リプロダクティブ・ライツに関わる民法の諸規定について、近年、最高裁の判断が相次いで出されています。 とりわけ、女性の再婚期間制限に関しては、違憲判断が下され、これを受けて法改正が実現しました。 こうした動向は、国連による勧告や、主に女性のライフスタイルに関する自己決定権が重視されている時代の潮流をその背景とするものであり、法律家として今後も注視すべき重要な事柄であるといえます。 そこで、今回は、リプロダクティブ・ライツに関わる民法の諸規定を巡る近時の動向について考えます。 リプロダクティブ・ライツとはリプロダクティブ・ライツとは、性と生殖に関する健康を享受する権利を指します。 具体的には、全ての人々が、自分たちの子どもの数、出産間隔、時期を自ら選択するという自己決定権の一つです。 また、リプロダクティブ・ヘルスとは、人間の生殖システム及びその機能と活動において、生理的のみならず、社会的に健康であることを言います。 つまり、人々が安全かつ円満な性生活を営むこと、及び子どもを何時、何人持つかを決定する自由を持つことが含意されています。 こうした理解は、国連により1994年にカイロで開催された国際人口開発会議において採択されたものです。 これは、子どもを持たないライフスタイルを選択する人々も含めた、全ての個人が享受して然るべきものです。 具体的には、生殖年齢にあるカップルを対象とする家族計画や母子保健、人工妊娠中絶、不妊、及びジェンダーに基づく差別を受けないことを含む広い概念です。 CEDAWからの勧告国連のCEDAW 女子差別撤廃委員会 は2008年以降、CEDAW条約 女子差別撤廃条約 の批准国である日本に対して、民法改正について、選択的夫婦別姓、再婚禁止期間廃止、婚外子差別撤廃、婚姻年齢の男女の統一を求め、勧告をしています。 近時のものとして、2016年3月7日になされた第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解で示された勧告があります。 そのうち、リプロダクティブ・ライツを巡る法改正の新動向に関わる主な指摘として、以下のものが挙げられます。 勧告12 委員会は、既存の差別的な規定に関する委員会のこれまでの勧告への対応がなかったことを遺憾に思う。 委員会は特に以下について懸念する。 a 民法を改正し、女性の婚姻適齢を男性と同じ18歳に引き上げること、女性が婚姻前の姓を保持できるよう夫婦の氏の選択に関する法規定を改正すること、及び女性に対する離婚後の再婚禁止期間を全て廃止すること b 嫡出でない子の地位に関するすべての差別的規定を撤廃し、子とその母親が社会的な烙印と差別を受けないよう法による保護を確保すること このうち、勧告12 b については、法改正がなされ、問題は解消されています。 また、勧告13のうち a 及び b の一部についても善処されつつあるといえます。 家族等に関する国民の意識の多様化また、近年、夫が働き、女性は専ら家庭内において家事や育児に従事するというかつてあった家族像に関する国民の意識の変化、多様化という点も、考慮されるべきであるといえます。 そして、この点については、女性の再婚禁止期間制限を定める民法733条を違憲とする最高裁大法廷判決においても考慮されています。 後編では、今回みたリプロダクティブ・ライツを巡る動向を受けてなされた法的対応について、女性の再婚期間制限の改正を中心に検討したうえで、今後のあり方について考えます。
次の施策の基本的方向 具体的施策 担当府省 (1)リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識の浸透 リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識を広く社会に浸透させ、女性の生涯を通じた健康を支援するための取組の重要性についての認識を高めるという観点から、これらの問題について男女が共に高い関心を持ち、正しい知識・情報を得、認識を深めるための施策を推進する。 女性の健康問題への取組についての気運の醸成 女性は、妊娠や出産をする可能性があることもあり、ライフサイクルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。 こうした問題の重要性について男性を含め、広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組が行われるよう気運の醸成を図る。 また、女性の生涯を通じた健康支援の総合的な推進を図る視点から、保健所、市町村保健センターにおいて母子保健医療に携わる医師、保健婦、助産婦、看護婦等に対するリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研修等の充実を図る。 