恋 に 焦がれ て 鳴く 蝉 より も 鳴か ぬ 蛍 が 身 を 焦がす。 のすじいのそーさく日誌178・・のすじいの夏唄・・:のすじい@色鉛筆Pのブロマガ

都々逸「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」に学ぶ

恋 に 焦がれ て 鳴く 蝉 より も 鳴か ぬ 蛍 が 身 を 焦がす

概略 [ ] 元来は、と共に歌われるで、がや座敷などで演じる出し物であった。 主として男女のを題材として扱ったためとも呼ばれる。 七・七・七・五の音数律に従うのが基本だが、五字冠りと呼ばれる五・七・七・七・五という形式もある。 作品例 [ ]• 惚れて通えば 千里も一里 逢えずに帰れば また千里(作者不詳)• この酒を 止めちゃ嫌だよ 酔わせておくれ まさか素面じゃ 言いにくい(作者不詳)• 浮名立ちゃ それも困るが 世間の人に 知らせないのも 惜しい仲(作者不詳)• の を殺し ぬしとが してみたい(作、作等、諸説あり)• 立てば 坐れば 歩く姿は の花(作者不詳)• 逢うて別れて 別れて逢うて(泣くも笑うもあとやさき) 末は野の風 秋の風 の 別れかな( 茶湯一会集)• 岡惚れ三年 本惚れ三月 思い遂げたは 三分間(作者不詳)• 一度でいいから 見てみたい 女房がヘソクリ 隠すとこ() 発祥 [ ] 都々逸発祥之地碑(2017年7月) 扇歌が当時上方を中心に流行っていた「よしこの節」を元に、「名古屋節」の合の手「どどいつどどいつ」(もしくは「どどいつどいどい」)を取入れたという説が有力である。 名古屋節は、名古屋ので生まれた神戸節(ごうどぶし)が関東に流れたもので、音律数も同じであることから、この神戸節を都々逸の起源・原形と考えるむきもある。 実際、名古屋市のには「都々逸発祥の地」碑がある。 都々逸が広まったのは、扇歌自身が優れた演じ手であっただけでなく、その節回しが比較的簡単であったことが大きい。 扇歌の時代の江戸の人々は生来の唄好きであったため、誰でも歌える都々逸が江戸庶民に受け入れられ、いわば大衆娯楽として広まった。 七・七・七・五という形式について [ ] 今では、七・七・七・五という音律数自体が都々逸を指すほどだが、都々逸がこの形式のというわけではない。 都々逸節の元になったやの他にも、(いたこぶし)、(なげぶし)、(ろうさいぶし)などの形式の全国各種のがあげられる。 都々逸はこれらの古い唄や他の民謡の文句を取り込みながら全国に広まった。 そのため、古くから歌われている有名なものの中にも別の俗謡等から拝借したと思われる歌詞がみられる。 例えば、 恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす という歌はにも所収されているし、にもその元歌らしき、 声にあらわれ なく虫よりも 言わで蛍の 身を焦がす という歌がある。 七・七・七・五はさらに(三・四)・(四・三)・(三・四)・五という音律数に分けられることが多い。 この構成だと、最初と真中にを入れて四拍子の自然なリズムで読み下せる。 なお、この最初の休符はの音を聞くため、との説がある。 寄席芸としての都々逸 [ ] 近年のの衰退と共に、定席のでも一日に一度も都々逸が歌われないことも珍しくなくなったが、少なくとも昭和の中頃までは、寄席では欠かせないものであった。 即興の文句で節回しも比較的自由に歌われることも多い。 俗曲として唄われる場合は、七・七と七・五の間に他の音曲のさわりや台詞などを挟み込む「アンコ入り(別名・さわり入り)」という演じ方もある。 都々逸が比較的簡単なものだけに、アンコの部分は演者の芸のみせどころでもあった。 また、しゃれやおどけ、バレ句なども数多くあるので、演者がを持つ時代ののネタとして、あるいはネタの形式として使われることも多かった。 作品例 [ ]• ついておいでよ この提灯に けして(消して)苦労(暗う)はさせぬから• あとがつくほど つねっておくれ あとでのろけの 種にする• あとがつくほど つねってみたが 色が黒くて わかりゃせぬ• はげ頭 抱いて寝てみりゃ 可愛いものよ どこが尻やら アタマやら 文芸形式としての都々逸 [ ] 元来から創作も広く楽しまれていた都々逸であったが、の頃から唄ものをはなれた文芸形式としても認識されるようになった。 都々逸作家と称する人々も現れ、新聞紙上などでも一般から募集されるようになった。 なかには、漢詩などのアンコ入りも試みられた。 作品例 [ ]• ねだり上手が 水蜜桃を くるりむいてる 指の先(田島歳絵)• ぬいだまんまで いる白足袋の そこが寂しい 宵になる(今井敏夫)• あせる気持ちと 待たない汽車と ちょっとずれてた 安時計(関川健坊鐘)• 内裏びな 少し離して また近づけて 女がひとり ひなまつり(寺尾竹雄)• 恋の花咲く ロマンの都 女ばかりに 気もそぞろ 夢もほころぶ 小意気なジルバ 君と銀座の キャフェテラス(サザンオールスターズ) 織り込み都々逸 [ ] の一種あたまにのお題などを入れつくった都々逸。 で放送されている。 脚注 [ ] [].

