COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のアメリカ最大の感染拡大スポットとなっているニューヨーク州。 ロックダウン(外出制限)から1ヵ月半が経ち、新規症例数、総入院患者数(アメリカで入院患者=重症者)、死者数が日々減少し続けているのは、に書いた。 アメリカ全体では今も新型コロナウイルスの流行を表す曲線が上がり続けている中、ニューヨーク州でこのように減少しているのは、ロックダウンの成果と言えるだろう。 3月20日以降の曲線。 出典:クオモ知事の5月6日の会見のキャプチャ(以下同) しかし日々の新規で確認された症例の数や死者の数が少ないのか?と言えば、まだ驚くほど多い。 ニューヨーク州で新たに発表された症例数は、5月5日だけで2239件、うち重症の新規入院患者数は(3日間平均)601人、死者数は232人だ。 (一概に比較はできないが、ちなみに東京都内で同日発表された新規感染者数は38人、死者5人) 「ロックダウンなど、州としてできることは すべて手を尽くした。 しかしなぜ今もなお 新たに重症患者が毎日平均600件も出ているのか? この 新規感染者がどこから来ているのかを知りたい」 クオモ知事は6日の記者会見でこう述べた。 ニューヨークでは基本的に、コロナの軽症だとされる人は受診したりウイルス検査(日本でいうPCR検査)をしたりすることがなかなかできない。 よって感染者として確認された人というのはつまり、ある程度「重め」の症状がある人ということになる。 そこからさらに重い症状の人は入院治療となり、それ以外の人は自宅療養となる。 数字はクオモ州知事の発表やニューヨークタイムズなどを参照。 病院の集計がもとだが、コロナ診断されていない死者や在宅死などの関係で、数字には多少の差異がある。 クオモ知事は「次にやるべきことは、これまで着手していなかったカテゴリーの調査と数字による分析だ」と、先日州内の病院で患者についての調査を行ったことを発表した。 仮の調査でわかった最近(ロックダウンから1. 5ヵ月後)の傾向 州では3日間にわたり、113の病院で聞き取り調査を行った。 結果、患者1269人分の回答が得られた。 以下はあくまでも、現段階でわかった「仮の集計結果」として発表された。 一番多いのは61~70歳、次が71~80歳 以上の結果は、これまで専門家により発表されてきたものと大きな相違はない。 しかし、驚くべきことは以下の結果だ。 新たに判明した意外な結果。 感染者の多くはエッセンシャルワーカーではないかと言われてきたが、最近の傾向は必ずしもそうではない。 感染者の多くはエッセンシャルワーカーなどで通勤のため公共交通機関を頻繁に利用しているのではないかと言われてきたが、最近の傾向は必ずしもそうではない。 つまり、ロックダウン後の今も重症化する新規感染者の「仮の傾向」として以下のことがわかった。 働いていない• 主にエッセンシャルワーカーではない• (仕事などで)市内をあちこち行き来したり旅行をしていない• 主に自宅にいる• 主にニューヨーク市など州南部• (人種などが)マイノリティ• 主に年配者(51歳以上) 人々が外出自粛をしても多くの感染者が出続け、しかも最近は無職の在宅者に重傷者が多いというのは、おそらくちょっとした外出時に感染してしまったり、家族や友人が外出時に感染し無症状のまま、自宅待機している高齢者や持病のある人に移っているケースも多いのだろう。 また知事からはコメントがなかったが、この調査結果にエッセンシャルワーカーが入っていない理由について筆者が思ったのは、軽症のため受診できていないのではないかということ。 またはじめは軽症で自宅待機&療養をしていたが、突然症状が悪化し病院に運ばれるケースも多いのではないか。 どちらにせよ、私たちが引き続きやっていくべきことは、個々が基本に立ち戻ることしかないように思う。 言われ続けているようにマスクを着用し、手洗いを徹底し、社会的距離を確保し、家にいて、お年寄りや持病のある人たちに感染させぬということだ。 「今、我々の正面に立ちはだかっているのは、歴史的にも稀にみる困難へのチャレンジだ。 (Text by Kasumi Abe)無断転載禁止.
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2020年04月10日 23時00分 なぜ新型コロナウイルスの犠牲者は「圧倒的に黒人が多い」のか? 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 による死亡率は人種や民族により異なり、中でもヒスパニック・黒人の死亡率は白人・アジア系の倍近いと。 アメリカの全犠牲者のうち という現状について、公民権や人種差別などに関する権威として知られるニューヨーク・タイムズ紙の 氏が解説しています。 When Covid-19 first hit America hard last month, the narrative was that it was the great equalizer, that in such a divided nation, our shared humanity meant we would be equal in our suffering. But those of us who understand racial caste in America knew this could never be true. — Ida Bae Wells nhannahjones 「シカゴでは黒人の人口比率が30%にも関わらず、黒人の死亡者の割合は70%に達しています。 