴んだ。 「…俺も…ちゃんと…色々できるようになります…」 くぐもった声が律が自分自身を責めていることが伝わり、高野は自分は何をしてるんだと胸の内で舌打ちをした。 「お前が色々できるようになったら俺の出る幕がなくなるじゃないか。 色々できる律なんてかわいくないし、お前は今のままでいいんだよ」 「…ひどいです…」 「いーのっ。 だいたい俺が世話を焼くのはお前限定なんだから、お前は俺に甘えてろ。 それがお前の役割だ」 「…俺だって高野さんに何かしてあげられるようになりたいです…」 「もういっぱいしてもらってる」 「…何もしてません…。 俺がしてもらうばっかりで…」 高野は律の顔をあげさせると、まっすぐ見つめて言った。 「お前が俺のそばにいてくれるだけで俺は幸せなんだ。 それ以上でも以下でもない。 今まで通りでいいんだ。 それが俺の幸せだから。 お前の存在が俺の支えだから」 真剣な顔で律にそう告げてくる高野の目を、律は潤んだ瞳で見つめ返した。 そしてぽろりと涙を零すと「俺だって高野さんがいてくれるだけで幸せですっ…」と言うと、高野にしっかり抱きついた。 高野は律の背中をぽんぽんと叩いてやると「一緒だな」と言って柔らかく抱きしめ返した。 「はい…。 高野さんがいないと、生きていけません…」 「すげー殺し文句だなぁ、律」 「…やるときはやる男ですから…」 「そうだったな。 お前、肝心なことはいつも直球だったもんな」 「たまに言われるほうがありがたみがあるでしょ?」 「ははっ。 そうだな。 じゃあ俺は言いすぎか?」 「…高野さんは今のままでいいです…。 言われなくなるのはイヤです…」 「ワガママだなぁ、律は」 高野も律もくすくすと笑いながらしばらくそうして抱き合っていた。 少し早いがもうベッドに行こうと言って、高野は律を抱き上げて寝室に入った。 ベッドにそっと下ろしてやり、高野もその隣に入ると、律は高野の胸元に身を寄せた。 「昨日病院で1人で寝るの…寂しかったんです…」と言って、律は高野にぴったりとくっついた。 高野はぎゅーっと律を抱きしめてやると「言ってくれたら飛んで行ったのに」と言った。 「高野さんならほんとに飛んできそうですね」 「あぁ、行くぞ。 お前のためならどんな手段を使ってでも行ってやる」 「じゃあ今度はお願いします」 胸元から聞こえてくる声は、先ほどと違って幸せな響きを持っていた。 高野も律も、お互いの温もりを感じながらほどなく眠りについた。
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カテゴリー• 345• 6,014• 2,604• 549• 547• 118• 953• 735• 218• 271• 116• 120• 928• 1,701• 453• 216• 364• 1,337• 2,839• 215• 163• 172• 1,405• 146• 134• 132• 102• 177• 847 身バレするとマズいので5割は俺の創作、ということにしておく。 創作なので辻褄が合わない所もたくさんあるがスルーして欲しい。 当時俺は幼稚園生ぐらいの年齢で今で言う所謂ネグレクトというやつだった。 両親共にパチンカスで、俺と妹 当時まだ乳飲み子 は両親がパチンコをしている間は家か車かパチンコ店かで適当に過ごしていた。 幸い暴力の虐待などはなく、本当に子どもに興味がない、という感じだったんだと思う。 両親に遊んでもらった記憶はなく、おもちゃなども家に全くなかったので、広告の裏に鉛筆でひたすら絵を書いて遊んでいた。 生きていく最低限のことはやってもらっていて、お風呂も時々だけど入れたし、食べ物も両親の気が向いた時や、近所からの頂き物?のお菓子か何かがあるときはそれごとくれることもあった。 パチンコで勝ったときは両親の機嫌も良くて、本当に時々だけどファミレスに連れて行ってもらったこともある。 これが子どもながらに一番嬉しかったw 妹はまだ産まれたばかりでミルクももらっていたけど、両親がいない時は俺がミルクをあげたりもしていた。 初めは泣いていてもどうするべきか分からずそのままにしていたが、母親と同じようにすれば泣き止むのかなと考えて、台所にあるミルクの缶で見よう見まねでミルクを作ってあげた。 