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都々逸「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」に学ぶ

恋 に 焦がれ て 鳴く 蝉 より も 鳴か ぬ 蛍 が 身 を 焦がす

窓を伝う雫をぼんやりと見つめていた。 宵闇の間を縫う銀糸のような雨がちらちらと視界を掠める。 もう七月だというのに今年の梅雨は良く雨が降る。 予報では今週にも梅雨明けかと言われていたけれど、この様子を見ているとそれも延期になるのではないかと思えた。 雨は嫌いじゃない。 雨音はしとしとと子守唄の様に耳に心地よく、雨粒のカーテンは見たくない現実をそっと優しく覆い隠してくれる。 佐倉は自室の机に向かって座っていた。 その手には一冊の文庫本が乗せられている。 様々な都々逸が集められた歌集だ。 あの後野崎に都々逸についてのアイデアは話したものの、すぐに修羅場に入ってしまったこともありうやむやに立ち消えとなっていた。 修羅場が明ければ程なくしてテスト週間になり佐倉の方にも勉強以外にかまけている余裕はなかった。 今日ようやくテストも終わり、改めて本屋に行って購入したのがこの本だ。 野崎の資料のためというより佐倉自身が他にどんな歌があるのか興味が湧いたのだ。 あまり行かない専門書コーナーの本棚でその本を見つけて、自然とそのままレジに持って行っていた。 読破した余韻でしばらくぼんやりと座っていた佐倉は、ぱらぱらとページめくりある一首が綴られている個所で手を止める。 それは先日国語便覧で目にした、佐倉の心を軽くしてくれた歌だ。 並んでいる文字をそっと指でなぞってみる。 何世紀も前に自分と同じ気持ちになった人がいたのだ。 それはとても不思議で、そして心強い感覚だった。 この歌と同じ、諦めるのは、もう諦めたのだ。 お気に入りの黒猫の栞をページに挟んで立ちあがる。 すっかり暗くなってしまっている窓の外を今一度見つめて、それから明るいピンクのカーテンで視界を遮った。 テストも終わり明日からはまたいつも通りの毎日が始まる。 野崎のアシスタントにも呼ばれるかもしれない。 そう思えば自然と心が浮き立った。 小さな棘が少しだけ胸をちくりと刺すけれど、なんだかんだ言って野崎の部屋で過ごす時間は大切なものなのだ。 好きな人と同じ空間で同じ作業をしながら学校よりもずっと近くで彼を見つめていられるのだから。 もし明日アシスタントに呼ばれたら、この本の話をしてみよう。 野崎は何と言うだろうか。 喜んでくれるといいのだけれど。 佐倉は忘れないように机の上の文庫本を鞄に入れてから階下へと向かった。 雨は夜の内に上がり、翌朝は何日振りかに青空が広がっていた。 久し振りに日光を浴びるのが嬉しくて佐倉は鞄を背負うと軽やかな足取りで歩き出した。 雨は嫌いじゃないが晴れも好きだ。 日焼けは気になるけれど太陽の下吹き抜ける風に体を撫でられるのは純粋に心地良い。 テストも終わり、雨も上がり、学校の雰囲気は昨日までとは打って変わってどこか明るい。 夏休みが近いこともあって生徒達の表情は晴れ晴れしている。 佐倉も高揚した気分のまま一日の日課を終えた。 昼休みに野崎からメールが入っており、佐倉の予想通り今日アシスタントに来られないかという内容だった。 もちろん二つ返事で引き受けたのだが、そんなこともあったせいで尚更気分は高まっていた。 テスト期間中はアシスタントもなかったので実に二週間ぶりの野崎宅への道だ。 通い慣れなかったこの道も今では良く見知った風景へと変わった。 この道を通い始めたころは青々と茂っていた若葉は、今日は強い陽射しを浴びてきらきらと光っている。 姿は見えないが幹には蝉がとまっているのだろう。 二週間前は聞こえなかった力強い鳴き声が頭の上から降ってくる。 つまり、暑い。 佐倉は流れ落ちる汗をミニタオルで拭いながらやっとの思いで野崎の部屋の呼び鈴を押した。 「涼しいー。 生き返るー。 」 「昨日まで雨だったのに急に暑くなったからな。 」 リビングはエアコンのおかげで快適な室温が保たれていた。 座布団に腰を下ろした佐倉に、野崎が良く冷えた麦茶のグラスを差し出す。 礼を言って受け取ると、一気に飲み干した。 冷たい液体が喉を下っていくのが心地よい。 「喉乾いてたんだ!ありがとう。 」 「ああ。 」 ようやく人心地がついたところで部屋の中を見回してみると他には誰もいないようだ。 この二か月で御子柴、堀、若松と他のアシスタントとも顔を合わせたのだが、今日は自分が一番乗りだろうか。 佐倉がきょろきょろと視線を彷徨わせているのを見て、何を考えているか察したらしい野崎が口を開いた。 