黒人がわずか14%しかいないミシガン州では陽性者の35%、死亡者の40%が黒人です。 黒人の人口比率がわずか26%のウィスコンシン州ミルウォーキー郡では、陽性者の50%、死者の81%が黒人でした」 In Milwaukee County, Wisconsin, black people account for 26 percent of the population, nearly half of its coronavirus cases and 81 percent of its deaths. — Ida Bae Wells nhannahjones 「アメリカでの感染の中心地であるニューヨーク市の人種に関するデータはありませんが、低所得の黒人やラテン系アメリカ人が密集する地域で最も感染が広がっていることがわかります」とジョーンズ氏は述べて、アメリカ国内では黒人の感染率が圧倒的に高いと指摘しました。 We don't have race data available yet for NYC, the epicenter of the American branch of the pandemic, but based on income data, we can see that it is hitting low-income black and brown neighborhoods the hardest. — Ida Bae Wells nhannahjones 黒人の感染者が多い原因は「黒人の経済的な状況にある」とジョーンズ氏は説明します。 「アメリカにおいて、COVID-19は最も弱者であるネイティブアメリカンと黒人の貧困層を攻撃しています。 住宅問題・雇用問題・健康問題など一連の問題が黒人の感染率・死亡率を引き上げています」 Covid-19 attacks groups who are most vulnerable and in America, no one is more vulnerable than poor black people and poor Native people. A host of issues ensured black people would contract and die from coronavirus at the highest rates, including housing, employment and heath. — Ida Bae Wells nhannahjones 「黒人のアメリカ人は白人よりもサービス業に就く割合がはるかに高い。 このことは、黒人は見知らぬ人と接触する機会が多く、社会的距離を取ったり、自宅作業をしたりすることができません」 Black Americans are far more likely to work in service sector jobs than white Americans, meaning they were far more likely to work jobs where they come in contact with a lot of strangers and where they could not social distance and work from home. — Ida Bae Wells nhannahjones 「黒人のアメリカ人は車を所有する割合が低く、仕事に行くために最も遠方から通勤し、公共交通機関を最も利用しています」とジョーンズ氏は述べて、長い通勤を強いられている黒人が移動中に感染している可能性を示唆しました。 Black Americans are the least likely to own a car, the travel the furthest distance to get to work, and are the most likely to take public transit, again, meaning they were mostly likely to be exposed to large numbers of strangers in cramped quarters. — Ida Bae Wells nhannahjones また、住宅を所有している黒人の割合は、アメリカの全人種の中で最も低いとのこと。 「単身者向けのアパートメントに住む人は、より多くの人と接触してしまう」と述べました。 Black Americans have the lowest homeownership rates, meaning that even in the places they are sheltering in place, they are coming in contact with far more people than those who live in single-family homes. — Ida Bae Wells nhannahjones また、COVID-19の致死率は持病によって大きく変動することが。 このことについて、ジョーンズ氏は「高血圧を抱える黒人の割合は白人の1. 4倍で、糖尿病になる割合は2倍、喘息の割合は3倍です」と黒人は持病を抱えている割合が高いというデータを挙げました。 