今思うと量って入れたわけではなかったので分量とかめちゃくちゃで飲ませて良かったのかわからないけど、当時は妹もゴクゴク飲んでたので安心した記憶がある。 あとオムツも替えてあげたがウンチの時はどうしたらいいか分からず放置していた。 帰ってきてから母親が替えていた そんなある日、俺と妹は両親に連れられてパチンコ店に行き、2人がパチンコをしている間俺は買ったオニギリを持たされ入り口のベンチ?みたいなところで食べながら待っていた。 妹は母親におんぶ紐で背負われていた すると、よく見るおじさんが声を掛けてきた。 おじさんはパチンコ店に来ているわけではなく、その隣にあったスーパーに来ていていつもパチンコ店の前を通っていた。 いつも何か食べたか?とか喉乾いてないか?とか聞いてきて、時々食べ物とか飲み物をくれたりするので俺はそのおじさんが好きだったw その日もいつも通り何か飲むか?と聞かれたのでペットボトルのお茶をもらった。 お茶を飲みながら話をしていると、おじさんが急に真面目な顔になり、おじさんの家に来るか?と聞いてきた。 母親に知らない人に着いて行くなと言われていたし、行っちゃダメだと分かっていたけど、家に来れば美味しいオムライス作ってやるぞと言われて、まぁパチンコが終わるまでにまた戻って来ればいいか、と思い、ついて行くことにした。 おじさんの家に着くと、優しそうなおばさんがいてよく来たね、言って頭を撫でてきた。 おばさんはオムライスを作ってくれて、そのオムライスがめちゃくちゃ美味くて、貪るように完食した俺を見て2人は少し泣いていた。 その後色々と質問をされて、最後にうちの子にならないか?と聞かれた。 裕福な暮らしはできないかもしれないけど、休みの日にみんなで公園に行ったり、遊園地や動物園に行ったり、誕生日には大きなケーキを買おう、みたいなことを言われ、当時そんなことを経験したこともなく、家族でそんなことをするのはテレビの世界のことだと思っていた俺はイマイチ実感は沸かなかったが、ポロっと「明日もオムライスたべれる?」と聞いてしまった。 今思うと馬鹿だなぁと思うけどその時は妹とか親のことよりも何よりもオムライスをまた食べたいという気持ちが勝ってしまい、明日も明後日も作ってあげると言うおばさんの顔を見ながら「じゃあなろうかな」と言ってしまった。 その後のことはあまり覚えていないが、俺は名前を変え、引越しをし、おじさんとおばさんのことをお父さんお母さんと呼ぶようになった。 新しい名前には中々馴染めなかったが、子どもながらに勝手に知らない人について行ってしまったことや妹を置いてきてしまった罪悪感もあり、絶対に本当の名前を知られてはいけない、と必死に紙に書いて覚え、間違えたりしないよう努力した。 新しい両親は本当の息子のように育ててくれた。 幼稚園にも学校にも行けたし、毎日美味しいご飯も食べられたし、仕事から帰ってきた父は毎日俺をお風呂に入れてくれた。 休みの日にはお弁当を持ってピクニックをしたりもした。 もちろん駄目なことをした時には思い切り叱られたし、小学生高学年になった頃にはもう前の家族のことなんてほとんど思い出さないぐらいだった。 二度目の引っ越しの時 父の転勤 、押入れの中に母と知らない小さな男の子がうつっている写真を見つけたことがあった。 誰だろうとは思ったが、聞いてはいけないことのような気がしてそのままあった場所に戻しておいた。 その後中学、高校を出て大学にも行かせてもらい、無事就職した。 大学にも行かせてくれた両親には本当に感謝している。 就職先で縁あって今は嫁も娘もいるが、生い立ちは話していない。 嫁は父と母を本当の両親だと思っている。 両親のしたことが正しいとは少しも思っていないし、俺のために動いたであろう警察の方や地域の方、また本当の両親と妹には本当に申し訳ないと思っている。 今幸せだからこそ、あの時ついていかなければどうなっていただろうと思うこともあるし、妹はどんな人生を送っているのだろうと思うこともあるが、今は大事な嫁と娘、そして両親との幸せを大事にしたい、と思う。 父と母の犯した罪は許されることではないが、一生一緒にその罪を背負っていかなければ、と思っているし、このまま墓場まで持って行こうと思う。 以上です。 俺の話を聞いてくれて有難う。
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