「今日は佐倉だけだ。 御子柴はテスト中我慢していたゲーム、堀先輩と若松は昨日部活解禁になったばかりで色々と忙しいらしい。 」 「そ、そうなんだー………」 アシスタントはあるかもしれないと思っていたが、まさかいきなり二人きりとは思っていなかった。 テスト前は修羅場だったこともあり必ず誰かとは一緒だったので、てっきり今日も他に誰か来るものと思っていた。 二人きりと思うと、急に意識してしまう。 久し振りに間近で見る野崎。 佐倉も今日から夏服に替えたのだが野崎も半袖になっており、真っ白のシャツが目に眩しい。 佐倉は野崎の着崩さない制服の着方も好きだ。 長身の野崎だからこそきっちり制服を着ても着られている感じにならず、かえってスタイルの良さが強調されると思う。 だがもし野崎が制服を着崩していても、それはそれで好ましく映ることだろう。 結局は野崎なら何でもいいのだ。 「テスト終わったばかりなのに早速で悪いな。 部活は大丈夫だったか?」 「あ、うん!当分は共同制作もないし、いつでも来れるよ。 」 「そうか、助かる。 」 そう言って野崎が微笑んだ。 口の端が僅かに上がっただけなのだが、それだけで胸が高鳴る。 ああ、好きだなあ。 佐倉の視線に気付くこともなく野崎は手元の原稿に目を向けた。 ベタ指定が終わっているものを取り出してこちらに差し出してくる。 「今日はこんなところだ。 よろしく頼む。 」 「了解!頑張ります!」 それからしばらくして、佐倉はぱたりと持っていた筆を置いた。 無言で集中していたのだが、ようやくきりがいいところまで終えることが出来た。 うんと伸びをして首を回す。 作業は嫌いではないのだが、同じ姿勢を続けるせいでどうにも体が固まってしまうのが難点だ。 「少し休憩にするか。 」 野崎の方も一段落したらしく、言うが早いか立ち上がってキッチンへと向かう。 恐らくお茶の準備をしてくれているのだろう。 いくら家主だからといって、普通こういう作業こそアシスタントであり女子でもある自分がすべきなのではないだろうか。 いつかと同じくもう少し頑張れよ私、と思いつつも、野崎の出してくれるお茶やお菓子がおいしいのでついつい甘えてしまうのも仕方ない気がする。 しばらくそのままキッチンで支度をする背中を眺めていたのだが、野崎がトレイを持って来るのに気付いて慌ててテーブルの上を片付けた。 原稿を汚さないように一旦鞄の近くへ置いたところで、鞄の中の文庫本の存在を思い出す。 ここに来る道中暑さで頭がいっぱいになってしまって忘れていた。 「そうだ、野崎くん。 この前話した都々逸の本を持って来たんだけど、読んでみない?」 「ああ、修羅場前に言っていたやつだな。 助かる。 ありがとう。 」 テーブルの上にコースターとグラスを二つ置いて野崎はそのまま座布団の上に腰を下ろした。 鞄から取り出した本を手渡すと、彼はその場でぱらぱらとめくり出す。 内容を読むというより本の感じを眺めているようだが、ふとその手が止まった。 「佐倉、栞が挟まってる。 まだ読み途中なのに借りていいのか?」 野崎の手には見慣れた黒猫の栞。 猫と薔薇をかたどったシルエットに赤いリボンがついたお気に入りだの物だ。 そういえば昨日例の歌のところに挟んだままにしてしまっていた。 「あ!え、えーと。 たまたまそこに挟んでただけで、もう全部読んだから大丈夫だよ!じゃあ栞だけもらっとくね。 」 そのページに挟んでいた意味を野崎が気付くはずもないのだが、何となく焦ってしまう。 ぎくしゃくと手を伸ばせば案の定野崎は何のひっかかりもなくその栞を佐倉に手渡した。 その瞬間、ほんの一瞬だけ指先が触れ合う。 その些細な接触にさえどきりと胸が高鳴った。 「そうか。 なら遠慮なく貸してもらう。 ありがとう。 」 「ど、どどどういたしまして!」 いまだドキドキと騒がしい心臓を何とか落ち着かせながら精一杯の笑顔を取り繕う。 野崎は気付いてすらいない取るに足らない触れ合いに、ここまで心を揺さぶられている等と悟られるわけにはいかないのだ。 とはいうものの、元より鈍感な彼のこと、わざわざ不自然な笑顔を作らなくても気にしなかったかもしれない。 むしろ彼は自分の挙動が多少不審でも気にも留めないだろう。 そう思うと少し悲しいが、事実なのだから仕方がない。 思わず肩を落として小さく溜め息を吐くと、野崎が流石にそれには気付いたようで、本に向けていた視線を佐倉へと戻した。 「そういえば、この前悩んでいた件は解決したのか?借りた礼というわけではないが、俺で良ければ話を聞くぞ。 」 この前悩んでいた件、というのは野崎がメールをくれた時の話だろう。 