Now, even as black Americans risked higher exposure, they already disproportionately suffer the comorbidities that make Covid-19 so deadly. — Ida Bae Wells nhannahjones アメリカでは、老人だけでなく しています。 これは、アメリカ以前にCOVID-19が流行した中国やイタリアでは見られなかった現象です。 この現象について、ジョーンズ氏は「黒人の若年層は、通常なら高齢者が患うような高血圧・糖尿病を抱えていることが原因」だと指摘しました。 Well, this makes sense. Black Americans health outcomes are so abysmal that younger black people are suffering from the diseases WE TYPICALLY SEE ONLY IN OLDER PEOPLE. — Ida Bae Wells nhannahjones 「これは人種問題ではなく、階級問題なのでは?」という意見について、ジョーンズ氏は「黒人の貧困率は最も高いものの、確かにほとんどの黒人は貧しくありません」と認めた上で、「階級・人種の両方が問題です」と主張。 Black Americans have the highest poverty rate in the nation, but most black people are not poor and now I am going to show you how these health effects transcend class. — Ida Bae Wells nhannahjones その論拠として、裕福な黒人でも貧しいアメリカ人よりも貧困者が多い地域に住む可能性が高いという事実を挙げました。 US Census data shows the affluent black people live in neighborhoods with higher concentrations of poverty than poor white Americans. — Ida Bae Wells nhannahjones 「こうした貧困な地域は、COVID-19の重症化と関連する基礎疾患を引き起こす有毒物質を排出する工業地帯に隣接している可能性が最も高い」 These neighborhoods are the most likely to be near toxic sites that cause some of the the underlying conditions that make Covid-19 so deadly. — Ida Bae Wells nhannahjones 「また、黒人はCOVID-19が重病化した際の治療を行える救命救急センターから遠く離れた地域に住んでいる可能性も最も高いといえます」 Black Americans are also the most likely to live in areas where they do not have easy access to the trauma centers needed to treat a deadly disease such as Covid-19. — Ida Bae Wells nhannahjones また、白人に比べて黒人の保険加入率は半分ほどである上、収入に対する支払い保険料の割合も高いとのこと。 Now, let's talk about insurance and whether black people can get access to Covid-19 tests,or see a doctor with early symptoms. Black Americans are almost twice as likely to be uninsured as white Americans and pay a greater share of their income on premiums — Ida Bae Wells nhannahjones アメリカの黒人の大多数が住む南部はアメリカの公的医療保険「 」の拡大を拒んでいるため、保険にまつわる状況はさらに悪いとジョーンズ氏は指摘。 黒人の人口比率が最も高いジョージア州・フロリダ州は外出禁止令を出しましたが、COVID-19の死亡率が高いそうです。 Two of the last states to implement stay-at-home orders -- GA and FL -- have largest share of black Americans. Deadly outbreaks are happening there. — Ida Bae Wells nhannahjones また、所得や教育水準に関係なく、黒人が受けられる医療のレベルは低いとのこと。 ジョーンズ氏は「黒人が受けている医療は介入・診療の回数が少ない上、質も低い」という研究結果を挙げています。 