お酒のおいしい季節。 でも今回はちょっと耳の痛い話…アルコール依存症についてです。 お酒をよく飲む人のほとんどは、自分がアルコール依存状態にあるとは思っていないはずです。 自分は違う…そう思っていたとしたら、要注意。 アルコール依存症への第一歩は、自分は違うという思い込みから始まります。 「自分はアルコールに強い」と思っている人は、とくに注意が必要です。 アルコールに強いというのは、肝臓でアルコールが分解されるときに発生する有害物質アセトアルデヒドの処理能力が高いという意味。 つまり、悪酔いしにくい体質のことです。 でも、そのこととアルコールが脳やからだに与える影響とは、まったく別のもの。 酒気帯び運転によくみられる、「これくらい平気だ」という気持ちが、すでに危険な状態なのです。 からだへの影響についてはWHO(世界保健機関)が、アルコールを原因とする病気が60以上あることを指摘しています。 実際に、アルコール依存症を放置していると、50歳代前半で死亡するケースが目立つほどです。 自分の健康をそこなうだけでなく、仕事を失ったり、家庭崩壊をまねく例も少なくありません。 お酒が好きでよく飲むという方ほど、アルコール依存症の怖さを知っておくことが大切です。 アルコール依存症の患者数は、約80万人とされています。 しかし、体調をかなり悪化させたり、仕事などでトラブルを起こした人以外はほとんど治療を受けていないため、実際の患者数はその数倍はいると推定されています。 これは有害物質のアセトアルデヒドではなく、アルコールそのものが脳の働きを麻痺させ、判断を鈍らせるためです。 また、アルコールに強い人は、自分の酔いの程度を低く評価する傾向があることもわかっています。 離脱症状に特徴が アルコール依存症の典型的な症状…それは体内のアルコール量が減ったときに起こる「離脱(禁断)症状」です。 手のふるえ、悪寒、寝汗、イライラ、不安、焦燥感、睡眠障害などがみられます。 こうした症状は、アルコールを飲むと一時的に治まります。 そのため、また飲むという悪循環の原因ともなります。 人によっては吐き気や下痢、胃痛、動悸、高血圧といった症状もみられます。 さらに進むと、うつ状態におちいり、ないものが見える(幻視)、ない声や音が聞こえる(幻聴)といった症状や、記憶障害なども起こすようになり、仕事や家庭生活にも大きな支障を及ぼすようになります。 こうした不快な症状は、なぜ起こるのでしょうか。 それは私たちの脳が、アルコールの影響を受けやすいためです。 アルコールを飲むと、私たちの脳の働きが変化し、緊張がゆるんだり、いい気持ちになったり、気が大きくなったりします。 それが「酔う」ということですが、普通は脳への影響は数時間程度で治まります。 ところが、毎日のようにアルコールを多く飲んでいると、脳はその状態を「通常」だと判断するようになります。 すると反対に、体内のアルコール濃度が低くなったときに対応できなくなり、さまざまな不快な症状があらわれるのです。 離脱症状がみられたら、すでにアルコール依存症になっているということができます。 できればそうなる前に、予防したいものです。 こんな経験はありませんか アルコール依存症は、長いあいだの飲酒習慣が原因で起こる生活習慣病の1つです。 一般に、1日平均でビール1500ml(ミリリットル)、日本酒なら3合程度を飲み続けると、10~20年でアルコール依存症になるといわれています(高齢者と女性は、半分程度の飲酒量でもなりやすい)。 しかし、飲酒量や飲酒回数は自分ではなかなか把握できません。 そこで、 次のような経験がないかチェックしてみましょう。 (1)家族や友人から「飲みすぎ」といわれたことがある。 (2)飲んだときの会話や行動をおぼえていないことがある。 (3)体調が悪いときも飲んでしまう。 (4)仕事中や昼間でも「飲みたい」と強く思うことがある。 (5)約束を忘れたり、仕事でうっかりミスをした。 (WHOの診断基準、その他から作成) 1 ~ 4 はいずれも、自分でアルコール摂取をコントロールできない状態を示しています。 5 はアルコールが人間関係や仕事に悪影響を及ぼす典型的な例です。 これらのことが、合計で月に2~3回以上ある場合は、アルコール依存症を疑い、早めに受診しましょう。 アルコール依存症は、自己流で節酒をしても改善はむずかしく、断酒をはじめとした専門的な治療が必要です。 