つまり、野崎に運命の人がいると聞いて落ち込んだ日のことだ。 確かに開き直ることで気持ちは軽くなったが、解決等しようはずもない。 しかしだからといってまさか本人に話せる内容でもない。 「ええ?!いや、それはちょっと………」 「前も言ったが、これでも恋愛相談には割と乗って来た方だぞ。 」 自信満々に己を指し示す野崎にふと疑問が浮かぶ。 確かにあの日も今日も悩んでいる素振りではあったかもしれないが、何故その内容が恋愛に関することだと思うのだろうか。 そういえば野崎は最初から佐倉の悩みを恋愛関係だと決めつけていたように思う。 「なんで私の悩みが恋愛のことだって思うの?」 「考え込んでいる時の表情が漫画で良く見る感じに似てたから。 違うのか?」 違わない、とはさすがに言えないし、沈黙は肯定のようなものだ。 ここでさっと嘘を付けるほど器用な人間ではない。 というかどんな表情をしてたんだ自分。 野崎にそんな顔をさらしていたことを恥ずかしく思う一方で、友達としてではあっても野崎が自分を気にかけて良く見てくれていたのが嬉しくもある。 ちらりと彼を窺い見ると、いつでも話していいぞというかのように穏やかな顔でこちらを見つめていた。 それはいいのだが、手にメモ帳が握られているのは捨て置けない。 心配してくれているのも本心だろうが、やはりというかなんというか、こういうところが野崎の野崎たる所以であると、ここ何か月かで嫌という程思い知らされた。 「………ネタにするつもりでしょ?」 「佐倉が嫌ならそのまま漫画にはしない。 」 否定はしない。 が、譲歩しているように見せかけて結局は漫画の肥やしにするつもりだということだろう。 引く気がなさそうな野崎の様子に、これは適当に話をしておいてお茶を濁した方がいいかもしれないと諦めることにした。 もちろん本人を前に洗いざらいぶちまけるわけにはいかないのだが、当たり障りのない部分だけなら話しても大丈夫だろう。 どういう風に話せばいいのか頭の中で考えながらこくりと喉を鳴らす。 野崎にばれないよう言葉を厳選しながら口を開いた。 「す、好きな人がいて………」 「うん。 」 「え、ええと、男らしい性格に惹かれて………」 「うん。 」 「それで………」 「それで?」 一旦言葉を切った佐倉はちらりと正面に座るその人を見つめる。 メモ帳を持ちながらではあるが、真摯な眼差しが自身を真っ直ぐに映していた。 ああ、好きだなあ。 無表情だ何だと言われる野崎の顔だが、佐倉の目には他のどんな人よりかっこよく見える。 一日に何度も何度も彼のことを好きだと思う。 どうしたって捨てることの出来なかった想いは、今尚大きく育つばかりだ。 どれ程大きくなろうと叶うことはないのだけれど。 つきんとまた小さな棘が刺す。 大丈夫、分かっている。 分かっていて諦めないと決めたのは自分なのだ。 佐倉は軽く深呼吸をしてから再び口を開いた。 今ばかりはどうしても野崎のことを見られず目を伏せてしまったが、それも恋に悩むが故のことだと受け止められるだろう。 「………でも、その人他に好きな子がいる、って。 」 「本人に確認したのか?」 「うん………」 確認も何も、野崎こそがずっと前から心に決めている人がいると話した張本人なのだが、それには気付かなくていい。 知らなくていい。 知られてしまったら、あなたを好きでいることすら出来なくなってしまうから。 「………そうか。 それは辛いな。 俺も、もしあの子に好きなやつが出来ていたらと思うと、すごく悲しい気持ちになる。 」 佐倉の言葉を自分に置き換えて想像したのか野崎が表情を曇らせた。 それを見てほんの少し胸は痛むけれど、元より分かっていたことだ。 佐倉は重たくなった空気を振り払うように笑顔をつくって見せた。 「やだなあ、野崎くんまで暗くならないで!私なら大丈夫だから。 」 「佐倉………」 「………決めたの。 それでも好きでいる、って。 」 だから大丈夫とことさらに笑って見せれば野崎は感心したように呟いた。 「強いな、佐倉は。 」 僅かに目を細めて微笑んだ野崎は、その大きな手で佐倉の頭を撫でた。 優しく、労わる様な掌。 それ自体はとても心地良いものなのだが、いきなり好きな人から触れられて佐倉は大いに動揺した。 顔が熱い。 「の、野崎くん?!」 「ああ、悪い。 子ども扱いしたわけじゃないんだ。 頑張ってるなと思ったら、つい。 」 野崎は何でもない事のようにそう言って佐倉の頭から手を離した。 それを少しだけ名残惜しく思う。 あの手はいずれ運命の人を抱き締めたり撫でたりするのだろう。 それでも、今この時だけは自分に触れてくれた。 それを嬉しく思う。 「いいアドバイスが出来なくてすまん。 