And, we also know that black Americans, regardless of income and education, receive inferior healthcare. They received fewer therapeutic interventions, fewer procedures and poorer-quality care than white Americans. — Ida Bae Wells nhannahjones さらに、ジョーンズ氏は、同じレベルの医療を必要とする黒人に費やされる資金が低いため、医療システムに関する予算配分を決定するアルゴリズムが「黒人は白人よりも健康である」というバイアスを持ってしまっているという研究を挙げて、「医療格差を是正するには現状よりも47%多く予算を費やす必要があります」と述べました。 Black Americans are sicker than white Americans, and yet on whole, and yet we spend less on their care, so much so that to remedy the disparity we would have to spend up to 47 percent more on their care. — Ida Bae Wells nhannahjones また、多くの医療従事者が「黒人と白人の間には生物学的な違いが存在し、黒人は痛みを感じにくい」が考えているそうで、黒人は白人とは違う扱いを受けているとジョーンズ氏は指摘。 暴力を経験する可能性が高く、食事の選択肢も少なく、収入も低く、医療機関へのアクセスも貧弱だという状況に立たされている黒人は、医療機関の中でも不平等な扱いを受けるのだと訴えました。 Many medical providers STILL believe that there are biological differences bw black and white Americans, that black people do not feel as much pain, and so black Americans are treated differently throughout our medical system, as documented — Ida Bae Wells nhannahjones 「アメリカ国内の171の大都市で貧困率や母子家庭の率などを調べた大規模調査によると、最も悪い環境で暮らす白人ですら、平均的な黒人よりもより良い生活をしていると判明しています」 "A study of the 171 largest U. cities found tht whites living in the worst conditions in urban areas — in terms of poverty rates and single-parent households — are nonetheless residing in circumstances much better than those of the average black person. " — Ida Bae Wells nhannahjones ジョーンズ氏は最後に、「この国は人種的なカースト制度の上に成り立っており、黒人として生きるというのは非常に困難です。 COVID-19は『全ての人種に平等』な病気ではなく、むしろ『既存の人種的不平等を反映する』病気です。 この不平等は多くの黒人の命を奪ってきたが、COVID-19はその傾向をさらに強めています」「この事実がもし受け入れられないと考えるならば、COVID-19の流行が終わったときにも同じ気持ちであるはずです。 私はジャーナリストとして、この社会が以上のような考えに向けて前進するように願っています」とコメントしました。 If it is unacceptable now, it has to be unacceptable when we conquer this virus. And I hope we as journalists, we as society, will stop putting forth notions that a force -- good or bad -- can be equal in a vastly unequal society. — Ida Bae Wells nhannahjones.
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だから土地の人に怖がられる』となる書名が醸し出す反中・嫌中の雰囲気が気になったからだ。 それにしても不思議に思ったのは、この本が北京の出版社から刊行され、しかも香港の中国系書店に置かれている点だった。 Oriani&R. Stagliano Chiarelettere 2008) の翻訳である。 筆者にはイタリア語が分からないので、翻訳の出来不出来は判断のしようがない。 が、なにはともあれページを追ってみた。 すると、中国人のイタリア社会への逞しくも凄まじいばかりの浸透ぶりが、溢れんばかりに綴られていた。 たとえば西北部の穀倉地帯として知られるピエモンテでのこと。 1980年代末に「紅稲」と呼ばれる雑稲が突然変異のように発生し、増殖をはじめ、稲の生産を急激に低下させた。 ところが紅稲は除草剤や除草機では駆除できない。 やはり1本1本を人の手で丁寧に抜き取るしかない。 だが、肝心の単純労働力は不足するばかり。 