きちんと医師の指導を受けることが大切です。 高齢者と若い女性はとくに注意を 最近の傾向として、高齢者(60歳以上)と若い女性にアルコール依存症が急増しています。 高齢者の場合、リタイア後の孤立感や時間をもてあますなどの理由から飲酒を続け、若いころよりアルコールに弱くなっていることもあって、短期間でアルコール依存症になるケースがみられます。 また、20歳代前半の女性の場合、飲酒率が90%に近く、すでに中年男性を上回っています。 女性はストレスなどが原因で飲酒を続けることが多く、アルコールの影響も受けやすいため、30歳代の若さでアルコール依存症になるケースが増えています。 不安やストレスの解消をアルコールに頼るのはとても危険です。 趣味をもったり、地域活動に参加するなど、別の方法を考えるようにしましょう。 早期受診と予防のために アルコール依存症はそれ自体でも危険な病気ですが、もう一つの怖さは、長期にわたる飲酒が原因の さまざまな臓器障害の併発が多いことです。 もっともよくみられるのは肝機能障害で、アルコール性脂肪肝はその典型ですが、致死率の高いアルコール性肝炎(重症型)を起こしていることもあります。 また、アルコール性膵炎(すいえん)も多くみられます。 膵炎を起こすと、胃のあたりや背中に強い痛みを生じるほか、慢性化するとインスリンの分泌が悪化して糖尿病を併発する可能性も高くなります。 アルコールには脳の神経細胞をこわす作用もあるため、記憶障害などの認知症を起こしていることもあります。 脳の神経細胞の破壊が進むと、治療をしても回復がむずかしくなります。 アルコールがあまり強くない人が飲み続けている場合には、食道がんや口腔がんの発症率が高くなることも知られています(アルコールを飲むと顔が赤くなる人はリスクが高いとされています)。 こうした多くの病気の早期発見のためにも、アルコールが好きでよく飲むという人は、定期的に受診して検査を受けることが大切です。 専門の医療機関がわからないときは、それぞれの地域にある精神保健福祉センターや保健所に相談してみましょう。 予防面では、前章で紹介した5つのチェックのほか、アルコールの飲み方の変化にも注意が必要です。 「飲酒量が増えた、飲むスピードが速くなった、二日酔いが多くなった、飲酒中に口論などトラブルを起こした」といった面ことがみられたら要注意。 なんらかの理由でアルコールへの依存度が高まり、コントロールがきかなくなりつつある状態だからです。 本人はもちろんですが、家族などのまわりの人がこうした初期段階での変化に気づき、適切な対応(断酒、早期受診)ができれば、アルコール依存症の予防につながります。 専門医の管理の下、入院してきちんとした治療を受けるようにしましょう。 自助グループに参加する アルコール依存症は治療後も、断酒を続けるなどの生活改善が必要です。 個人では続けることが困難なため、各地域にアルコール依存症の患者さんたちが運営する「断酒会」などの自助グループができています。 医師に紹介してもらうか、インターネットなどで探し、自助グループに参加することも考慮しましょう。
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お酒のおいしい季節。 でも今回はちょっと耳の痛い話…アルコール依存症についてです。 お酒をよく飲む人のほとんどは、自分がアルコール依存状態にあるとは思っていないはずです。 自分は違う…そう思っていたとしたら、要注意。 アルコール依存症への第一歩は、自分は違うという思い込みから始まります。 「自分はアルコールに強い」と思っている人は、とくに注意が必要です。 アルコールに強いというのは、肝臓でアルコールが分解されるときに発生する有害物質アセトアルデヒドの処理能力が高いという意味。 つまり、悪酔いしにくい体質のことです。 でも、そのこととアルコールが脳やからだに与える影響とは、まったく別のもの。 酒気帯び運転によくみられる、「これくらい平気だ」という気持ちが、すでに危険な状態なのです。 からだへの影響についてはWHO(世界保健機関)が、アルコールを原因とする病気が60以上あることを指摘しています。 実際に、アルコール依存症を放置していると、50歳代前半で死亡するケースが目立つほどです。 