」 いつの間にかメモ帳を仕舞った野崎が申し訳なさそうに頭を下げたので、佐倉は慌てて首を横に振った。 「ううん、野崎くんに聞いてもらえて心が軽くなったよ。 ありがとう!」 「俺で良かったらいつでも話を聞くからな。 」 「ありがとう。 私も、野崎くんの話いつでも聞くからね。 」 本当は聞きたくない気もする。 それでも、野崎がどんな形であれ自分を頼ってくれるのであれば応えたい。 その一心で佐倉はそう告げた。 「ああ、ありがとう。 佐倉にはいつかまた話すかもしれない。 それじゃ、今日は作業の続きをするか。 」 「うん!」 野崎の淹れてくれたアイスティーを飲み干して佐倉は元気よく頷いた。 [newpage] 数日後、佐倉は鹿島、瀬尾、御子柴と共に近くの夏祭りに遊びに来ていた。 学校が終わった後に改めて待ち合わせをして会場である神社に集まったのだ。 最初こそ四人で歩いていたはずなのに、気が付くと佐倉は一人で人ごみに揉まれていた。 みんなどこ行っちゃったんだろう。 きょろきょろと辺りを見回しながら境内を歩いてみるものの探している相手は見つからない。 御子柴などつい先程まで隣にいたのに佐倉がりんご飴を買っている間に忽然と姿を消してしまった。 それぞれに電話を掛けてみても喧騒の中にいて気が付かないのか、誰とも繋がらない。 この年になって迷子なんて。 他の皆は一緒にいるのかなあ。 恥ずかしいやら情けないやら複雑な気持ちになりながら懸命に他のメンバーを探す佐倉は、それぞれがバラバラに行動していることを知らない。 ちなみに現在鹿島は堀を、瀬尾は若松を、御子柴はカプセルトイを見つけて、各自が思い思いに祭りを楽しんでいる。 「あ、すみません!」 人ごみの中を探しながら歩いていたら誰かにぶつかってしまった。 佐倉は慌てて謝罪するとその相手を見上げて思わずあっと息を呑む。 の、野崎くん! 佐倉がぶつかった大きな背中がゆっくりと振り返る。 そこにいたのは見間違えようはずもない、野崎梅太郎その人だった。 学校の近くでやっている祭りだから野崎が来ていても何らおかしくないのだが、これだけの人がいて、それでもこうして会うことが出来るなんて。 野崎を認めて佐倉の頬はみるみる紅潮していく。 野崎はというと、そんな佐倉をただじっと見下ろしていた。 「リボンの柄は違うが、もしかして佐倉か?」 「もしかしなくても佐倉だよ!どこで認識してるの?!」 「いや、冗談冗談。 浴衣着てるのが珍しくてな。 」 「もう………!」 本当に冗談だろうか。 今日はトレードマークとも言える赤地に白ドットのリボンではなく、浴衣に合わせたローズピンクの無地のリボンを付けているのだが、よもや本当にリボンの柄で判別されているのではないだろうか。 これだけ一緒に過ごすことも多くなって流石にそれは悲し過ぎるけれど、野崎が真顔で言うものだから本当に冗談なのか怪しくなってくる。 「それ、持ってるのりんご飴か?いいな。 」 「え、うん。 食べる?」 なんて、と続けた言葉は尻すぼみに小さくなって途切れた。 野崎が身をかがめて自分の持っているりんご飴にかじりついたから。 「っ………」 「うまい。 ごちそうさま。 」 野崎はそう言っていつもの無表情で咀嚼しながら歩き始める。 しかし佐倉は顔を真っ赤に染めたまま呆然として動くことが出来なかった。 今、今野崎くん私の食べかけのりんご飴………つまりこれって! 「佐倉、行かないのか」 「わっ!行く、行きます!」 固まっていた佐倉は少し離れたところから野崎に声をかけられて慌てて自分も歩き出した。 今のがいわゆる間接キスだということはとりあえず頭の隅に置いておこう。 野崎は何の意識もなく友達としてああいうことをしたのだから、自分だけが意識しておかしな態度をとるわけにはいかない。 自分と野崎はあくまで友達、なのだから。 また少しだけ胸が締め付けられたけれど、それには気付かないふりをして佐倉はやっと追いついた野崎と並んで歩き始める。 「野崎くん、どこへ向かってるの?このままだと会場から出ちゃうけど………」 屋台の数も少しずつ減り、人通りもまばらになってきた。 しかしぽつりぽつりとではあるが同じ方向へ向かっている人達がいるので、この先に何かあるのかもしれない。 「神社の裏手にあるホタル池で、養殖した蛍を放す蛍祭りをしているそうだ。 ついでにそっちも見ておこうと思って。 」 「そうなんだ。 私、蛍なんて見たことないよ。 」 「俺もだ。 だが漫画で使うことがあるかもしれないからな。 生憎写真撮影はNGらしいが、その分良く観察しよう。 」 「そうだね!」 やがて目的地に着くと境内を照らしていた提灯の姿も消え、お囃子は遠く微かに聞こえる程で、さっきまでの賑やかさが嘘のような暗闇と静寂に包まれていた。 