なお、飲酒、摂食障害及び薬物乱用などについては、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点から、健康被害に関する国民への正確な情報提供に努める。 喫煙については、健康被害についての十分な情報提供や、公共の場や職場での分煙の徹底及び効果の高い分煙についての知識の普及に努める。 学校における性教育の充実 学校においては、児童生徒の発達段階に応じた性に関する科学的知識や、生命尊重・人間尊重・男女平等の精神に基づく異性観、自ら考え判断する意思決定の能力を身に付け、望ましい行動を取れるようにするため、学校教育活動全体を通じて性教育の充実に努める。 また、そのため、教職員に対し研修会を実施するとともに、学校外の関係機関・地域社会や産婦人科医・助産婦・保健婦等との連携を図る。 性に関する学習機会の充実 社会教育においては、親及び青年等を対象とした学習機会の充実を図る中で、リプロダクティブ・ヘルス/ライツなどの性に関する学習内容を取り上げるよう努める。 また、青少年の性行動が低年齢化・活発化している状況や性情報が氾濫している状況を踏まえ、思春期の男女が性に関する正しい知識を容易に入手できるようにするための施策を推進する。 文部科学省、厚生労働省 (2)生涯を通じた女性の健康の保持増進対策の推進 リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点等を重視しつつ、女性がその健康状態に応じて的確に自己管理を行うことができるようにするための健康教育、相談体制を確立するとともに、思春期、妊娠・出産期、更年期、高齢期等各ステージに応じた課題に対応するための適切な体制を構築することにより、生涯を通じた女性の健康の保持増進を図る。 ア 生涯を通じた健康の管理・保持増進のための健康教育・相談支援等の充実• 女性の健康保持のための事業等の充実 避妊、妊娠、不妊、性感染症、婦人科的疾患、更年期障害その他女性の健康をめぐる様々な問題について、心の悩みも含め気軽に相談できる体制を整備する等、思春期、妊娠・出産期、更年期、高齢期など女性の生涯を通じた健康保持に関する事業を推進する。 女性に特有な健康状態あるいは女性に多く見られる疾病について、調査・研究を進める。 さらに、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ等の視点から、各種施策の実施状況及び社会情勢の変化等に応じて施策の充実のための総合的な検討を行う。 健康教育の推進 生涯を通じ、自己の健康を適切に管理・改善するための教育・学習を推進する。 学校においては、児童生徒が健康の大切さを認識できるようにするとともに、自己の健康を管理する資質や能力の基礎を培い、実践力を育成するため、健康教育の推進を図る。 地域においても、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点に立った健康に関する情報提供を行う。 イ 妊娠・出産期における女性の健康支援• 妊娠から出産までの一貫した母子保健サービスの提供 日常生活圏において、妊娠から出産まで一貫して、健康診査、保健指導・相談、医療援護等の医療サービスの提供等が受けられるよう施策の一層の推進を図る。 不妊専門相談サービス等の充実 子どもを持ちたいにもかかわらず不妊で悩む人々が、正しく適切な基礎情報をもとにその対応について自己決定ができるよう、不妊に関する多面的な相談・情報提供の充実を図る。 また、不妊治療に関する調査研究を推進する。 周産期医療の充実 母子の生命や身体への影響の大きい周産期において、妊娠・出産の安全性や快適さを確保するため、総合的な周産期医療サービスの充実、調査研究を推進する。 女性の主体的な避妊のための知識等の普及 人工妊娠中絶が女性の心身に及ぼす影響や安全な避妊についての知識の普及を図る。 また、女性が主体的に避妊を行うことができるようにするための避妊の知識の普及等の支援を行う。 ウ 成人期、高齢期等における女性の健康づくり支援• 成人期、高齢期の健康づくりの支援 女性が、長い人生を、寝たきりにならず健康に過ごすため、更年期障害の軽減、中高年期以降の肥満の予防等を重点とした健康診査、健康指導を行うとともに、健康的な食生活習慣の確立や適切な運動習慣の普及等を推進するほか、老後における健康保持のため健康教育、健康相談、健康診査、機能訓練及び訪問指導といった保健事業の推進を図る。 子宮がん、乳がん、骨粗しょう症等の予防対策の推進 女性に特有ながん(子宮がん、乳がん等)や骨粗しょう症を予防するため、正しい知識について普及啓発を図る。 なお、乳がんについては、自己検診が可能であることから、その方法について普及啓発を図る。 また、女性のニーズにも対応したスポーツ活動を日常的に行う場として期待される、総合型地域スポーツクラブの全国展開等を推進する。 