そこへ、農家の苦境をどこで聞きつけたのか、大量の中国人がやって来た。 イタリアで半世紀以上も昔に忘れ去られてしまった田の草取りの方法のままに、彼らは横一列に並んで前進し、紅稲を抜き取っていく。 <7、8月の灼熱の太陽を受け泥に足をとられながら、手足を虫に咬まれ、腰を曲げ、全神経を紅稲に集中する。 想像を超える体力と集中力、それに一定の植物学の知識が必要だ。 紅稲は一本残らず抜き取らなければ正常な稲に害が及ぶ。 抜くべきか残すべきかを知っておく必要がある>(同書より抜粋) 過酷な作業ながら収入は少ない。 だが喜んで中国人は請け負う。 ある日、田圃で中国人が脱水症状で倒れた。 彼らに「健康を考慮し、明日からは10時間以上の作業を禁ずる」と告げた翌日、雇い主が田圃に行ってみたが、誰もいない。 慌てて宿舎に駆けつけると、彼らは荷物をまとめて立ち去るところだった。 「毎日10時間しか働けないなんて、時間のムダだ」と、口々に言う。 雇い主は、「中国人は疲れることを知らない。 気が狂っている」と呆れ返る。 かくして同書は、「中国人がいないとイタリアの米作りは成り立たなくなってしまった」と嘆く。 「中国人って1カ所には留まらない」 農業に次いで、大理石の石工、ゴミ処理工場労働者、ソファー・皮革・衣料職人、バー、レストラン、床屋、中国産品の雑貨商などが中国人に依存するようになり、中国人はミラノを「イタリアにおける中国人の首都」にして、ありとあらゆる産業を蚕食していった。 その大部分は浙江省や福建省の出身者で、多くは非合法でイタリア入りしている。 教育程度は他国からの移民に比較して低く、それゆえイタリア社会に同化し難い。 苦労をものともせず、倹約に努めるという「美徳」を備えてはいるものの、それ以外に目立つことといえば博打、脱税、密輸、黒社会との繋がりなど……。 どれもこれも、胸を張って誇れるビジネスではない。 文化程度の低さは、勢い生きるためには手段を選ばないことに繋がる。 これがイタリアで増加一途の中国人の現実である。 イタリア人は彼らを通じて中国を知る。 だが中国人は、そんなことはお構いナシだ。 子供をイタリアの学校に通わせ、イタリア人として育てようとしている両親もいることはいるが、カネ儲けに邁進しているので、学校や地域社会で偏見に晒されている子供の苦衷なんぞを推し量る余裕も意識も持ち合わせてはいない。 同書の著者が、アンナと呼ばれる20歳の美しい中国娘に「夢は?」と尋ねる。 すると彼女はこう答える。 <夢! そんなもの知らないわ。 中国人って1カ所には留まらないものなの。 あっちがよければ、あっちに行くわ。 おカネの儲かり次第ってとこね。 この地に未練なんてないの。 もう14年は暮らしたけど、とどのつまりは行きずりのヒトなのネ……> この印象的なシーンで、同書は終わっている。 アンナも他の中国人と同様に「とどのつまりは行きずりのヒト」なのだろう。 だが、新型コロナウイルスが「行きずりのヒト」と共に世界中を動き回ったとするなら、イタリアのみならず人類にとっては、やはり危険過ぎるというものだ。 対外開放でカネ・ヒト・モノが流入 1975年の時点で、イタリアでは400人前後の中国系住民(旧華僑世代)が報告されているが、鄧小平が対外開放に踏み切った1978年末から7年ほどが過ぎた1986年には、1824人になっている。 以後9880人(1987年)、1万9237人(1990年)、2万2875人(1993年)へと急増していったが、彼らは新華僑世代である。 1990年代半ば、新華僑はイタリア在住外国人としては6番目の人口を擁していた。 1986年から1987年の間の1年間に見られた5倍以上の増加の主な要因は、1985年1月にイタリア・中国の両国間で締結(同年3月発効)された条約によって、イタリアへの中国資本の進出が促された点にある。 人民元(カネ)と共にヒト、つまり中国人労働者が大量にイタリアに送り込まれるようになった。 また中国料理・食品(モノ)への嗜好が高まったことも、中国人労働者(ヒト)の流入に拍車を掛けたはずだ。 カネ・ヒト・モノが中国からイタリアに向かって流れだしたのだ。 新華僑世代も旧華僑世代と同じように、同郷・同姓・同業などの関係をテコにして「会館」と呼ばれる相互扶助組織を持つようになる。 1980年代半ばから1990年代末までの10年ほどで十数個の相互扶助組織が生まれた。 これこそ新華僑世代増加の明らかな証拠だろう。 商品の発送元は温州市 彼らは強固な団結力をテコに、自らの生活空間の拡大を目指す。 たとえば、2010年前後のローマの商業地区「エスクィリーノ地区」には、衣料品、靴、皮革製品などを中心に2000軒を超える店舗がひしめいていたが、その半数は中国人業者が占めていた。 現在はそれから10年ほどが過ぎているから、その数はさらに増したと考えて間違いないだろう。 彼らが扱う商品の発送元は、浙江省温州市である。 温州は、遥か昔の元代(1271~1368年)から中国における日用雑貨の一大拠点として知られる。 新型コロナウイルスを巡っては、2月初旬に湖北省武漢市に続いて封鎖措置を受けた。 ローマの商業地区と新型コロナウイルスによって危機的レベルにまで汚染された中国の都市がモノとヒトで日常的に結ばれていたことを考えれば、イタリアの惨状が納得できるはずだ。 友人のイギリス人は、感染拡大の背景にはイタリア人の生活様式もあると指摘する。 イタリア人はオリーブやトマトといった健康的な食生活によって、肥満の多い欧州先進国においては珍しいほどに長寿国で、高齢者が多い。 