目が慣れてきたのもあって辺りの様子もようやく少し分かるようになる。 家族連れやカップルなどがあちらこちらでその時を待っているようだ。 大きな声ではないが談笑している声も聞こえる。 佐倉もいつもより声をひそめて野崎に話し掛けた。 「蛍、まだいないね。 」 「ああ。 時計を確認できないから開始時間までどれくらいか確認は出来ないが………お、そろそろのようだぞ。 」 野崎の視線の先を辿れば、確かに主催者達が何やらもぞもぞと動いているらしいところが見えた。 どうやらちょうどいいタイミングで到着したらしい。 佐倉は純粋に初めて見る蛍のことを思って期待に胸を膨らませながらそちらを見つめる。 やがてふわりと小さな光が浮かび上がるのが見えた。 始めは一つだったその光が、ぽつぽつと違う場所にも現れて、その内に辺り一面がその優しい光に包まれる。 「……………」 小さい子どもの歓声が遠く聞こえる。 しかし佐倉は言葉も忘れてその光景に見入っていた。 正直に言うと、蛍祭りといっても夏祭りのおまけのようなものでそこまで力の入っていないイベントなのかと思っていた。 蛍が見られるといっても、精々数匹程度なのかと。 それがどうだ。 先程まで暗闇に包まれていたのが嘘のように飛び交う蛍の光が辺りを照らす様子は、思わず何も言えなくなるくらい幻想的だった。 人工的なライトとは違う柔らかな光が無軌道に点いたり消えたりを繰り返す。 どんなに綺麗なイルミネーションでもこの光景を作り出すことは出来ないだろう。 そして何より、この光は決して人を楽しませるためのものではない。 蛍がその身を焦がして求愛している、いわば生命の営みの光なのだ。 「きれいだな………」 隣の野崎がぽつりと零した。 飾り気も何もないシンプルな言葉だったが、それはかえって野崎が本心からそう思っていることを伝えていた。 佐倉も蛍から視線を逸らさず頷く。 「うん。 本当に、すごくきれい………」 それ以外の言葉が出て来ない。 二人はしばらくそうやって同じ光景に見入っていた。 どれくらいそうしていただろうか、蛍の光も段々と少なくなってきた。 完全に消えてしまったわけではないが、ピーク時に比べると四割程だろうか。 蛍祭りを見に来ていた人々も徐々に移動を始めている。 もう帰り始めているのかもしれない。 辺りが次第にざわつき始めたところで、ふいに野崎が口を開いた。 「佐倉、一つ提案があるんだが。 」 「提案?なあに?」 まだ蛍の余韻に浸っていた佐倉はぼんやりと返事をした後で、振り仰いで見た野崎の表情があまりに真剣だったため息を呑んだ。 野崎と出会って一年と数か月、原稿に向かっている時の顔も真剣そのものだが、こんな顔は今まで見たことがない。 佐倉は野崎の言う提案が何なのか予想もつかないが、何故だか胸騒ぎがした。 どうしてだろう、野崎が口を開くのが、少し怖い。 「俺達、互いの恋の協力者にならないか。 」 「!」 恋の協力者。 思ってもみなかったことを言われて佐倉は目を見開く。 「俺はあの子の為に女子の好きそうなシチュエーションや演出を研究してきたが、実際に同じ年頃の女子から生の反応をもらったことはない。 ファンレターだとどうしてもタイムラグがあるしな。 だから、佐倉がその研究を手伝ってくれたらすごく助かる。 」 「…………。 」 野崎の恋に、協力。 野崎とその相手に直接何かをするわけではないようだが、間接的にとはいえ果たして自分は野崎の、好きな人の恋に協力出来るだろうか。 例えば今日のように一緒に出掛けて、そしてどういうところにときめくか、提案や助言をする。 それが誰のためのものか、分かっていながら。 黙りこくったままの佐倉をどう思ったのか、野崎は更に言い募った。 「もちろん俺も佐倉の相談に乗るし、助言もする。 」 「あ、ええと………」 野崎が自分の恋に協力するというのは不可能だ。 理由は簡単で、佐倉が好きなのは野崎だからだ。 佐倉と野崎の恋は、どちらもが叶うことなどあり得ない。 野崎は互いの恋の協力者と言ったけれど、佐倉はきっと野崎の恋に心から協力することは出来ないし、野崎はどれだけ真剣に佐倉の恋に協力しようとしても、それはある意味逆効果だ。 佐倉を野崎以外の誰かと恋仲にさせようとしているということなのだから。 佐倉はどう答えていいか分からず言葉に詰まった。 その様子を別の意味で受け取ったらしく、野崎がぽんと手を叩く。 「ああ、でも佐倉の好きなやつにそういう現場を見られたら誤解されてしまうか。 」 「う、ううん!それは絶対大丈夫。 」 何せ本人が相手なのだから。 誤解というなら、一番始めのところから誤解されている。 だが当然それを言うわけにもいかず、佐倉は慌てて話題を自分の好きな人から逸らそうとした。 