文部科学省、厚生労働省、農林水産省 (3)女性の健康をおびやかす問題についての対策の推進 HIV/エイズや性感染症は、女性の健康に甚大な影響をもたらすものであり、正しい知識の普及啓発を始め総合的な対策を推進する。 また、薬物乱用は本人の身体及び精神の健康をむしばむのみならず、家庭崩壊や犯罪の原因となるなど安全な社会の基盤を揺るがしかねない行為であり、特に、妊娠中の母親の場合、胎児に悪影響を与えることが報告されている。 さらに、近年、少女による薬物乱用の増加が懸念されていることも踏まえ、対策の強化を図る。 ア HIV/エイズ、性感染症対策• 予防から治療までの総合的なHIV/エイズ対策の推進 国民がHIV/エイズに関する正しい知識を持って感染を予防し、患者・感染者に対して正しい理解に基づいて行動が取れるよう、積極的な啓発活動を行うとともに、医療・検査・相談体制の充実、研究開発の推進等、総合的な対策を推進する。 性感染症対策の推進 性感染症に関する正しい知識の普及啓発を行うとともに、検査の受診の推奨、相談指導、治療などの対策の充実を図る。 学校におけるHIV/エイズ、性感染症に関する教育の推進 学校においては、児童生徒が発達段階に応じた正しい知識を身につけ、適切な行動が取れるようにするため、HIV/エイズ教育を推進するとともに、性感染症についても、その予防方法を含めた教育を推進する。 イ 薬物乱用対策の推進• 乱用薬物の供給の遮断と需要の根絶 関係機関の緊密な連携の下に、薬物密輸・密売組織の壊滅や水際検挙の推進等による薬物の供給の遮断に努めるとともに、末端乱用者の取締りや広報啓発活動等を通じて需要の根絶を図っていく。 少女による薬物乱用対策の推進 覚せい剤等の乱用で補導される未成年者が増加傾向にあり、そのうち半数が少女による乱用となっている。 このため、薬物の供給源に対する取締り、薬物を乱用している少女の早期発見・補導、再乱用防止のための施策等を推進する。 薬物乱用防止教育の充実 児童生徒が薬物乱用と健康との関係について正しく理解し、生涯を通じて薬物を乱用しないよう、すべての高等学校及び中学校において、地域の実情に応じて小学校においても、薬物乱用防止広報車や薬物乱用防止キャラバンカーを活用しての薬物乱用防止教室を開催するなど、薬物乱用防止教育の充実を図る。 薬物乱用を許さない社会環境の形成 関係府省の緊密な連携の下に、積極的な広報・啓発活動を行うことにより、薬物乱用の影響に関する正しい知識を広く普及し、薬物乱用を許さない社会環境を形成する。 警察庁、文部科学省、厚生労働省.
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リプロダクティブ・ヘルス/ライツ reproductive health/rights 「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、女性が生涯にわたって身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを指しています。 このリプロダクティブ・ヘルスを享受する権利をリプロダクティブ・ライツといいます。 1994年にカイロで開かれた国際人口会議において、• 女性自らが妊孕性(にんようせい:妊娠する能力)を調整できること• すべての女性において安全な妊娠と出産が享受できること• すべての新生児が健全な小児期を享受できること• 性感染症の恐れなしに性的関係が持てること の4つを基本とした「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の概念が提唱されました。 性と生殖に関する健康、生命の安全を女性のライフサイクルを通して、権利として捉えようという概念です。 「私のからだは私のもの」「産む・産まないは女性の自己決定」ということばは、当事者である女性自らが自己決定することを表しています。 この権利の獲得は、安心して産める社会・産みたい社会を作るためのものです。 わが国では1999年に低用量経口避妊薬(ピル)が解禁されたことにより、従来の男性側からの一般的な避妊に頼っていた女性は、いつ何人子どもを産むかどうかの自己決定権を認められた形になりました。 リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、不妊、人工授精、代理出産、性感染症、HIV・エイズ、性暴力、買売春、中絶、中絶による刑法の堕胎罪などさまざまな問題を幅広く含んでいます。 男女が性の知識を正しく得ることが大切で、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点からの性教育を推進していく必要があります。
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