周辺先進国に比べて核家族化が進んでおらず、3世代同居も珍しくない。 特に高齢者には敬虔なカトリック信者が多く、教会でお椀を共有してワインを飲む習慣があるという。 中国人の数は40万人超 いま手元にある『海外僑情観察 2014-2015』(《海外僑情観察》編委会編 曁南大學出版社 2015年)を参考にし、近年のイタリアにおける中国人の状況を素描しておきたい。 中国人の人口は全人口の0. 49%で30万4768人(2013年1月1日現在)。 これに非合法入国者を加えると、実際は40万人超ではないか。 中国系企業が集中している地方は西北部のロンバルディア(1400社)、中部のトスカーナ(1万1800社)、東北部のヴェネト(8000社)、北部から中部に広がるエミリア・ロマーニャ(6800社)であり、貿易を主にして2万5000社前後。 他にアパレルや製靴関係が1万8200社、レストラン・バー・ホテルなどが1万3700社を数える。 「イタリアにおける中国人の首都」であるミラノを見ると、イタリアが2008年のリーマンショック以後、経済危機に陥ったにもかかわらず、中国系企業、殊に食品関連は急増。 同市で外国からの移住者が経営する600社のうち、中国人移住者のそれは17%を占めている。 アパレル産業の中心でもある中部のプラトでは、人口20万人余のうちの3万4000人を中国人が占めている。 じつに7人弱に1人だから、一大勢力だ。 彼らは有名ブランドの下請けから始まり、いまや伝統的な家内工業的システムを駆逐し、新たなビジネス・モデルを構築しつつあるという。 イタリアにおける中国系企業の小売り最大手は「欧売集団」で、イタリア全土で34軒のスーパーマーケットを経営しているという。 「ACミラン」の経営にも中国の影 「イタリアにおける中国人の首都」ミラノの象徴といえば名門サッカーチームの「ACミラン」だが、ここの経営にも中国人が大きく関係していた。 2014-15年シーズン終了後、ACミランのオーナーだったシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相は、タイの青年実業家「Mr. Bee」ことビー・テチャウボンとの間で売却交渉を始め、2015年5月にACミラン株の48%売却で合意した。 Beeは、タイの「康蒂集団」と『星暹日報』の両社を傘下に置くサダウット・テチャブーン氏の長男である。 サダウット・テチャブーンは華人2代目で、華字名は鄭芷蓀。 父親の鄭継烈が起こした建設業を引き継ぎ、1990年代初頭から積極経営に転じ、タイ国内のみならず中国やオーストラリアでの不動産開発やホテル経営にも乗り出した。 その後、タイの老舗華字紙『星暹日報』を買収し、2013年11月には広東省政府系の「南方報業伝媒集団」からの資本参加を得て、紙面も一新。 それまでの繁体字からタイの華字紙としては初の簡体字横組みとし、電子版の配信、中国版Twitter「微博」の活用なども始めた。 当然のように論調にも南方報業伝媒集団の強い影響が感じられる。 さて、アブダビの資産管理会社「ADS Securities」と中国政府幹部が資金源と伝えられていたMr. Beeだが、ACミラン買収資金に苦慮していた。 そこで彼が資金援助を申し入れた相手が、「阿巴里里集団」を率いる馬雲(ジャック・マー)であった。 2016年8月、ACミランは中国企業のコンソーシアム(共同事業体)に約832億円(株式の99. 93%)で売却され、2017年4月にベルルスコーニ元首相はACミラン経営から撤退した。 その後、2017-18年シーズン途中で中国系オーナーの債務不履行が原因で、最終的にはアメリカのヘッジ・ファンドが新オーナーに就任した。 華僑・華人の本質は移動 こう見てくると、「アンナと呼ばれる20歳の美しい中国娘」から現在の中国を代表する企業家・資産家の馬雲まで、じつに多くの中国人がイタリアと関わりを持っていることが分かるだろう。 同時に対外開放以後に顕著になった中国人の「移動」という現象が、合法・非合法に限らず世界各地の社会に様々な影響を与えていることも確かだ。 武漢から感染が始まった新型コロナウイルスもまた、その一環と考えるべきではないか。 華僑・華人研究の第一人者である陳碧笙は、中国が開放政策に踏み切った直後に『世界華僑華人簡史』(厦門大学出版社 1991年)を出版しているが、同書で彼は、帝国主義勢力が植民地開発のために奴隷以下の条件で中国人労働者を連れ出した、つまり華僑・華人は帝国主義の犠牲者だという従来からの見解を否定した。 そして、華僑・華人の本質は、 「歴史的にも現状からみても、中華民族の海外への大移動にある。 北から南へ、大陸から海洋へ、経済水準の低いところから高いところへと、南宋から現代まで移動が停止することはなかった。 時代を重ねるごとに数を増し、今後はさらに止むことなく移動は続く」 との考えを提示した。 新型コロナウイルスを「毛沢東の怨念」と見做すのは、筆者の偏見だろうか。 樋泉克夫 愛知県立大学名誉教授。 1947年生れ。 98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。 『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。 関連記事• (2020年3月18日より転載).
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