「そういう野崎くんも、もし見られちゃったら困るんじゃない?」 これで諦めてくれないかなと僅かな期待を込めてぎこちなく問いかけたのだが、野崎はあっさりと首を横に振った。 「いや、あの子は多分近くにはいないだろうし、もし見られてもきちんと話せば分かってくれると思う。 」 「そっか………」 これで退路は断たれた。 どうしよう。 佐倉は必死で頭を働かせる。 嫌、というのとは少し違う。 どちらかというと不安の方が大きい。 もしここで引き受けたとして、野崎への恋心を抱えたまま野崎の恋に協力することが出来るだろうか。 心からの協力が無理でも、本心を偽りながらでも、それでも協力者に徹することが出来るだろうか。 そして、野崎に自分の恋心を悟られないように協力してもらうことなど出来るだろうか。 今よりもっと嘘を吐いて、野崎を騙して。 そう思えばやはり不安の方が大きかった。 野崎に応えたいとは思ったけれど、応えることによって更に野崎を傷付けるかもしれない。 いや、むしろ自分が傷付くのが怖いだけなのだろう。 かといってここで断るということは、折角自分を頼ってくれた野崎の信頼を裏切ることになる。 佐倉は気持ちに整理がつかないまま野崎をちらりと見上げた。 野崎は変わらずにずっと自分を真っ直ぐ見下ろしている。 「俺は今まで親しい女友達はいなかったんだが、佐倉になら不思議と色々話すことが出来た。 だから、佐倉からアドバイスをもらえたら助かるんだが、どうだろう。 」 そんな顔で、そんなことを言うなんてずるい。 こんなのもう、断るなんて出来るわけない。 「………私で力になれるなら、喜んで。 」 ああ、頷いてしまった。 これでもう後戻りは出来ない。 引き受けたからにはきちんとやる、それは根が真面目な佐倉にとっては当然のことだ。 元より告げるつもりのなかった想いだが、こんなことになって尚更好きだなんて口にして伝えることは出来なくなった。 そのたった二文字を声に出すことは許されない。 それでも募るこの想いは、きっとどんどん蓄積されて、ひそかに身を焼く熱になる。 今だって、佐倉の返事を聞いて安堵したのか微笑みながら蛍の淡い光を見つめるその横顔に、胸が簡単に高鳴るのに。 佐倉はふわりと浮かび上がる蛍の光と野崎の横顔を焼き付けてそっと目を閉じた。 ほのかに点滅する光がぼんやりと瞼の裏に映る。 ふいに例の本の一首が思い出された。 読んだ時は上手い言い回しだなとしか思わなかったけれど、今ならその気持ちがもっと分かる気がする。 恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす ああそうだ。 口に出来ない想いに焦がれるのなら、いっそ蛍のようになれたらいい。 蛍の光の様に、この熱であなたを照らせればいい。 この恋心が、貴方の役に立てればいい。 佐倉はそっと目を開けた。 視界に飛び込んでくるのは、薄闇を照らす蛍の光と、大好きな人の姿。 佐倉は精一杯の笑顔を作って隣に立つ野崎に呼び掛けた。 「今日から私達、協力者だね。 改めてよろしくね!」 「ああ、こちらこそよろしく。 」 野崎も微笑んで佐倉を見下ろしている。 それを見つめ返しながら、瞼の裏にはいつまでも蛍の光がちらついていた。

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株式会社ハジメガカンジン 住宅営業コンサルタント森下泰成オフィシャルブログ。「人の値打ちと 煙草の味は 煙になって わかるもの」

恋 に 焦がれ て 鳴く 蝉 より も 鳴か ぬ 蛍 が 身 を 焦がす

「蚊の鳴くような声」という言い方がありますね。 蚊は決して鳴かないのに不思議だなと思っていた方もおられると思いますが、これは「蚊の 羽音のように、 かすかで弱々しい声」という意味です。 「きまり悪そうに蚊の鳴くような声で話す」のように使います。 「恋し恋しと鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」あるいは「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」という都々逸(どどいつ)があります。 確かには鳴きませんが、オスのホタルはおしりを発光させてメスを呼びます。 ところで、俳句の「」には、 決して鳴かない昆虫などの動物に「 鳴く」を付けたものがいくつかあります。 今回はこれについて考えてみたいと思います。 1.亀鳴く 亀は「爬虫類」で、「亀鳴く」は「春」の季語です。 春ののどかな昼、あるいは朧の夜に亀の鳴く声が聞こえるような気がするというものです。 