自分の健康をそこなうだけでなく、仕事を失ったり、家庭崩壊をまねく例も少なくありません。 お酒が好きでよく飲むという方ほど、アルコール依存症の怖さを知っておくことが大切です。 アルコール依存症の患者数は、約80万人とされています。 しかし、体調をかなり悪化させたり、仕事などでトラブルを起こした人以外はほとんど治療を受けていないため、実際の患者数はその数倍はいると推定されています。 これは有害物質のアセトアルデヒドではなく、アルコールそのものが脳の働きを麻痺させ、判断を鈍らせるためです。 また、アルコールに強い人は、自分の酔いの程度を低く評価する傾向があることもわかっています。 離脱症状に特徴が アルコール依存症の典型的な症状…それは体内のアルコール量が減ったときに起こる「離脱(禁断)症状」です。 手のふるえ、悪寒、寝汗、イライラ、不安、焦燥感、睡眠障害などがみられます。 こうした症状は、アルコールを飲むと一時的に治まります。 そのため、また飲むという悪循環の原因ともなります。 人によっては吐き気や下痢、胃痛、動悸、高血圧といった症状もみられます。 さらに進むと、うつ状態におちいり、ないものが見える(幻視)、ない声や音が聞こえる(幻聴)といった症状や、記憶障害なども起こすようになり、仕事や家庭生活にも大きな支障を及ぼすようになります。 こうした不快な症状は、なぜ起こるのでしょうか。 それは私たちの脳が、アルコールの影響を受けやすいためです。 アルコールを飲むと、私たちの脳の働きが変化し、緊張がゆるんだり、いい気持ちになったり、気が大きくなったりします。 それが「酔う」ということですが、普通は脳への影響は数時間程度で治まります。 ところが、毎日のようにアルコールを多く飲んでいると、脳はその状態を「通常」だと判断するようになります。 すると反対に、体内のアルコール濃度が低くなったときに対応できなくなり、さまざまな不快な症状があらわれるのです。 離脱症状がみられたら、すでにアルコール依存症になっているということができます。 できればそうなる前に、予防したいものです。 こんな経験はありませんか アルコール依存症は、長いあいだの飲酒習慣が原因で起こる生活習慣病の1つです。 一般に、1日平均でビール1500ml(ミリリットル)、日本酒なら3合程度を飲み続けると、10~20年でアルコール依存症になるといわれています(高齢者と女性は、半分程度の飲酒量でもなりやすい)。 しかし、飲酒量や飲酒回数は自分ではなかなか把握できません。 そこで、 次のような経験がないかチェックしてみましょう。 (1)家族や友人から「飲みすぎ」といわれたことがある。 (2)飲んだときの会話や行動をおぼえていないことがある。 (3)体調が悪いときも飲んでしまう。 (4)仕事中や昼間でも「飲みたい」と強く思うことがある。 (5)約束を忘れたり、仕事でうっかりミスをした。 (WHOの診断基準、その他から作成) 1 ~ 4 はいずれも、自分でアルコール摂取をコントロールできない状態を示しています。 5 はアルコールが人間関係や仕事に悪影響を及ぼす典型的な例です。 これらのことが、合計で月に2~3回以上ある場合は、アルコール依存症を疑い、早めに受診しましょう。 アルコール依存症は、自己流で節酒をしても改善はむずかしく、断酒をはじめとした専門的な治療が必要です。 きちんと医師の指導を受けることが大切です。 高齢者と若い女性はとくに注意を 最近の傾向として、高齢者(60歳以上)と若い女性にアルコール依存症が急増しています。 高齢者の場合、リタイア後の孤立感や時間をもてあますなどの理由から飲酒を続け、若いころよりアルコールに弱くなっていることもあって、短期間でアルコール依存症になるケースがみられます。 また、20歳代前半の女性の場合、飲酒率が90%に近く、すでに中年男性を上回っています。 女性はストレスなどが原因で飲酒を続けることが多く、アルコールの影響も受けやすいため、30歳代の若さでアルコール依存症になるケースが増えています。 不安やストレスの解消をアルコールに頼るのはとても危険です。 趣味をもったり、地域活動に参加するなど、別の方法を考えるようにしましょう。 早期受診と予防のために アルコール依存症はそれ自体でも危険な病気ですが、もう一つの怖さは、長期にわたる飲酒が原因の さまざまな臓器障害の併発が多いことです。 