春になると「亀の雄は雌を慕って鳴く」とも言われます。 しかし、亀には声帯がないので、鳴くのではなく、呼吸する時に鼻や気管支が空気の出入りによって振動して「シュー」「シューシュー」「キュッキュ」といった音を出すそうです。 相手を威嚇する時や、驚いた時、求愛行動の時にこのような音を発するようです。 ちなみに「求愛行動」の時の音は「キュッキュ」だそうです。 「龜なくとたばかりならぬ月夜かな」(富田木歩) 「亀鳴くと嘘をつきなる俳人よ」(村上鬼城) 「亀鳴くや月暈を着て沼の上」(村上鬼城) 「亀鳴くや皆愚かなる村のもの」(高浜虚子) 2.田螺(たにし)鳴く 田螺は「巻貝」で、「田螺鳴く」は「春」の季語です。 水田や池沼などの泥地に棲み、冬は泥中に潜んでいますが、春になると泥の上を這いまわります。 田螺は水を吸ったり吐いたりしますが、蓋を閉める時に、殻内の空気が隙間から漏れ出して「チュー」という音が出るそうです。 「連翹の枝結ひてあり田螺鳴く」(殿村莵絲子) 「こと~と田螺は鳴くと僧夫婦」(高野素十) 「まひる吾が来たり田螺は鳴くものか」(三橋鷹女) 「田螺鳴くひとり興ずる俳諧師」(山口青邨) 3.蓑虫(みのむし)鳴く 蓑虫は「蓑蛾(みのが)類の幼虫」で、「蓑虫鳴く」は「秋」の季語です。 蓑虫は、別名「鬼の子」「鬼の捨て子」と呼ばれています。 清少納言の「枕草子」40段には次のような一文があります。 蓑虫、いとあはれなり。 鬼の生みたりければ、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、親のあやしき衣(きぬ)ひき着せて、「今、秋風吹かむをりぞ、来むとする。 侍てよ」と言ひ置きて逃げて去(い)にけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「 ちちよ、ちちよ」 と、 はかなげに鳴く、いみじうあはれなり。 ここから「蓑虫鳴く」という季語が生まれたのかもしれません。 しかし、蓑虫は決して鳴きません。 淋しそうに風に揺られる蓑虫の物悲しい様子を見て、清少納言には胸が締め付けられるように感じて「蓑虫の心の声」が聞こえたのでしょうか? 「蓑虫の父よと鳴きて母もなし」(高浜虚子) 「蓑虫の音(ね)を聞きに来よ草の庵」(松尾芭蕉) 「みのむしはちちと啼く夜を母の夢」(志太野坡) 「みの虫や啼かねばさみし鳴くもまた」(酒井抱一) 4.蚯蚓(みみず)鳴く 蚯蚓は「環形動物門貧毛綱」の動物で、「蚯蚓鳴く」は「秋」の季語です。 蚯蚓は実際には鳴いたりしません。 しかし、8月から9月ごろの夜のしんとした野道、確かに土の中から蚯蚓の声が聞こえてくるように感じられるのが「俳諧の趣」です。 なお、これは地中から「ジジーッ」と聞こえてくる螻蛄(けら)の鳴き声を、蚯蚓の鳴き声と勘違いしたものだとも言われています。 なお、面白いことに「螻蛄鳴く」という「秋」の季語もあります。 これはまさに螻蛄が鳴くのを指した季語です。 「秋」といっても「旧暦の秋」で、「立秋(多く8月8日)から立冬(多く11月8日)の前日までの期間」です。 私は8月中旬の昼の暑さがまだ残る宵に、夕涼みがてら田んぼ道を歩いていて、この「ジジーッ」という螻蛄の声をよく聞きました。 「蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ」(川端茅舎) 「蚯蚓鳴いて夜半の月落つ手水鉢(河東碧梧桐) 「蚯蚓啼くや繰返し読む母の文」(石島雉子郎) 「蚯蚓鳴くや冷き石の枕元」(寺田寅彦) 5.カブトムシは鳴く!?(蛇足) 私は前に「」を記事に書きましたが、その時の経験からカブトムシが鳴くのを自分の耳で聞いたことがあります。 夜中に飼育ケースの中から「シュッ、シュッー」「キュウ、キュー」「ギュウ、ギュー」という音が聞こえるのです。 これは交尾の合図らしいです。 しかし、鳴き声と言っても上の季語の例と同様に「声帯」を震わせて鳴いているわけではありません。 カブトムシの鳴き声は「腹部を伸び縮みさせ、上翅の内側との摩擦によって音を出しているのです。 これはオスもメスも同じように音を出します。 考えてみれば、昆虫の場合は、セミや、キリギリス、コオロギ、スズムシ、マツムシ、クツワムシのように「鳴く虫」に分類されていても、実際には「翅で腹部を擦ったり、翅を擦り合わせて音を出している」わけです。 ただ、これらの「鳴く虫」の場合は「誰もが、はっきり鳴いていると認識できる声」になっているだけです。

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