もっともよくみられるのは肝機能障害で、アルコール性脂肪肝はその典型ですが、致死率の高いアルコール性肝炎(重症型)を起こしていることもあります。 また、アルコール性膵炎(すいえん)も多くみられます。 膵炎を起こすと、胃のあたりや背中に強い痛みを生じるほか、慢性化するとインスリンの分泌が悪化して糖尿病を併発する可能性も高くなります。 アルコールには脳の神経細胞をこわす作用もあるため、記憶障害などの認知症を起こしていることもあります。 脳の神経細胞の破壊が進むと、治療をしても回復がむずかしくなります。 アルコールがあまり強くない人が飲み続けている場合には、食道がんや口腔がんの発症率が高くなることも知られています(アルコールを飲むと顔が赤くなる人はリスクが高いとされています)。 こうした多くの病気の早期発見のためにも、アルコールが好きでよく飲むという人は、定期的に受診して検査を受けることが大切です。 専門の医療機関がわからないときは、それぞれの地域にある精神保健福祉センターや保健所に相談してみましょう。 予防面では、前章で紹介した5つのチェックのほか、アルコールの飲み方の変化にも注意が必要です。 「飲酒量が増えた、飲むスピードが速くなった、二日酔いが多くなった、飲酒中に口論などトラブルを起こした」といった面ことがみられたら要注意。 なんらかの理由でアルコールへの依存度が高まり、コントロールがきかなくなりつつある状態だからです。 本人はもちろんですが、家族などのまわりの人がこうした初期段階での変化に気づき、適切な対応(断酒、早期受診)ができれば、アルコール依存症の予防につながります。 専門医の管理の下、入院してきちんとした治療を受けるようにしましょう。 自助グループに参加する アルコール依存症は治療後も、断酒を続けるなどの生活改善が必要です。 個人では続けることが困難なため、各地域にアルコール依存症の患者さんたちが運営する「断酒会」などの自助グループができています。 医師に紹介してもらうか、インターネットなどで探し、自助グループに参加することも考慮しましょう。
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この状態でさらに飲酒を続けると、少しでも酒を口にすると自分の意思が働かなくなり、ほどよいところで止められなくなるアルコール依存症になってしまいます。 このような状態に陥ると、妻や夫から「離婚する」、職場で「退職してもらう」、周囲から「命にかかわる」などといわれても飲酒をやめられず、ほぼ毎日数時間おきに飲むようになります。 そして、さらに病気が進行すると、目を覚ますと飲み始め、酔うと眠り、再び目覚めると飲み始めるという、連続飲酒を起こすようになります。 なお、日本では、1日の平均飲酒量が「6ドリンクを超える」のが多量飲酒とされ(右図)、この量になるとアルコール依存症の危険性が高まるとされています。 患者さん本人ばかりでなく周囲の人も巻き込んでしまう アルコール依存症は、身体、仕事、家庭などへ悪影響をもたらします。 家族は経済的問題、別居・離婚など深刻な問題に直面することになりかねず、子供は親の暴言や暴力、育児放棄により健全な心身の発達が損なわれる可能性があります。 職場の上司や同僚には、欠勤や仕事上のトラブルで迷惑をかけ、さらには飲酒運転などによる重大事故の発生などにつながる恐れもあります。 ところが、患者さんはこのような飲酒関連の問題が起きても、家族や周囲の人の注意や説得を聞こうとしません。 これは、アルコール依存症になると、問題が起きても自分に都合よく考えて反省しなくなるためです。 また、酒を飲んで幸せに暮らしている自分をとがめる周囲に反発を感じ、依存症の悪影響を否認するようになったり、自分では飲酒の問題にうすうす気づいていながら、周囲に助けを求めなくなるようになります。 アルコール離脱症状がさらなる飲酒の原因に アルコール依存症の患者さんでは、体内のアルコール濃度が下がってくると、さまざまな自律神経症状や情緒障害、手の震え、幻覚などの症状がみられるようになります。 これを「離脱症状」といいますが、起きる時期によって、早期離脱症状と後期離脱症状に分けられています。 アルコール依存症による離脱症状.
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